火焔式都市消失
〝ありませんね〟
マニュがぼそりといった。
俺たちの眼前には、貪欲様の記憶で見た通りの地形が広がっている。両脇に聳える二つの巨大なゴミ山と、雄大な谷間。しかし、谷底にあったはずの火焔式土器のような外観の都市がない。
都市があったはずの場所は、なにかとてつもない重量物が長年そこにあったかのような不自然な形状な窪地と、真新しいスクラップの小さな山に代わっていた。
窪地からは無限軌道の轍が二本、谷の彼方と伸びている。
俺は、身体の外周に構築した輪形族のタイヤを回し、窪地に向かって前進した。
マニュが視覚を操作して、窪地の手前の小さな轍をクローズアップした。
〝小さな無限軌道を持った何かがここにきて、大きな無限軌道を持つ何かが出ていったようですね〟
なにがどうなっているのか、さっぱりだ。
ポレポレはいったいどこにいるのか。
俺は慎重に窪地のなかに入った。
キラキラしたネオン看板のかけらのようなものが散らばっている。真新しい装甲や隔壁の破片、そして人型機械生命の手足。
俺が生身の身体だったなら、全身総毛だっていたろう。
マニュが素早く、それらの手足をスキャンする。
〝ポレポレさんのものではありません〟
俺は心を落ち着かせながら、周囲をさらに慎重に観察した。カメラ映像だけ見れば、あたりは完全に死の世界だが、電子的反応をチェックすると、機械生命特有の反応があった。
ほとんどは、この世界のどこにでもいるシリンダー虫が発する微弱電波だが、より複雑な電波の動きが、すぐ近くのスクラップの山のなかに感じられた。
義肢を使って掘り起こすと、三十センチ四方ほどの真っ黒な立方体が現れた。なんらかの高度な電子パーツのようだが、あちこちに亀裂が走り、内部の電子回路が露わになっている。まだかろうじて機能しているが、停止するのも時間の問題だろう。
俺は接続口に、自分の腹から出したケーブルを差し込んだ。
貪欲様に接続した時と同じように、マニュが仮想現実を展開した。
一瞬のうちに、俺は、人間の体に戻り、大海原に浮かぶ一隻のコンテナ船の甲板に立っていた。周囲には、ひとつ何十トンもありそうなコンテナが積み上げられているが、船体の揺れで次々に海に落下している。船底に穴でも空いているのか、船体は右に傾きながらどんどん沈んでいる。
この光景は、壊れつつある電子パーツの状態を、俺が直感的に認識できるよう、マニュが俺の潜在記憶を用いて表現したものだ。
俺の向かいには、作業つなぎを着た少年が立っていた。
少年は俺を見上げていった。
「君、だれ?」
「アンザイレンだ。人を探してる」
マニュが俺の横に、ポレポレの姿を投影する。
少年が片方の眉をあげた。
「じゃあ、君が彼女のいってた連れか」
「ポレポレを知ってるのか!?」
「うん。ぼくに乗ってた」
「乗ってた? お前はなんだ?」
「ぼくはミンゴロンゴ。商人様たちの船だよ」




