超物質ベーゴマ
物質構築機を起動し、身体の表面からセラミック質の刃を生やす。
さきほど、貪欲様の体内刃に巻き込まれたときにスキャンしたものだ。俺の金属義肢をバターのように切り裂いた、おそるべき歯。
〝どれくらいの長さまで作れる?〟
マニュが答える。
〝構築量は取り込んだ素材量に正比例します。ケイ素はあまり摂取していませんでしたから、一メートル十二センチ四ミリです〟
貪欲様の腹の直径は五十センチほどだ。
俺は自分の背ーーといっても、円盤型なので俺が主観的に後ろと感じている部分ーーを、貪欲様の内壁に当てた。
セラミックの刃はどんどん伸び、反対側の内壁につっかえた。そのまま壁から生えている貪欲様の短い刃を端折り、壁にめり込み、「外」へ突き抜ける。
と、至近距離から、貪欲様でも村人でもない念声が電波として発信された。悲鳴だ。激しい苦痛を訴えている。
貪欲様が〝なに? 罹静!? どうしたの?〟と叫ぶ。
俺は、セラミック刀の錬成を長さ七十センチで終えると、義肢を四本構築した。それぞれの手先はセラミック素材でコーティングしてある。
四本の手で、貪欲様の内壁に手を突っ張り、思い切り身体を回す。
また謎の存在の悲鳴が上がった。
俺は刃を突き立てたまま、貪欲様の口があった方向めがけて爆進した。
貪欲様がわめく。
〝王静!〟〝劉静!〟〝張静!〟
と、いきなり貪欲様が輪切りになった。
俺は彼女の身体を縦方向に斬っていたのだが、まな板に横に置いた竹輪を切るかのように、三十センチから一メートル間隔でバラバラに分裂したのだ。
俺は未消化の資源と一緒に体外に放り出された。
側面から落下して地面を転がり、義肢を使って車輪を下に停止する。
ポレポレが〝ザイレンさん!〟と歓声をあげる。
貪欲様は三十個ほどの個体に分かれていた。一つ一つの個体は「金属製のタイヤ」とでもいうべきか。各々が直立して、こちらを向いている。ただし、四つほど横たわったままの個体がある。俺が体内からぶった斬ったやつらだ。起きあがろうと、外殻の装甲板を上下させているが、うまくいってない。
ひときわ幅の厚いタイヤがいった。
〝下等存在のくせに、よくもやってくれましたね〟
これが貪欲様らしい。
他のタイヤたちが、何かよくわからない言語を俺にぶつけてくる。貪欲語で呪詛の言葉でもつぶやいるのか。
〝あなたは資源として活用しませんわ。切り刻み、押しつぶした後、このゴミ山にばら撒いて差し上げます〟
貪欲様はそういうと、装甲板を逆立て、猛然と突進してきた。
俺はセラミック刃を腹部に素早く飲み込むと、再度構築機を動かした。義肢を全て切り捨て、身体の側面八箇所に分厚めのセラミック刃を装着する。さらに、それぞれの刃の下にキャタピラ式推進装置を追加する。キャタピラは今や食べ慣れた「ティッシュ箱」の捕食時にスキャンしておいたものだ。
俺はキャタピラを全速回転させた。俺の身体は、危険極まりない刃付きの駒と化した。
マニュが、外部カメラが捉えた映像を加工してくれたので、目を回すこともなく、まっすぐ貪欲様に向かった。
自動車同士が正面衝突したかのような衝撃。
破壊音と共に貪欲様が破片を撒き散らしながら宙を舞い、地面に叩きつけられた。
俺の方は、多少よろけ、刃の一本が欠けただけ。
マニュが〝お見事!〟と感嘆の思念を漏らす。
〝ベーゴマの要領だよ。より低い姿勢を取れるほうが有利だ。しかも、こっちの本体部分は超物質だ〟
貪欲様の同族が怒りに身を震わせて、襲い掛かってくる。
轢殺を狙った多くの個体は、貪欲様と同じように吹き飛ばされる運命となった。
個体を一つ破壊するごとに、村人たちが喜びの思念を爆発させる。
ポレポレは、ずっと俺の名前を叫んでいる。
貪欲タイヤたちは、数を三分の一ほどにまで減らしたところで戦略を変えた。一匹が、身体を横倒しにして輪投げの要領で俺の身体をすっぽり覆う。そのうえで、体内刃を回転させた。
普通の相手なら破壊できたろうが、あいにくと俺は硬い。しかも、こちらの刃は向こうより厚みがある。
俺を包んだ一匹は、ほかの個体以上に無残な有様となった。
ボロボロになって横たわっていた個体の一つが叫ぶ。
〝龍静!安静!周静!義静!逃げなさい!この敵に勝てません!〟
貪欲様ほどではないが、かなり大きな個体だ。集団のサブリーダーか。
名指しされた四個体は逃げなかった。
互いの体を連結し、整地用ローラーのような姿となって。こちらに転がってくる。
結果は同じだった。
ローラーは俺との激突で真っ二つに割れたのち、それぞれの塊が二つずつの個体に分裂して動かなくなった。
村人たちが、電子的な大歓声をあげながら俺に駆け寄ってくる。みな、スクラップ同然の身体なので走りはぎこちない。じっさい、何人かは足がもつれて転倒した。
俺があわてて身体の回転を止めたところで、ポレポレが抱きついてきた。




