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 合計三十二本を手にして、マサジはぺこりと頭を下げた。

「ところで、」

 博士が少し済まなそうな声を出した。

「わたくしはまた所用ができ、しばらく仙台から離れることとなったのです」

「忙しいのは、いいことだっちゃ」

 半年離れ、三月ほど戻り、また離れるのはこれまでもそうだった。

「仕事での旅は、くたびれることもありますが、多くの方とお話しする機会も持つことができ、新たな見識を広げることもできて楽しいものです。

 仙台のメダル調査、いまだ途中であることが惜しいのですが、ふたたびお目にかかるまでお元気でいてください」

「博士も、まめでいてけさい」

 握手をして、さらに博士は申した。

「君のように、日本国中どこに行っても勤労しながら勉強をする子供ばかりです。くじけずにどうぞ励んでください。

 ねずみの名前を教えてくださって、ありがとうございます。君によいお知り合いの方がいらっしゃることがわかって、安心です」

 マサジは、博士が手品のみならず、戦車までも動かすメダルの力などという作り話までこしらえて自分に鉛筆と励ましの言葉を贈り続けてくれたことに感謝していた。

「どこさ行くことになったのすか」

「北海道です」

「寒いんだべな。気をつけらいん。俺は丈夫だから心配ねえけっとも」

 周りを囲むマネキンたちが、ぴったりそろった《拍手》をくれた。

 思えばこのマネキンたちも、子供相手に芸が細かく、実にご苦労なことだ。

 こうしてまわりが賑やかなのはありがたいことなのである。いつも自分ひとりだけで奮闘している訳ではないと思えてくる。

「あっ」

 まだ終電の時間には遠い。

 電車のライトに追い越されて思わず立ち止まって見上げると、

「秀真さん」

 先ほどまで小鳩堂で一緒だった小父さんたちの姿を窓の向こうにみとめた。

「なんだべ、また辻さん《《仕上げる》》気かや」

 追いかけてみたいけれど、もう帰らねばならない。叔父さん(おんつぁん)が戻っているかもしれない。

 楽しい酒がついつい深くなってひどく酔っていたら、介抱しなければならないだろう。


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