戦車を見たことがある
トン、と、ほかのメダルと同じように博士は軽く叩いたのだ。
強い光が発せられ、マネキンたちが肩を組んでいっそう囲みかたを厳重にし、その光が漏れて人を寄せぬようにした。
同じくらいの輝きを見たことがある。大当たりである。蜜柑や運動靴など浮かんでこない。映画のように、背広姿の勤め人やら爺様婆様、女学生など様々な人が楽しそうな顔もそうでない顔も行きかい、いつまでも消えない。
「上物です。特上としても良いかもしれない」
博士が台から木槌を離すと、光は消えた。
鉛筆ひと箱も嬉しいが、マサジはこの上物のメダルからこぼれてくる鮮やかな幻灯が見られるのも心のどこかで期待していた。
この人は本当にすごい奇術師なのだとこのような時に思った。
毎日働いて、学校へ行って、その繰り返しより他に無い自分の、ほんの少し楽しみがあるとすれば、本屋での盗み読みと、辻氏らとの交流のほかは、ここなのだ。
「これはきっと、戦車でも動くことでしょう」
「んだのすか」
戦車とはまた、話が大きなことだ。大きな話を聞くのは楽しくなる。
「戦車、見たことあっと」
陸軍記念日に市内でお披露目されていたのを間近で見ることができた。戦車が好きな子供は少なくない。絵を何枚も描いていた級友がいた。
「あんな重いものだどもや、これ一枚では難しいんでねえのすか」
「動きます」
博士はきっぱりと申した。
「ですから、特に扱いを厳重にしなければなりません。
大きすぎる力は、事故の元です」
そうしてそのメダルのみを、内側にびろうどが貼られた特別なブリキの箱に仕舞った。
「さて、残り一枚ですが、これは先週水曜の午前十一時台ですね」
これは普通のメダルであった。
しかし、浮かび上がった幻灯を見て、マサジは思わずあっ、と声を上げた。