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都市vs都市2

ーー


俺こと俺F12は、シャトルテゴラインの儀式室の天井パイプの隙間から、不気味な手術台に横たわるポレポレを見つめていた。


リランドラが前半分と後ろ半分に分割された戦いの際、俺は密かにシャトルテゴラインの外壁に張り付いた。小さな体を生かして、内部に潜り込み、ネズミやゴキブリのように這い回ってポレポレの姿を探した。


そして、今ようやく眼下に彼女を見つけた。


が、明らかにまずい状況だ。しかも、俺本体と違って俺の頭脳の計算速度はたかが知れている。俺は数秒間考えこみ、救出作戦を立てたが、実行に移す前にポレポレが手術台の上でいった。


〝おはようございます。アドキールお姉様〟


その電波的口調はポレポレのものではなかった。


アドキールと呼ばれた白髪を持つ特別な服飾族の指示のもと、ポレポレの外装が服飾族のそれに交換された。なめらかな手足、黒い肌、能面のような白い顔。元がポレポレだとは、もう誰にもわからない。


元ポレポレが手術台から立ち上がると、まわりの服飾族が一斉に拍手した。「マテゴニ!」と誰かが叫び、ポレポレことマテゴニが手を振る。


俺は絶望感に打ちのめされながら、外の空気を吸うために配管を這い回り、シャトルテゴラインの装甲に空いた廃液排出口から顔を出した。


俺の入っているパイプが小さく揺れる。


シャトルテゴラインは、いままさに捕獲したリランドラの前半分を咀嚼中なのだ。


何十本という巨大義肢がリランドラをガッチリと固定し、数十メートルを超える口でかぶりついている。口の中で、解体用の歯車やのこぎりが頑張っているのか、リランドラの体が引き裂かれる音が鳴り響いている。


上から見ていると、ときおりシャトルテゴラインの外壁の一部が盛り上がるのがわかる。リランドラから回収した資源で、内部構造が増設されたのだろう。


俺本体ほどではないが、シャトルテゴラインの資源摂取と再構築の速度はなかなかのものだ。


数時間後、リランドラをすっかり食べ終える頃には、シャトルテゴラインの身体は一回り以上大きくなっていた。


シャトルテゴラインは足回りのキャタピラの個数も追加しており、巨体を俊敏に回転させると、前進を再開した。


見知ったゴミ丘陵地帯に向かっている。


丘陵地帯のさらに奥には、ちょっとした高地が広がり、その隅には〝最果て村〟がある。


どうやって、シャトルテゴラインは最果て村の位置を知ったのか。食べられたリランドラの住民の一人が、位置情報を持っていたのだろうか。


どちらにしても、シャトルテゴラインは巨体を震わせて、最果て村へ進み始めた。


もう絶望感しかない。


Fシリーズの俺たちは、ゴミ平野の各地に散って、シャトルテゴラインと戦うための仲間を集めたはずだ。どれくらいの数が集まったかは分からないが、正直、いまのシャトルテゴラインに勝てるとは思えない。


シャトルテゴラインは俺が集めた機械生命たちを喰らってさらに巨大化し、ゴミ平野のあちこちに転がる食い残しを片付けるだろう。高等な身体を持つ人型機械生命は命を長らえるだろうが、彼らもすぐにシャトルテゴラインの住民のデータを上書きされて、まったく別の存在になる。


悪魔のような都市は、地響きを立て、スクラップを蹴散らしながら平野を爆進する。


空の黒雲が厚みを増し、酸性雨の大雨が降り注ぐが、シャトルテゴラインは気にもしない。


降り注いだ酸の雨は、スクラップの金属成分を溶かし、霧がもうもうと立ち上った。あたり一面、酸の霧に閉ざされると、シャトルテゴラインの各所が強烈に輝いた。光が霧を差し貫いて足元を照らす。


と、廃液排出口にいた俺の視覚カメラが、霧の向こうに別の光をとらえた。


一瞬、シャトルテゴラインの光が何かに反射しただけかとも思ったが、その光は不規則な明滅を繰り返しつつ、明るさをじわじわと増している。


何か、シャトルテゴラインと同じようなフォグランプを備えた物体が接近しているのだ。


服飾族も接近に気付いたのか、シャトルテゴラインの進行方向がわずかに変わった。表面装甲が開き、攻撃用義肢が展開される。


二つの巨大物体は霧のなかを疾走しながら、その軌道を徐々に近づけていく。


ついに、霧のなかから不明物体が飛び出してきた。シャトルテゴラインよりも二回りほど小さな都市だ。大量のキャタピラを装着し、背中にはハリネズミのような煙突。それらからは空の黒雲に負けないほど色の濃い煙を吐き出している。よほど巨大なエンジンを積んでいるのか、駆動音が空気を激しく揺らしていた。


シャトルテゴラインが義肢を振るい、敵対都市の煙突が何本か吹き飛んだ。

それでも、都市は止まることを知らず、シャトルテゴラインの横っ腹に突っ込んだ。

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