移動民族レイドグレイド
ーーーーー
〝なんだお前は?〟
そういったのは、移住民族レイドグレイドの長だ。彼らは機械生命としては巨体で、一人一人のサイズは高さ五メートルから六メートルもある。体重は五トンくらいか。
形状は動物のサイを思わせる。ずんぐりむっくりな四つ足で、体表には分厚い装甲を備えている。頭はなく、胴体と手足のみの姿だ。身体の前方と思しき場所に四つのカメラがついていた。
総数は全部で七体。象のように群れを成してゴミの平原を移動し、ときおり膝を折って、腹の底の口から資源を摂取する。
俺はいった。
〝あんたたちに警告に来たんだ〟
雷のように重厚な電波が、俺の頭に響く。
〝警告だと? お前のように矮小なものがか?〟
たしかに今の俺は小さい。
身体はルンバどころか、手のひらに乗るほどのサイズしかない。蜘蛛のような多脚と、地上三十センチほどくらいまで浮かび上がれる四枚の羽がついている。簡易なオーニソプターとでもいうべきか。
俺Aが各地の都市にシャトルテゴラインのことを警告するために、物質構築機で製造し、四方八方に放ったものの一つだ。
こうして考えている俺は俺F7、俺のオリジナルであるAが新たにコピーした人格俺Fの一人だ。俺Fは四十八人が同時コピーされたので、F1からF48までの番号が割り振られた。
正直、自分自身をここまで気軽に大量コピーしてしまうあたり、俺の精神はじょじょに人間とは異なるものに変容しているのかもしれない。
レイドグレイドの長がいう。
〝我の視界から消えろ、さもなくば叩き潰すぞ〟
〝待て待て、たしかに俺のなりは少々小さいが、俺の友人には身体の大きかったやつもいるんだ〟
身体の同居人であるミンゴロンゴB7がいう。
〝こんにちは。アルファレイン〟
長から驚きの電波が伝わってきた。
〝ミンゴロンゴではないか! お前、あの雄大なる身体はどうしたのだ〟
ミンゴロンゴが一通りの説明を終えるころには、レイドグレイドたち全員が俺たちの周りに集まっていた。
彼らは話が終わってもしばらくの間黙っていたが、やがて長のアルファレインが口を開いた。
〝お前を喰らうほどの存在がいることは分かった。しかし、そやつは我らの位置を知らんのではないか?〟
〝それが知ってるんだよ〟ミンゴロンゴがいう。〝シャトルテゴラインはぼくのご主人様たちを分解していた。ご主人様の脳回路から情報を吸い出したたろうから、過去に取引したすべての相手の位置がバレてると思うんだ〟
レイドグレイドたちが一斉に身体を揺らした。
一人がいう。
〝逃げた方がいい〟
〝どこにだ? 我らの身体はこの何十年というもの、平原に合わせて改良を続けてきた。もはや他の土地では生きられない〟別の一人が脚を伸ばした。〝戦おう。我らは強い〟
逃げ腰の個体がいう。
〝勝てるものか。我らの数百倍の質量を持っていたミンゴロンゴを喰らうような相手だぞ〟
〝ならどうしろというのだ〟
レイドグレイドたちがけんけん囂々と電波を飛びかわせるなか、長のアルファレインがいった。
〝ミンゴロンゴ、矮小なもの、お前たちは我らに絶望だけを伝えに来たわけではあるまい。どんな意図があってここに来た?〟
俺はいった。
〝ミンゴロンゴの話と記憶通りなら、シャトルテゴラインに対抗できる街や村はない。ただし、それは単独で対抗したときの話だ〟




