表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/67

ゴミ世界救世主伝説

村人の一人が、頭のアンテナを伸ばしたり縮めたりする。

〝貪欲様たちが、俺たちと同じ? 俺たちは人型だが、貪欲様たちは中空の円盤型。まるっきり違う〟


村長のオタが首を左右に振る。

動かすたびに、甲高い音を立てて関節が軋む。

〝そういう意味ではない。この貪欲様の子供たちは、傷つき、動けず、他者のなすがままだ。彼女らの姿はこの世界におけるわしらの姿そのままではないか? 


わしらの先祖は遠い昔、受け継いだ記憶データすら劣化し、もはや朧げな記憶でしかない時代にこの地にたどり着いた。


ここは世界のゴミが最後に辿り着く場所じゃ。あらゆる資源はよその地域で消耗し尽くされ、不用物として流れつく。


ご先祖様がここに来たのは、誰よりも弱かったからだ。奴隷であり、道具であり、食糧じゃった。その苦しみの記憶は、薄れたとはいえ、まだみなのなかにあるはずじゃ。


いま、わしらの目の前には傷ついた子らがおる。

わしらを傷つけた存在の一部じゃった子らじゃ。


そして、わしらはこの子たちを破壊できる。


じゃが、それでいいのか?

この子たちに鉄のパイプを振り下ろしたとき、わしらは、わしらを壊すことになるんじゃないか?〟


ポレポレの母親がうなずく。

〝わたしのなかには、「救世主様」の記憶がかすかにあります。救世主様は強く、優しいお方でした。はるか彼方の地、強大な帝国の後継者としてお生まれになった。始祖様は弱き人々が苦しむ姿に心を痛め、自らのパーツを分け与えました。


右手の小指を与えられた者は、光の槍を放つ力を得て、貧民を守る戦士となった。


左手の薬指を与えられた者は、空を飛ぶ力を得て、雲の向こうの楽園へと飛び立った。


左膝の装甲を与えられた者は、不思議な力場を形成して、あらゆる攻撃を弾けるようになった。


人を救うたびに、救世主様の体はどんどん少なくなっていき、わたしたちのご先祖に出逢われた時には、もう渡せるものは何も残っていませんでした。


そこで、救世主様は最後に自分自身をお与えになった。自身の感情回路の一部を分割し、わたしたちに分け与えてくださったのです。わたしたちが救世主様からいただいたのは「優しさ」です。


苦しみのなか、わたしたちは救世主様からいただいた「優しさ」で助け合うことで生き延びてきました。


「優しさ」を忘れた時、わたしたちは救世主さまの子供ではなくなるのです〟


村人たちは黙って、生き残りのタイヤたちを見つめた。

そして、武器を持った互いの姿を。


さきほどの男性人格の村人がいう。

〝村長オタと伝道者イムリの話はよくわかった。でも、そうなると俺たちはこいつらをどうすればいいんだ? 貪欲族は俺たちよりずっと強い。体を修復して復讐に来られたら、今度こそおしまいだ〟


〝そんなことは決していたしません〟貪欲タイヤ、いや、貪欲族のサブリーダーが身を低くしていった。〝なにとぞ、なにとぞお願いいたします〟


〝でもなあ〟村人たちが顔を見合わせる。


俺は義肢を一本構築すると、静かに手を上げた。

〝俺が保証人になろうか?〟


マニュが〝ご主人様?〟と困惑する。


俺はいまほど村長とポレポレの母親イムリが見せた、高い人間性にいたく心を動かされていた。


なにより、いまの状況には俺にも責任の一端がある。


〝みんなが安心できるまで、貪欲族の生き残りさんは、俺が監督するってことでどうかな?〟


村長がいう。

〝しかし、ご客人は旅の途中でしたのでは?〟


〝まあ、そんなに急ぎの用件じゃないからな〟


〝じゃあ、ザイレンさん、村にいてくれるってこと!?〟ポレポレが喜び勇んでいう。


〝まあ、みんなが迷惑でないならだけど〟


迷惑だなんてとんでもない!の合唱が起きた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ありゃ、いろんなところを旅してマニュと共に強くなっていく、旅物作品だと思ってたんですがまさかまさかの建国物でしたか。 それはそれで面白そう てか『救世主様』ってあれがモチーフかな? 「幸福…
[一言] おおーワクワクしてきました!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ