ロボット掃除機vs百眼族
徴税人を最初に見つけたのは、貪欲様がやってきたときと同様に、狩人の一人だった。
彼は、ゴミ山の峠道を転がり落ちるようにして駆け抜け、村の広場に滑り込むと、ひときわ大きな電波で〝見たことのないやつが来た!〟と叫んだ。
貪欲様と服飾人の件をあらかじめ話してあったので、村の誰もがピンと来た。貪欲様の時は、みな大人しく広場に整列したが、今回は鉄パイプや貪欲様の体内刃のカケラなど、思い思いの武器を手にし、相手を待ち構える。俺も彼らの足元で控えた。
貪欲族の子供たちだが、万が一、新しい徴税人の側に付かれてもまずいので、狩人の声を聞くや、徴税人が来たのとは反対方向の山に潜むよう命じた。しかし、マニュのセンサーによれば、村の端にからこちらをのぞいているのようだ。
やがて、山向こうから真っ黒な大きな卵のようなものが姿を現した。
サイズは貪欲様ほどではない。高さは一メートル、縦横の幅は七十センチといったところか。黒色の外殻の表面には、巨大なカメラアイがびっしりと並んでいる。駆動装置は卵の下に付いた、何十本という節足動物のような足だ。多脚のおかげで、障害物をものともせず、ゴミで凸凹の山肌を一直線に降りてくる。
俺は貪欲様の言葉を思い出した。
服飾族の下に付いた種族のひとつ、百眼族。
黒卵は、より固まった村人から十メートルほどのところで止まった。
電波こと念声でいう。
〝底辺生命のみなさん、こんにちわ。上位存在より、あなたたちの管理を命じられたタンペリット・タンパリットと申します。本日は通常規定の倍量の資源を回収させていただきます〟
村長オタが関節を軋ませながら、首を横に振る。
タンペリット・タンパリットが〝うーん。これは困りました。みなさん、物騒なものをお持ちですし、担当の輪形族が消えたことと併せて考えると、みなさんは上位存在に従う意欲がなくなってしまったようですね〟といって身を沈ませた。
〝皆さんに納税の意欲を沸かせるのも、わたしの勤めです。これから、一人ずつ破壊しますので、納税する気になったらおっしゃってください〟
いい終わるや否や、猛スピードで村人たちの周囲を回り始める。
足が全力ダッシュ中のゴキブリのように動きまくっている。すごい速さだ。人間の目だったら残像しか見えなかったろう。村人のうち、映像処理能力の低いものも〝消えた!〟〝どこへいった!?〟と叫んでいる。
マニュがいう。
〝なるほど。あの大量の光学カメラは高速移動中でも、周囲の景色を正確に認識するためのものなのですね〟
〝感心してる場合かよ〟
俺は物質構築機を起動すると、ロボット掃除機の身体を取り囲むように「貪欲様タイヤ」の身体を構築した。ドーナツのように真ん中に穴が空いているので、そこに本体をすっぽりと収める。本体の天板と底面に義肢を構築してタイヤの身体を起こす。
義肢付きの貪欲様の出来上がりだ。恐ろしく頑丈で馬力のある殺人鋼鉄タイヤ。
俺の意思を受けて、タイヤ部分が高速回転する。本体は回らない。一種の一輪車バイク、モノホイールのような状態だ。
俺は猛加速すると、タンペリット・タンパリットの後ろについた。小回りは向こうだが、加速力と最高速度は車輪構造のこちらの方が上だ。
タンペリット・タンパリットは体表中に目がついている。すぐにこちらに気付いたが、すでに手遅れだった。
俺は身体を倒し、事故にあった二輪車のようにタイヤを滑らせて、高速で動いていた無数の足に突っ込んだ。
足は乾ききった小枝のように折れまくり、タンペリット・タンパリットは地面に突っ込んで、転がりながらゴミ山の斜面に突っ込んだ。
村人たちが〝ザイレン様!〟と歓声をあげる。
俺は彼らに手をふりながら、服飾者を何とかしないと、次々に徴税人がくることになるな、と考えていた。




