表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/67

超物質ベーゴマ

物質構築機を起動し、身体の表面からセラミック質の刃を生やす。


さきほど、貪欲様の体内刃に巻き込まれたときにスキャンしたものだ。俺の金属義肢をバターのように切り裂いた、おそるべき歯。


〝どれくらいの長さまで作れる?〟


マニュが答える。

〝構築量は取り込んだ素材量に正比例します。ケイ素はあまり摂取していませんでしたから、一メートル十二センチ四ミリです〟


貪欲様の腹の直径は五十センチほどだ。


俺は自分の背ーーといっても、円盤型なので俺が主観的に後ろと感じている部分ーーを、貪欲様の内壁に当てた。


セラミックの刃はどんどん伸び、反対側の内壁につっかえた。そのまま壁から生えている貪欲様の短い刃を端折り、壁にめり込み、「外」へ突き抜ける。


と、至近距離から、貪欲様でも村人でもない念声が電波として発信された。悲鳴だ。激しい苦痛を訴えている。


貪欲様が〝なに? 罹静!? どうしたの?〟と叫ぶ。


俺は、セラミック刀の錬成を長さ七十センチで終えると、義肢を四本構築した。それぞれの手先はセラミック素材でコーティングしてある。


四本の手で、貪欲様の内壁に手を突っ張り、思い切り身体を回す。


また謎の存在の悲鳴が上がった。


俺は刃を突き立てたまま、貪欲様の口があった方向めがけて爆進した。


貪欲様がわめく。

〝王静!〟〝劉静!〟〝張静!〟


と、いきなり貪欲様が輪切りになった。


俺は彼女の身体を縦方向に斬っていたのだが、まな板に横に置いた竹輪を切るかのように、三十センチから一メートル間隔でバラバラに分裂したのだ。


俺は未消化の資源と一緒に体外に放り出された。


側面から落下して地面を転がり、義肢を使って車輪を下に停止する。


ポレポレが〝ザイレンさん!〟と歓声をあげる。


貪欲様は三十個ほどの個体に分かれていた。一つ一つの個体は「金属製のタイヤ」とでもいうべきか。各々が直立して、こちらを向いている。ただし、四つほど横たわったままの個体がある。俺が体内からぶった斬ったやつらだ。起きあがろうと、外殻の装甲板を上下させているが、うまくいってない。


ひときわ幅の厚いタイヤがいった。

〝下等存在のくせに、よくもやってくれましたね〟


これが貪欲様らしい。


他のタイヤたちが、何かよくわからない言語を俺にぶつけてくる。貪欲語で呪詛の言葉でもつぶやいるのか。


〝あなたは資源として活用しませんわ。切り刻み、押しつぶした後、このゴミ山にばら撒いて差し上げます〟


貪欲様はそういうと、装甲板を逆立て、猛然と突進してきた。


俺はセラミック刃を腹部に素早く飲み込むと、再度構築機を動かした。義肢を全て切り捨て、身体の側面八箇所に分厚めのセラミック刃を装着する。さらに、それぞれの刃の下にキャタピラ式推進装置を追加する。キャタピラは今や食べ慣れた「ティッシュ箱」の捕食時にスキャンしておいたものだ。


俺はキャタピラを全速回転させた。俺の身体は、危険極まりない刃付きの駒と化した。


マニュが、外部カメラが捉えた映像を加工してくれたので、目を回すこともなく、まっすぐ貪欲様に向かった。


自動車同士が正面衝突したかのような衝撃。


破壊音と共に貪欲様が破片を撒き散らしながら宙を舞い、地面に叩きつけられた。


俺の方は、多少よろけ、刃の一本が欠けただけ。


マニュが〝お見事!〟と感嘆の思念を漏らす。


〝ベーゴマの要領だよ。より低い姿勢を取れるほうが有利だ。しかも、こっちの本体部分は超物質だ〟


貪欲様の同族が怒りに身を震わせて、襲い掛かってくる。


轢殺を狙った多くの個体は、貪欲様と同じように吹き飛ばされる運命となった。


個体を一つ破壊するごとに、村人たちが喜びの思念を爆発させる。

ポレポレは、ずっと俺の名前を叫んでいる。


貪欲タイヤたちは、数を三分の一ほどにまで減らしたところで戦略を変えた。一匹が、身体を横倒しにして輪投げの要領で俺の身体をすっぽり覆う。そのうえで、体内刃を回転させた。


普通の相手なら破壊できたろうが、あいにくと俺は硬い。しかも、こちらの刃は向こうより厚みがある。


俺を包んだ一匹は、ほかの個体以上に無残な有様となった。


ボロボロになって横たわっていた個体の一つが叫ぶ。

〝龍静!安静!周静!義静!逃げなさい!この敵に勝てません!〟

貪欲様ほどではないが、かなり大きな個体だ。集団のサブリーダーか。


名指しされた四個体は逃げなかった。

互いの体を連結し、整地用ローラーのような姿となって。こちらに転がってくる。


結果は同じだった。

ローラーは俺との激突で真っ二つに割れたのち、それぞれの塊が二つずつの個体に分裂して動かなくなった。


村人たちが、電子的な大歓声をあげながら俺に駆け寄ってくる。みな、スクラップ同然の身体なので走りはぎこちない。じっさい、何人かは足がもつれて転倒した。


俺があわてて身体の回転を止めたところで、ポレポレが抱きついてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです! [一言] これからも読みます!!
[一言] 貪欲様、村の機械人たちのように自己複製しながら少しずつ長くなっていく群体生命体、みたいな感じかな? それで群体全体の通し番号、群体名として「静」、個々の名として「王」とか「劉」があるのかな。…
[一言] ロボット掃除機ってこわいなー
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ