都市を喰う都市
長の発した音波がまだ空中に残っているうちに、シャトルテゴラインの壁の中に折り込まれていた機械群が一斉に動き出した。
バカでかいチェーンソーのような機構を先端に備えた多関節義肢が壁から伸び出してくる。
刃渡り五メートルはあろうかというチェーンソーは、ミンゴロンゴの艦橋に突き刺さり、火花を散らしながら、チーズケーキに食い込んだナイフのように、やすやすと切り裂いた。
切れ目から、艦橋内の商人たちが右往左往しているのが見える。
AIのミンゴロンゴが声にならない悲鳴を発信する。
商人のリーダーが「エンジン始動! 応戦しろ!」と叫ぶ。
パワードスーツを着た商人たちが、銃らしきものを構えて、服飾族のリーダーを狙う。
が、発射された弾丸は、別の壁から出現した二本の巨大な義肢に阻まれた。こちらの義肢たちはグラインドカッターのような機構を備えている。義肢は敏捷に動き、長を狙った二人の商人を真っ二つに寸断した。商人の遺体が甲板から転げ落ち、はるか下の床面に激突する。
壁からは次々に巨大義肢が出現し、都合、数十本の義肢がせっせとミンゴロンゴを解体しはじめた。
ネオン看板が叩き割られ、甲板が引き裂かれ、煙突が輪切りにされる。
すさまじい破壊音が、シャトルテゴラインのなかに響き渡る。
服飾族たちは甲板であわてふためく商人たちの姿を、微笑を浮かべて見つめている。
ミンゴロンゴのエンジンがかかったのか、船体が激しく震え、切断されて短くなった煙突から黒煙が噴き上げた。キャタピラが回転し、船体はゆっくりと後退し、シャトルテゴラインの壁にぶちあたった。おそろしいほどの質量がぶつかったというのに、壁はびくともしない。
ミンゴロンゴのキャタピラが激しく空転する。その間にも、シャトルゴラインの恐怖の義肢はミンゴロンゴの身体をバラバラに解体し続ける。
艦橋が船体から転がり落ち、床に当たってバラバラに砕けた。
商品が閉じ込められていた倉庫の天井が剥ぎ取られた。さきほど、ポレポレといっしょに甲板に並んだ人型機械たちが、恐怖に互いに身を寄せ合う。
シャトルテゴラインの壁から、とんでもないサイズの円形ショベルが出現した。古代地球の海外の大規模鉱山などで使われているアレに似ている。回転する円形ショベルは、ミンゴロンゴの身体に食いこむと、容赦なく削り取り、バラバラになった部品はショベルと一体化したベルトコンベアーで後方に運ばれていく。ベルトコンベアーの根元には、巨大な口のようなものが開いていた。その先がどうなっているのかは分からない。資源の仕分け室があるのか、それとも直接、炉につながっているのか。
ミンゴロンゴは必死の抵抗を続けたが、結局、身体が元のサイズの半分ほどになったところで機能を停止した。ミンゴロンゴの電子的な悲鳴もぴたりと止まる。
シャトルテゴラインの義肢はその後も解体作業を続けた。義肢には、ある程度の選別を行う知能があるらしく、有用な資源は下層に開いた口に放り込まれ、ネオン看板の残骸など、不要な資源はそのまま床に放置される。
下層の壁からは、より細い義肢が大量に伸び出し、放り出された商人や、人型機械たちを捉えては、口の中に送り込んでいる。
ポレポレは激しい恐怖を感じ、挙動のコントロールが効かなくなった。脚がずっと震え続けている。
服飾族の長は、ほっそりと美しい形状の手を伸ばし、そのポレポレの頬をなでた。
「怯える必要はありませんよ。あなたは我々の仲間になるのですから」




