AIバトル
ーーーーー
俺Aから、この俺が分離されるさい、マニュは俺に、簡単な仮想認識プログラムを用意してくれた。
いま、俺とポレポレは、真っ白な床と真っ白な空がどこまでも続く、のっぺりした空間に立っていた。
彼女の姿は、現実の機械生命の姿ではなく、パーカーを着た日本人の女の子の姿に変換されている。
俺も人間だった時の俺の姿をしている。
俺たちの手の中には、それぞれ日本刀が収まっている。これは、攻撃用プログラムを俺自身が認識しやすいよう具現化したものだ。
ポレポレの刀は、俺の刀より幾分短い。これは、彼女のAI戦闘能力が俺より幾分劣っていることを表している。
ポレポレは自分の姿に違和感を抱いていない。
この世界は、あくまても俺自身がAI戦闘を直感的に認識するために構築したものであり、ポレポレはポレポレでまた別の認識を行っているからだ。
ポレポレのなかでは、プログラムコードだけが飛び交う世界かもしれないし、電子の光が煌めくサイバーパンク然とした世界かもしれない。そのなかでは、俺はスパゲティのような丸いコードの塊かもしれないし、緑色に光る目を保つ金属人間かもしれない。
彼女に俺の認識を与えて共有することもできるが、それをすればわずかなりとも計算力を使うことになる。このあとのAI戦闘が厳しいものになるだろうことを考えると、そんな余裕はなかった。
突如、紙が引き裂かれるような音が、真っ白な空間に響いた。
見れば、前方の空に真っ黒な亀裂が入っている。
そこから、暗闇が滴り落ち、床に黒いシミを作った。
亀裂が塞がると同時に、シミがゆっくりと膨れ上がり、人の形を成した。
真っ黒な人間だ。裸で、中性的な顔つきと体つき。胸は真っ平だが、股間にも何もない。髪も肌も、瞳も、白目であるはずの部分も、唇も、何もかもが黒い。
その両手には二丁の真っ黒な拳銃が握られていた。
こっちが刀なのに、向こうは銃。
攻撃用プログラムの洗練度の差が具現化されたのか。それとも、マテゴニの背後にいるシャトルテゴラインの莫大な計算力が表されているのか。
いずれにせよ、圧倒的に不利なのは間違いない。
マテゴニがゆっくりと銃を持ち上げる。
俺はあわてて相手とポレポレの射線に入った。
銃弾が飛び出し、俺の身体に食い込む。
ポレポレが悲鳴をあげた。
俺はその場に膝をついた。
マテゴニが俺の胸にさらに二発打ち込み、俺は倒れた。
マテゴニは静かにポレポレとの距離を詰める。
彼が俺の真横を通りかかったとき、俺はその足を掴んだ。相手が驚愕するのがわかる。
そう、たしかに俺は死にかけている。打ち込まれた攻勢プログラムによって、体を侵食され、左胸と背中の一部、それに両脚は文字通り消滅した。
生身ならまったく身動きできず、意識が消えるのを待つしかなかったろうが、いまの俺はプログラムだ。俺は残された両手でマテゴニに絡みつき、その首筋に噛みついた。
マテゴニが再度、銃の引き金を絞り、俺の右手が吹き飛ぶ。そして、銃口が俺のこめかみに当てられた。
ポレポレの悲鳴が仮想空間に響きわたる。
ー




