婦人たちは気を揉む
「今晩はマサジくん、秀真さんに会えたんだがら、きっとあのこと、話したんだべね」
「私、どうすればいいかしら」
沈みがちなところに、若先生が申した。
「マサジくんが自分で和久里さん見つけたんだから。ここからは姉弟の問題だべ」
「ですけどねえ」
房枝くんは、一昨年三月の大地震と大海嘯の折に、混乱した陸路を避け、有志数名で船に救援物資を積み込み、現地へ赴いた。大人たちが荒れ果てた村一帯を片付け、たて直す間に子供たちを預かる臨時保育所の一員となることが決まっていた。
その時、同乗していた面々の中に和久里嬢がいた。船が出ることを知り、乗員に空きがあれば郷里へ戻りたいと駆けこんできたのである。
現地に着いて惨状を目の当たりにしてからは船の中で抱いていた不安も計画も吹き飛んだ。不衛生、もとより足りない栄養、この事態に乗じた者に対する防犯、物も食糧も人の手も限られていた。
東京から届いた物資の中にあった、見たこともないようなハイカラな人形を、ある子は決して離さず、誰にも抱かせなかった。本人はにこりともしていなかった。
その子の手を引いて、家を流された家族が何組かまとまって暮らしている家へ送り迎えをしていたのがマサジであった。
鈴くんは房枝くんや和久里嬢が奮闘している間、仙台に残り何をしていたかと申すと、例の小鳩堂が巻き込まれた火災の後始末の手伝いに奔走していたのだった。
あの火災も三月、大海嘯の数日後であった。新聞が報じる大海嘯の様子に胸を痛めながら、目の前には焼け落ちた町があった。ひどいことばかりが起こった。
それからマサジが仙台へ移り、辻氏、山本氏に小英雄と持ち上げられて、その小鳩堂の縁で房枝くんと再会したのが年の暮れ。
「その時に、誰にも言わない約束で和久里さんのことを相談されたんですわ」
秀真くんらに話すより前に、マサジは房枝くんに打ち明けていたのであった。
房枝くんは何より、あの時より別れたきりのマサジが先生、と、自分を頼っていたことに驚いていた。
「最初、お兄様にも鈴ちゃんにも話しませんでしたわね」
鈴くんはうなずいた。けれどそれがわだかまりとなる間柄ではない。若先生も同様だ。
「病院の用事で、私もこれで様々な場所へ出入りしますから、和久里さんがどちらにいらっしゃるか、気を付けておりました。
ありもしない会社勤めをご家族に伝えていた。なにか事情のあるお仕事をされているに違いありませんから」
それでも消息はつかめずに一年以上が過ぎた。
ところがつい先週、思わぬ出来事があった。




