走馬灯世界
貪欲様が、長い体を床にぺたりと押し付ける。
「どうかわたくしに、引き続き徴税をお任せくださいますよう」
あの高慢かつ上から目線な貪欲様とは思えないほどの、へりくだりかただ。いや、日頃、こうやってさらなる上位者のいうがままになっていたからこそ、最果て村の人々に、あのように接していたのか。
服飾族の女はいう。
「うん。あなたは回収率がいいものね。今後もよろしくお願いしたいわ」
彼女は、ほっそりした黒い指で、貪欲様のいる最下層フロアの隅を指した。
暗がりのなかに、貪欲族の遺体が転がっていた。どんな攻撃を受けたのか、ミミズ状の巨体が、縦に真っ二つに切断されていた。ティッシュ箱などの小機械生物たちが残骸に群がっている。
服飾族の女の声が響いた。
「あなたを、ああはしたくないの。ぜひ頑張ってね」
貪欲様は、さらに深く平伏したのち、ずるずると身体の向きを変えて、火焔式都市を出た。
場面がぼやける。
貪欲様は、ポレポレたちとは別の機械人の村をいくつも訪れ、資源を回収していく。
直径三十センチほどの球体状の機械人の村。
キャタピラで動く下半身に、数十本のマニピュレーターが乗っかった機械人の村。
人間型だが、手足がやたらとながく、四つん這いで移動する機械人の村。
どの村も、大人しく資源を供出したが、ときおり反抗的なものもいた。貪欲様は、彼らを丸呑みにしたり、巨体で締め上げて破壊した。
そして、最後に訪れたポレポレたちの村で、小さな掃除用機械に吹き飛ばされ、修復不能の大ダメージを負った。
今、俺の前にはボロボロの貪欲様タイヤが横たわっている。貪欲様が作ったいまの彼女の自己イメージだろうか。
マニュによれば、貪欲様の回路はあまりに損傷が大きく、思考を走らせることができなくなっていた。そこに村人の一人が自分の頭脳と貪欲様の頭脳をつなげた。貪欲様は村人の回路を使うことで、ふたたび物を考えることができるようになった。
しかし、自分がもう長くないことはわかっている。思考するほどに、ただでさえ傷んでいる自分自身の回路にも負荷がかかる。まもなく、機能は完全に停止する。貪欲様にできるのは、自分の過去を振り返ることだけだ。
俺はつぶやいた。
「つまり、ここは走馬灯の世界なのか」
「その通りですわ」
マニュではない声が答えた。
貪欲様の残骸の隣に、妙齢の女性が現れた。三十路半ばで白金色の髪を結い上げ、ハリウッド女優のような美麗な白と朱色の混ざったドレスを身につけている。ただし、ドレスはほつれ、汚れ、穴が空いている。というか、俺はこの女性を見たことがある。昨年、ヒロインの敵役でアカデミー助演女優賞を獲得した演技派のスターだ。
俺の無意識領域が、マニュの時と同じように相手の姿を具象化したのだろう。つまり――。
「貪欲様、か?」
「どうも下等存在さん」




