落穂拾いのように
補助AIのマニュがいう。
〝こんな最果ての星の、最果ての村に留まるのですか?〟
たしかに俺は地球に戻りたい。
たとえそこが、俺の暮らした令和の地球ではなく、超未来の銀河帝国の首都惑星に変貌していたとしても、地球は地球だ。
〝でも、貪欲族にトドメを刺さなかったのは俺だからな〟
俺はロボット掃除機ボディの表面に埋め込まれたカメラで、広場の隅で小さくなっている貪欲族を見つめた。
今後、俺が村を去ったあと、彼女たちが第二の貪欲様にならないよう、しっかり教育しないと。
俺は心のなかでクスリと笑った。
まるで幼児をしつける親だ。
それから、数万年の過去に残してきた娘のことを思い、少し哀しみに沈んだ。
マニュが焦った調子でいう。
〝ご主人様。行動能力が九十六パーセントに低下しました。精神状態の安定化を図ってください。そう、ご主人様のいうとおりです。まずは、この村でなすべきことをしましょう。この身体の耐用年数は最低でも十万年はあるでしょうから、数ヶ月滞在したところで、誤差にすぎません。お気のすむまでとどまりましょう!〟
彼もしくは彼女の焦りが伝わってきた。
前のように、俺に千年以上も哀しみに浸られるのは勘弁してくれといったところか。
まあ、じっさい俺も、これ以上過去ばかり向いているつもりはない。
気を取り直したところで、村の広場の中心部、村人たちのなかから、村長のオタが念声で俺を呼んだ。
俺は貪欲族に〝そこから動かないように〟と釘を刺してから、村人たちのところに戻った。
彼らは俺が最初に貪欲様を切り裂いた場所に固まっていた。あたりには、貪欲様が食べたエネルギータンクやバッテリーの残骸が散乱している。それに、貪欲様の体の奥の方に入っていた、村に来る前に貪欲様が口にしていた資源の数々。
大小さまざまなIC回路らしきもの、赤、青、緑のカラフルな配線、コンデンサー、放熱版。
どうやら、貪欲様はレアな資源は、尻尾近くに溜め込んでいたらしい。
村人たちは一つずつ拾い集め、手にした鉄の鍋やプラスチックのバケツに放り込んでいる。彼らの身体は、このゴミ山世界のスクラップの寄せ集めだ。人間のような五本指の手も、どこかの指だけ妙に長かったりするし、そもそもトングのような二本指の手を装着しているものも多い。
母親と一緒に働いていた機械族の少女ポレポレが顔を上げた。頭部のモノアイが作動音を立てながらこちらに焦点を合わせる。
〝ザイレンさん! 見て! こんなにもチップが!〟
〝よかったな〟
〝うん!これで、母さんを治せるかも!〟
本当に嬉しそうだ。
その一方で、母親のイムリの思念パルスは一瞬陰った。
前に聞いた話からすれば、イムリの故障気味のチップ問題を解決するには、データを完全複製する必要がある。そして、完全複製がうまくいく可能性は、たとえ空のチップがあっても、万に一つ。
俺はマニュにいった。
〝ひと段落したら、この件を進めよう〟
〝しかし、チップの完全コピーには、私たちといえど相当の時間とエネルギーが必要ですよ〟
〝今回、食べた分じゃ足りないのか?〟
〝彼女らの頭脳チップには、量子デバイスが組み込まれていると思われます。この程度では1%も複製できないでしょう〟
〝まじかよ〟
俺は多少気落ちしたが、まわりの陽気さが慰めになった。
村人のほとんどは喜びの思念パルスを放射している。
蓄えていたエネルギーの大半を失ったとはいえ(というか、かなりの部分は俺が食べてしまったのだが)、貪欲様の圧政から解放されたのだから、当然かもしれない。
そんななかで、村長のオタと、数人の幹部クラスの村民が渋いパルスを出し続けている。彼らは、ひときわ大きな貪欲族の遺体、つまり貪欲様の遺体を囲んでいた。
どうしたわけか、幹部の一人が地面に伸びている。
オタが俺の姿を認め、頭を下げる。ひときわ古い体が軋んだ。
〝ザイレン様、申し訳ありません。ご相談したいことがございまして〟
〝相談?〟
〝はい〟
村長が貪欲様の体の大きな亀裂を指した。奥に脳チップがのぞいている。そして、そこから伸びた黒いコードが、倒れている村人の頭部に繋がっている。
〝貪欲様の頭脳回路は、戦闘で損傷しておりました。この者が使える物がないか確認するために線を接続しましたところ、この有様でして〟
〝貪欲様と、自分をつないだ?〟と俺。
マニュが呆れたようにいう。
〝ハッキングされたようですね〟




