都市vs都市
ーーーーー
リランドラとシャトルテゴラインの戦いは、六時間にも及んだ。
管理官のいったように、リランドラは戦えるだけの力を残していたのだ。
シャトルテゴラインが視認されるや否や、都市の各所で激しく警報が鳴った。市民たちはリランドラの母体である〝丘〟のなかに逃げ込み、入りきらなかった者たちはリランドラから離れ、ゴミの荒野を走りに走った。
俺ももう警告どころではなかった。逃げ惑う人々に蹴られながら、路地を駆け、どうにか街から脱出した。
振り返ると、シャトルテゴラインとリランドラの戦いが始まっていた。
リランドラは、その身に積み重なっていた大量のスクラップをふるい落とし、巨体を露わにしていた。形状は平たい直方体で、各部に巨大なキャタピラがついている。身体の上には低層マンションのような建物が折り重なっている。ゴミに埋まっていたとき、尖塔だと認識していた構造物からは黒い煙が立ち昇っていた。煙突だったらしい。
スラム街の一部が崩壊し、地面の下から二本の巨大な義肢が現れた。が、傷んでいたらしく、片方が根本から折れた。落ちた義肢がスラムのボロ屋を押しつぶす。
シャトルテゴラインの方は、ミンゴロンゴの記憶にあるよりも二回りは大きくなっていた。どの犠牲者から奪い取ったのか、キャタピラの数はさらに増え、外壁のあちこちから飛び出している義肢の数も以前とは比べ物にならない。
さらに〝口〟だ。身体の前面がガバリと開き、高速回転する歯車のようなものが稲光を受けて輝いている。あれがシャトルテゴラインの歯なのだろう。
リランドラは足元のスラム街を破壊しながら接近するシャトルテゴラインめがけて、たった一本の超大型義肢を振るった。
が、ぎりぎりのところでシャトルテゴラインが進路を変え、リランドラの水平チョップは物凄い唸りをあげながら空を切った。
シャトルテゴラインは斜め前方へとをかわし、リランドラの尾部に噛み付いた。すさまじい破砕音がシャトルテゴラインの口の端から漏れている。あの歯車がリランドラの身体を引き裂いているのだ。
リランドラの煙突から一際大きく煙が噴き出し、キャタピラが一斉に動き始めた。
リランドラが尻を振り、食らいついていたシャトルテゴラインを振り解く。シャトルテゴラインはあやうく転倒しかけたが、きわどいところで義肢の何本かを地面に突き刺して踏みとどまった。
パワーはリランドラ、機動力はシャトルテゴラインに分があるという感じだ。
以降の戦いは、おおむね、同じ形を繰り返した。
シャトルテゴラインがヒットアンドアウェイで、少しずつリランドラの身体を削り取り、リランドラは一か八かのカウンターを狙う。
しかし、リランドラの攻撃は空を切り続け、じわじわとその巨体を失っていく。
そして、ついにシャトルテゴラインの一噛みが決定的に深く懐を抉った。
リランドラの身体は前後二つに分かれた。断面から都市住民たちがポロポロと落下するのが見える。
後ろ半分はそのまま崩れ落ち、前半分は残されたキャタピラを猛回転させて逃走を図った。逃げの一手に備えてエネルギーを残していたのか、それとも後ろ半分を失って身軽になったのか、リランドラは驚くほどの速度で地平に向けて突っ走った。
シャトルテゴラインは獲物を逃すまいと後を追う。
俺は全力で空を飛ぶと、そのシャトルテゴラインの外壁に張り付いた。




