性格エラーと四角管理官
ーーーーー
「同盟? 辺縁領域の名も知れぬ村と、この大いなるリランドラが?」
大型都市リランドラの〝管理官〟の一人が大笑いした。まわりの人型機械生命たちが、どっと湧く。
リランドラはミンゴロンゴの記憶通りで、シャトルテゴラインよりもさらに大きな都市だった。ゴミ荒野のど真ん中、聳え立つ八本の巨大な尖塔に、何千人もの市民が住んでいる。尖塔は丘のような土台から生えており、その丘の根元には錆びついた超大型のキャタピラが並んでいた。丘の後方の大地には、用水路のようにどこまでもまっすぐ伸びる酸入りの溝が二本。おそらく、遥かな昔、リランドラがまだ移動できた頃に付いた轍だ。その後、リランドラは移動能力を失い、ここに根を生やした。
リランドラの丘のふもとには、低層のスラム街のようなものが広がっていた。尖塔に収まりきらない住民たちが建てたのだろうか。
スラム街から塔に伸びる大通りは、小さなミンゴロンゴといった風情の交易船が行き交い、道の両脇には謎のスクラップパーツやバッテリーを売る屋台が軒を連ねていた。四本の腕を持つカカシのような機械人類が〝作りたての電気!電気はいかが?〟といって、エネルギーケーブルのようなものを振り回していた。道ゆく人々の一部は、鎖を手に持ち、その先には低レベルな機械生命である〝ティッシュ箱〟がくっついていた。ペットなのだろうか。
俺こと俺F12は、人々の足に踏み潰されないよう、ちょこまか動いて通りを抜け、もっとも大きな尖塔の出入り口に近づいた。塔の前には、人々が列をなしている。机が幾つも並べられ、そこで何らかの事務手続きをクリアしたものだけが、中に入れる仕組みらしい。
俺は、大人しく列に付いた。周りの機械生命たちのなかには、俺を低レベル機械生命だと誤解し、追い払おうとするものもあったが、俺が〝待っているんだけど〟と電波を送ると、あわてて〝も、申し訳ない!〟と頭を下げた。
三十分ほど待たされてようやく俺の番になった。
机の向こうには、やたらと角張った機械人類が腰を据えていた。頭も、首も、胴体も、二の腕も、どこもかしこも立方体と直方体から構成されている。
その四面四角な機械人類がいう。
「こんにちは。わたしは〝管理官〟のソイロイ。リランドラ訪問の目的は?」
ミンゴロンゴがいう。
〝こんにちは。ぼくは交易船のミンゴロンゴ。警告に来ました〟
彼に任せたのは、その人当たりのよさもあるが、俺自身が見しらぬ機械人類と話すことに、少々気後れしていたこともある。
俺の人生ではじめての人見知りだ。単に精神的に疲れているのか。それとも拙速な人格コピーを繰り返したことで、性格面を規定するコードの一部がエラーを起こし、性格そのものが変わってしまったのか。
管理官のソイロイがいう。
「警告? どのようなですか?」
ミンゴロンゴが俺に代わってシャトルテゴラインの脅威と、〝同盟〟について説明する。シャトルテゴラインに単独で立ち向かえる街や村はない。なら、手を取り合って立ち向かう以外にない。
話を聞き終えた管理官は、いきなり身体を震わせた。
関節のモーターの故障かと思いきや、どうやら笑っているらしい。
「シャトルテゴライン? あの小都市に何ができるというのですか。我らのリランドラの半分にも満たない大きさですよ? 仮に君が本当にミンゴロンゴで、身体を食べられてしまったのだとしても、その程度ではね。リランドラは長距離の移動はともかく、短時間の戦いならまだこなせますよ」
〝でも、シャトルテゴラインは他の都市を食べながら進んでくるわけだから〟
「それが? シャトルテゴラインごときに怯えて、同盟? 辺縁領域の名も知れぬ村と、この大いなるリランドラが?」
管理官のソイロイが大笑いし、話を聞いていたまわりの都市住民たちも、どっと笑う。
だが、その管理官ソイロイの笑いはすぐに消えた。
彼の両眼のカメラはスラム街の向こう、地平の彼方に向いている。
そこには、ミンゴロンゴを喰らったときよりも、はるかに大きくなったシャトルテゴラインの姿があった。




