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納税旅行

俺は宇宙空間で咳払いした。


本当の宇宙なら空気がないから、咳などできるはずもないし、そもそも生身で生きていられるはずもないが、ここはマニュが作った仮想空間なので、物理法則は緩い。


「提案ありがとう。ただ、村人には俺のやり方で丁寧に説明しようと思う」


マニュの背中から生えている何十本という蛸足が、悲しいときの犬の尻尾のように、いっせいにしおれた。

「完璧な例え話のはずなのですが」


たしかに説得力はあるが、先日、仮想空間内で初めて〝空〟を見たばかりの村人に、宇宙およびその終わりについて説明するのは、いささか性急すぎる。


マニュの頭脳の出来は俺を超えるが、合理的すぎて、相手にも自身と同じ程度の合理性を期待する傾向があるようだ。


翌日、俺は村人全員を広場に集め、計画を披露した。

話し終わると、場が静まった。一時的とはいえ、再度、服飾族の軍門に降るという案だ。おいそれと賛成できないのは理解できる。


沈黙を破ったのはポレポレだった。

頭のアンテナを目一杯伸ばし、電波強度をあげていう。

〝あたしは賛成だな。だって、あたしたちが服飾族と話し合いができるようになるまでの間、時間を稼ごうって計画なんでしょ?〟


〝その通りじゃ〟オタがアンテナを伸ばす。〝丁寧に説明されればわかる話じゃ。もし、不満があるものがいるなら、わしがじっくり話そう〟


〝わたしもお話します〟と、宗教的指導者のイムリ。


おいおい、と思った。この三人がベストなタイミングで賛同を示したのは、集会前にあらかじめ根回ししておいたからだ。しかし、オタとイムリは演技が下手すぎる。あらかじめ話を聞いていたと思われかねない語り口だ。


幸い、村人は誰も気づかず、全員が賛同の意を示した。


もっとも、問題は根回しのないこの先だ。

〝というわけで、俺が服飾族の街に行ってこようと思う〟


流れからそのまま賛成されることを期待したのだが、真っ先に、例の三人がそろって〝ダメです!〟と声を揃えた。さらに、山頂村の村長と、輪形族の静静が続く。


オタがいう。

〝そのような任を、ザイレン様にお願いするわけには参りません。ここは、村長であるワシで出番じゃと思いますな〟


〝いえ、オタさんは身体が弱すぎます。もっとも頑丈な我々輪形族にお任せください。ザイレン様以外で服飾族の住処までの道のりを把握しているのは、わたしたちだけ。我々こそ適任です〟と、静静。


オタが自分の胸を叩く。

〝身体が弱いからこそいいんじゃ! ワシはもう十分に稼働した。もっとも稼働時間の長いワシが行くべきじゃ〟


イムリが手を挙げる。

〝それなら、わたしがいいと思うのですけど。わたしの脳回路は壊れる寸前ですから〟


俺は強めの電波を出した。

〝全員却下! 俺の身体は壊れないんだから。その一点だけでも、俺が行くべきなんだ〟


ただし、服飾族が超物質を破壊できる手段を持っていなければの話だが。


〝それに、税として納める資源を運べるのも俺だけだろ?〟


〝複数人で行けばーー〟と、山頂村の長。


〝だめだ。税率が上がってるなかで大勢でいけば、資源として取り立てにあう可能性が高い〟


〝それでも、ザイレンさんが危険な目に遭うよりマシです!〟ポレポレが立ち上がって手をブンブン振る。


オタが頷く。

〝その通りですわい。これ以上、恩人であるザイレン様にばかりご負担をかけるなら、わしらは壊れた方がマシです〟


ふだん、俺のいうことを素直に聞いてくれる村人たちが、ことこの件に関しては驚くほどの抵抗を続けた。話はどんどん大きくなり、村人全員で納税に出向くという形になりかけたので、さすがにこちらが折れるしかなかった。


俺は全ての義肢を上げた。お手上げのポーズだ。

〝わかった。それじゃ、誰か一人だけ一緒に来てくれ。ただし、その一人は申し訳ないけど身体を改良させてもらう〟


オタが首を左右に捻っていう。

〝改良、ですか?〟


〝危険な旅になるからな。生存率を上げるために、強化させてもらう〟

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