スーパードクタールンバ
「その商人様とやらが俺たちを攻撃し、ポレポレをさらったわけか」
思わず毒づいてしまったが、目の前のミンゴロンゴがあまりにもしょぼくれた顔をしているので、自分の方が悪いことをしたかのような気になってしまった。
咳払いしていう。
「それで、ポレポレはどこに行ったんだ?」
「シャトルテゴラインの人たちに買われた。そのさきは分からないな。ぼく、シャトルテゴラインに食べられちゃったから」
食べられた?
「でも、おじさんがぼくと接続できたったことは、ぼくの身体はシャトルテゴラインから解放されたの?」
「いや、そういうわけじゃーー」
ミンゴロンゴがますます悲しげな顔になった。
「ぼくは壊されてた?」
「まあ、そうだな。俺は谷間の窪地で壊れかけた頭脳回路を見つけて接続したんだ。まわりにはいろんな残骸が転がってたよ。でも、服飾族の都市は消えていた。連中、どこへ行ったんだ?」
「シャトルテゴラインはもう一度動き出したんだよ。ぼくだけじゃなく、都市リランドラやサスパン、それにポレポレの生まれた村なんかも食べて、もう一度、資源豊富な楽園平野に戻るつもりなんだよ」
俺はミンゴロンゴの肩をゆすった。
「ポレポレの、なんだって? 最果て村のことか?」
「集音マイクが音を拾いはしたけど、距離が遠かったから、間違ってるかもしれない。どっちにしても、シャトルテゴラインはこのあたりの全ての都市という都市、街という街、村という村を食い尽くす気だから」
仮想空間のなか、船の傾きがますます大きくなっていく。コンテナが次々に海面に転落し、凄まじい水飛沫を上げる。
ミンゴロンゴがいう。
「お願いがあるんだけどさ。できるだけ多くの都市に、きみから警告してもらえない?」
「警告?」
「うん。みんな大切なお客さんだから。お客さんあってこその商売だからね。お客さんさえいれば、商人様たちは生きていけるからさ」
俺は腕を組んだ。
「俺は、商人様とやらも気に食わないんだがな。人を売り買いするような連中だろう?」
「仕方ないじゃない。この世のすべては商品なんだから」
「仕方なくない。人をモノとして扱うなんて、絶対に許されないことだ」
俺がそう口にしたとき、かすかにマニュが動揺したのが感じられた。存外、彼女は彼女で、最果て村の村人たちをモノ扱いしていたのかもしれない。
船がさらに傾き、立っているのも難しくなってきた。
ミンゴロンゴの顔には恐怖が張り付いている。
俺の中で、妻が死ぬことを悟った時の娘の表情がよぎった。
「お前、それぞれの都市の位置はわかるか?」
「そりゃ、もちろん。ぼくはあちこちで取引してきたから」
〝ご主人様!?〟マニュの声が頭の中で響いた。俺の考えを読んだのだろう。
俺は思念で返した。
〝できるか?〟
〝不可能ではありません。しかし、相応のエネルギーを使うことになりますよ? 情報だけ吸い出したほうがよろしくはないですか?〟
〝だめだ。俺一人でいっても相手を説得できない〟
マニュは俺の指示に従い、現実世界でミンゴロンゴの頭脳回路の修復作業に取り掛かった。
それに伴って仮想空間に変化が現れた。
コンテナ船の傾斜が少しずつ和らいでいく。海に転落したコンテナが、飛沫を上げて次々に海中から飛び出し、コンテナ船の甲板に再度積み上がる。しかし、コンテナの一部は損傷が激しく大穴が空いていたりもする。これは、マニュが修復しきれなかったダメージというところか。
ミンゴロンゴはしばしの間、言葉を失ったあと、どうにか絞り出した。
「な、直してくれてありがとう」
「礼はいい。俺の計画を聞いたら、礼を言う気なんてなくなるだろうからな」




