ねずみたち
「どうしましたか」
浮かび上がったのは、浮かれて踊る灰色ねずみの兄弟である。
「タロウねずみと、ジロウねずみに似ているっちゃ」
「名前があるのですか」
「知り合いが何人かで紙芝居にして聞かせていたのや。ほら、あの例の辻さんも、話に合わせてバイオリン弾いてくれたんだど。
なんだべ、房枝先生に絵がそっくりだ。誰か電車の中でねずみのこと考えていたんだべか。
知らねえ誰か、ではねえかも知れねえな。この話をこさえたのは、電車の車掌してる人だものな。仕事中にぼんやりしてたら、だめだべしたな」
そのときとても楽しそうな顔をしていて話していたのを、博士はたいそう喜んでいたのだが、当人は知らぬ。
「こんなところにも辻さんのお名前が。世の中は狭いですね。
このねずみさんたち、紙芝居をご覧になった方が思い出されていたんでしょうか。それとも、紙芝居に携わった方が創作の構想を、電車の中でされていたのでしょうか。
お話を作った方は、車掌をしておられるのですね。ひょっとしたら、お目にかかったことがあるかもしれない。職務中に構想を練ることは考えにくいでしょうが、ふとしたはずみに、ねずみさんの顔が浮かんだのかもしれませんね。
すばらしい。そうですか。ねずみさんたちに、お名前があったのですか。
名前があるということは、たいそう大事にされているねずみさんたちということですね」
鉛筆五本である。