資源倍増計画
マニュが、言葉なしの疑念だけをよこした。
俺は彼女が二の句を告げるまえに話を続けた。
〝ここの人たちはヒエラルキーの底にいるから、ひたすら搾取されて、ろくに話も聞いてもらえないわけだろ? なら、その立ち位置を上げればいいんじゃないか?
身体を直すんだよ。村の連中の身体はゴミ山から引っ張り出したスクラップの寄せ集めだ。
各部位の仕様はバラバラ。左右の足の長さが揃ってないせいで、みんなすぐに転ぶ。
頭脳回路がショートしがちなせいか、記憶力はいまいちだし、難しい質問をするとフリーズする人もいる。
そんなだから、最底辺としてなめられるんだ。
新しい部品に取り替えれば、もっと性能があがるし、いずれは服飾族にも一目置かれるんじゃないか?〟
〝その新しい部品とやらはどこにあるんですか? 貪欲様や百眼族の遺体を使ってもまだ足りないと思いますが。村人は人型ですから、流用できるパーツはそう多くありませんよ〟
〝作ればいいじゃないか。俺たちには次元転換炉と物質構築機があるんだから〟
〝ご冗談でしょう? 転換炉の変換効率は100%ではないんですよ? つまり、住民のために手足を作ってやろうとすれば、その都度、大量のエネルギーを消耗するんです。ここの村人たちがやってる、シリンダー虫の養殖程度では到底追いつきませんよ〟
〝なら、エネルギーの確保から見直せばいいじゃないか。俺たちなら、あんな効率悪そうな畑じゃなく、もっとまともなシステムを作れるんじゃないか?〟
マニュが、しばしの沈黙のあと〝なるほど〟といった。
俺は彼女との加速会話を切り上げ、認識を現実の時間の流れに戻した。
目の前に立つ村長オタは、実時間1秒ほど前に、服飾族との「話し合い」を目指したいと俺に告げた。
俺はいった。
〝本気で「服飾族」と話し合う気なら、しなくちゃいけないことが山ほどあるぜ? もちろん、俺はできる限り手伝うけどさ、みんなの負担も相当でかくなるかもよ?〟
オタが頷いた。
〝もちろんです。これはわしらの問題なのですから。本当なら、わしらだけで解決しなければならんのに。お恥ずかしい限りです〟
〝貪欲様と勝手に戦って話を大きくしたのは俺なんだから。それに、俺は貪欲様の件がなくても手伝ってたと思うんだ。だから、そう畏まらないでくれよ〟
〝いえ、そういうわけにも。しかし、ザイレン様はどうして、わしらにこうも親切にしてくださるのですか?〟
それは、俺はこの村の住民のことを、人間として見ているからだ。俺は自分の生きた過去の地球から、時間も空間も離れ、極限の孤独に放り込まれた。この地獄のように冷徹な世界で、唯一、地球を感じられるのが、ここの村人たちの妙な人間臭さなのだ。
俺は人として、同じ人を守りたい。
〝みんなも俺に親切にしてくれただろ? あれはなんでなんだ?〟
〝それは、他者には優しくするのが当たり前だからです〟
〝なら、俺もそれと同じさ。みんなに優しくありたい。それだけだ〟
村長オタと、その背後の村人たちが、言葉にならない電波を発した。
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とはいえ、俺に感じ入った村人たちも、俺とマニュが整えた「資源倍増計画」を初めて聞かされたときは、別の意味で言葉を失った。
村人たちは、車輪族も交えて、広場のなかで巨大な円陣を組んでいた。俺はその中心で、一席打ち終わったところだ。
俺の荒唐無稽な話に、みな静まり返ってしまった。響いているのは、空をよぎっていく風と、遠くのゴミ雪崩の音だけだ。
ポレポレが小さく手を上げた。
〝ザイレンさん。その〝発電所〟って、なんなんですか?〟




