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都市喰い

ポレポレは、他の商品たちと共にミンゴロンゴの甲板に出た。


ミンゴロンゴの外部カメラで見た映像と同じ光景が、今度はポレポレのカメラアイから入ってくる。ポレポレの眼は、ミンゴロンゴのカメラより画素数が多く、映像処理能力も高い。さきほどよりも、はるかに細かなところまで観察することができた。


こうして見ると、シャトルテゴラインの各フロアのテラスに立っている服飾族たちは、微妙に一人一人異なっているのがわかる。全員、ボディの色は黒だし、かかとにはヒールがあるが、手足の長さや胴回りの形状には僅かに差がある。なかには、モデル体型とは言いづらいほど太っている個体もあった。全体として、下層フロアの個体ほど、ゴツゴツして太っており、上層に行くほど細く優美になっていく。


とはいえ、服飾族のなかでいちばん身体のバランスが悪いものでも、商品として甲板に並んだ人型機械たちに比べ、造形的には遥かに優れている。


商品の方は千差万別。人型という共通点はあるが、冷蔵庫のような直方体から手足が生えただけの者もいれば、ゴリラのように上半身がやたらと大きな者や、攻撃でもされたのか右手がまるまる欠損している者もいた。


ポレポレは列のいちばん端に並んだ。

服飾族に買われないよう、必死で身体を汚したので見た目は悪い。傷だらけだし、油まみれだ。


服飾族の長らしき個体が、商品一人一人を見定めながらいう。

「これはダメ。これもダメ、それも、コレも」


ダメと言われるたびに、商人が商品たちを掴んで、船内に引っ込める。


服飾族の長の視線がポレポレに落ちた。

「コレも」と言いかけて、言葉を止める。


直後に、ポレポレの身体にむず痒さが走った。電波を感じたのだ。服飾族の長が、彼女の体にスキャンをかけたらしい。


長がいう。

「コレはいただくとしましょう」


ポレポレの心が重く沈むのが感じられた。

せっかく見栄えを悪くしたのに、体内機構を確認されてはどうしようもない。これでは汚し損だ。


長が手を振ると、どういう仕掛けか、フロアの一部が生き物のように変形し、床面細く伸ばして、ミンゴロンゴの甲板との間に渡し板を形成した。


パワードスーツを来た商人たちが、ポレポレを板のほうへ追い込む。


彼女が俺だけにいう。

〝逃げ出したほうがいいでしょうか?〟


〝ああ、だが今はまずい。商人たちは君より強そうだし、服飾族の戦闘能力は未知数だ。ひとまず、大人しく従おう〟


ポレポレが渡し板の上に乗ると、細く伸びていた床面が縮んで、彼女は服飾族のなかに迎えられた。


彼らの長がポレポレを掴み、彼女を至近距離から再スキャンする。

「薄汚れているけれど、ていねいな作りですね。どこの大都市で製造されたのですか?」


〝わたしは最果て村の出です〟


「最果て村?」


長が首を捻ると、脇に立っていた服飾族の一人が進み出た。

「157地区の小集落です。資源密度の薄い地域にあり、最下級の徴税人たちが担当しております」


「資源密度が低い? その判断は誤りかもしれませんね。これだけの身体、相当に豊かな土地でなくては作れませんよ? 回収路線に組み込めるか検討してください」


「は」と、付き人が頭を下げる。


長は頷くと、ミンゴロンゴに視線を戻した。

「さて、商人さん、売り物はこれ以上はないということでよろしいですか?」


商人のリーダーが、筒のような身体を縮める。

「お気に召す商品が少なく、まことに申し訳ございません」


「謝る必要などありませんよ。あなたたちはこれまで本当によく仕えてくれましたから」


「もったいないお言葉です」


「ただ、あなたたちとのお付き合いはこれまでにしようと思うのです」


「な、なぜですか!?」リーダーがうろたえる。「たしかに今回は揃いがよくありませんでしたが、次回は必ずやそろえてみせます」


「あなたたちの努力を否定するわけではありません。ただ、これ以上、この地域で資源を蓄え、仲間を増やしていくのは無理だと考えているのです。残っている資源はもはや大物のみ。わたしたちは、それらを食べたのち、恵み豊かな地へ復帰します」


「それは、その、おめでとうございます」


「ありがとう。それでは、ごちそうになりますね」


長が両手を広げると、ポレポレの足元の床が小刻みに震え始めた。


商人のリーダーがいう。

「ごちそう?」


シャトルテゴラインの壁や床のあちこちから、唸るような駆動音が聞こえ始めた。


長が微笑んだ。

「これから、リランドラをはじめとした、残る都市の全てをいただきます。手始めは、あなたたちの船ですわ」

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