王太子視点8 俺の聖女の手を握れました
何かいい夢を見ているみたいで、ワイルダー嬢は微笑んでいた。
そして、
「殿下」
と寝言を言って手を差し出してくれたのだ。
嘘だ。ワイルダー嬢が俺に手を差し出してくれた。おれはまだ呆れられていないんだ。
俺は歓喜に震えた。
そして、おずおずとその手を握った。
奇跡だ。あの時に俺を助けてくれた女の子の手を握れたんだ。
もう二度と会えないんじゃ無いだろうか、と今だから言えるけど、思うことも一度や二度ではなかった。王都の貧民窟で身をやつして探していたときには、母が言うようにあの子は天使様だったのかもしれないと、諦めようとしたこともある。
でも、探していたら、いつか、かならず見つかると思って必死に探していたのだ。その彼女の手を今、確かに握れたのだ。
それも夢の中での寝言だったが、彼女は俺を呼んでくれたんだ。
そう、そして、俺に手を差し出してくれたのだ。
俺は気付いたら目から涙を流していた。
やっとやっと会えたのだ。俺の聖女様に。
俺は神に感謝した。
俺の聖女様は俺と手を繋いだ状態で
「うーん、幸せ」
と、寝言でも、言ってくれた。
えっ、俺は嫌われているのではないの?
意地悪な妹のせいで本人の前ではっきりと他に好きな人がいると言ってしまったのに。
幸せって言ってくれた・・・・
俺は本当に酷いことを言ってしまったのに。
俺は俺の聖女が幸せと言ってくれて、本当に嬉しかった。
とその時に俺の聖女がゆっくりと目を開けたのだ。
「もう少し殿下に手を握っていてほしかったな」
俺の聖女がそう口に出して言ってくれた。
ウッソーーーー。俺は嫌われてはいない!
もう俺は天にも登りそうな気持ちだった。
俺は抱きしめたいのを我慢して、
「別に俺で良ければいつまでも握っているよ」
俺ははっきりと聖女に言った。
その声に聖女は目を瞬いてぱっちりと目を開けた。
「えっ!、ええええ!」
慌てて聖女が飛び起きた。その驚く仕草が昔のミニ聖女を思い出させた。
「で、殿下、どうしてここに?」
聖女は驚いていた。寝間着姿にも関わらず、唖然としている。その姿がメチャクチャかわいい。
「いや、君に助けてもらったからお礼を言いに来たんだが」
俺は泣いていたことは必死に隠そうとして少し冷たくなってしまったかもしれない。
「いや、殿下には1年前に助けていただきましたし」
聖女は真っ赤になっていた。
「それを言うのならば、10年前も君に命を救われたじゃないか。俺のミニ聖女は君だったんだね。ワイルダー嬢、いや、魔法聖女エレインと呼ばせてもらおうか」
俺は精一杯格好をつけて言ってみた。
そうでも言わないと彼女の前でまた泣きそうだった。
そこにマリアンが飛び込んできたのだ。
マリアンが入ってこなかったら、彼女の前でまた泣いていたかもしれない。
マリアンはプッツン切れていたが、もうそんな事はどうでも良かった。やっと俺の聖女の手を握れたんだから。
俺はマリアンに追い出された。
でも、ワイルダー嬢といや、エレと話せたのだ。手まで握れた。もうこれ以上の嬉しさはなかった。
その日は本当に幸せだった。夢にまで見た日がついに来たのだ。
その日は興奮して殆ど寝れなかった。




