最強勇者の一撃は
村人は、客人として貪欲様をもてなした。
まず、「シリンダー蟲のバッテリー液漬け」を三つ差し出した。
貪欲様はぺろりと平らげると、〝もっと〟とおかわりを要求した。
村人は気前良く、バッテリーを三つ追加した。
貪欲様は、これもすぐに食べ終えて、またおかわりを望んだ。
おかわりが二十三回続いて、バッテリーの備蓄は空になった。
村人がそれを告げると、貪欲様はシリンダー虫が養殖されている畑に向かい、育成中のシリンダー虫をバリバリ食べ始めた。
畑がなくなっても、当時の村長は怒ることなく、逆に恐縮しながら〝ご客人、申し訳ないのだが、うちの村の食料は全て無くなりました〟と、頭を下げた。
貪欲様は、その村長を頭から丸呑みした。
(貪欲様がタイヤ型だった場合、「丸呑み」という表現には疑問符が付く)
村人たちは、ようやく相手が怪物であることに気づき、養殖に使う柄杓や、ティッシュ箱狩りに使う原始的な槍を手に立ち向かったが、逆に片端から喰われる結果になった。
貪欲様は、十八人の村人を平らげたのち、〝また来る〟と言い残して、ゴミ山の彼方へと消えていった。
以降、284年間に渡り、定期的に村を訪れては腹を満たすことを繰り返している。
〝284年!?〟俺は思わずいった。
先祖の記憶を語っていた村長オタが、ポレポレの家のテーブルに直方体型の顔を伏せた。
〝お恥ずかしい。わしらもその間、何もしなかったわけではないのです。187年前には、当時の村人が各々の性能のよいパーツを供出して「勇者」を作りました。誰よりも大きく、誰よりも強い男です。油圧ジャッキで畑用の鉄板十枚を軽々と持ち上げ、高速アクチュエーターで風のように動くのです。
勇者は貪欲様に捧げる壺の中に潜み、無警戒の貪欲様が近づいてくるのを待ちました〟
〝それで、どうなったの!?〟と、ポレポレ。
〝勇者の一撃は、貪欲様の腹をぶち破った!〟
〝それで!?〟
〝怒った貪欲様は勇者を八つ裂きにしたあと、三十二人を喰らい、村の人口は四人にまで減った。以降、わしらは探し続けておる〟
〝何を探してるんです?〟と、俺。
〝スクラップのなかから、貪欲様を倒せるだけの何かをですわい〟
ポレポレがいう。
〝そんな都合のいいものが出てくるの? 現に、あたしが作られてから七年間で、ゴミ探しの人たちが見つけた特別なものって、温かな風が出てくる変な筒くらいだよ?〟
〝七年がどうした。わしらは待つんじゃ。何十年でも、何百年でも〟
〝あたし、そんなの嫌だよ!〟
〝こら〟ポレポレの母親が手を伸ばして娘の肩に手を置いた。〝村長様だよ。もう少し丁寧にね〟
〝でも、こんな話を、ずっと内緒にしとくだなんて酷い!〟
オタもポレポレの肩に手を置いた。
〝分別のつく歳になるまでは、話さないことにしとるんだ。わしらがまだ貪欲様を倒そうとしておることを、貪欲様に悟られてはまずいでな。
今回、お前さんはそろそろ知ってもいいと思って伝えたわけだが、少し早かったかもしれんの。
じゃが、理解してほしい。たしかに何百年も待つのはつらいことだ。それでも、待つなら無駄に誰かが死ぬことはない。無駄に仲間を失ってはならんのだ。みな誰かの親であり子なのだから〟
〝でも、それじゃあ、その何かが見つかる前に、母さんが壊れちゃうよ! 貪欲様がいなくなれば、貪欲様に捧げるためのチップを使って母さんを少しでも治せるかもしれないのに!〟
ポレポレはそう叫ぶと、円形の扉を開けて家の外に出ていった。
オタが俺に頭を下げる。
〝お客人に、お見苦しいところを〟
〝いえ、俺が頼んで聞かせてもらったことですから〟
オタがポレポレの母親にカメラアイを向けた。
〝早めにあの子に、お前さんの記憶の一部を渡しておいてくれ。そうすれば、わしらの気持ちをわかってくれるはずじゃ〟
俺は車輪を短く前後進させ、身体を揺らして一礼すると、義肢を使って椅子から降り、車輪回して時速二キロでポレポレを追った。




