目覚めたら、王太子殿下の顔のドアップが目の前にありました。
私は流石に魔王を倒した後はフラフラだった。
魔力を使いすぎたらしい。
でも、なんとか魔王を退治できた。何しろ今までずうーっと魔王を怖れて、この眼鏡をかけて隠れて生活していたのだから。それが無くなってホッとしたのも事実だ。もう隠れて生活する必要もないだろう。
本当にほっとして気が抜けたのだろう。私はそのまま気を失ってしまった。
ホッとしたからだろうか。それは久々に深い眠りだった。
その眠りの中、私は王太子殿下の夢を見た。
夢の中で殿下は私に優しかった。
「殿下」
私が手を差し出すと、その手を握ってくれた。
「うーん、幸せ」
そう思わず言ってしまった時だ。丁度、そこで夢から目が覚めてしまった。
「もう少し殿下に手を握っていてほしかったな」
私はため息をついて起きようとした。
「別にいつまでも握っているよ」
王太子殿下の声が聞こえたような気がした。
ぼやけていた私の目の焦点が急に合わさる。
その目の前にドアップの王太子殿下の顔があったのだ。
「えっ!、ええええ!」
私はびっくりして目が覚めた。
慌てて飛び起きる。
「で、殿下、どうしてここに?」
私は焦りまくっていた。よく見たらそこは私の寮の部屋だった。
「いや、君に助けてもらったからお礼を言いに来たんだが」
「いや、殿下には1年前に助けていただきましたし」
私は真っ赤になって言った。もう心臓が止まるかという感じだった。
「それを言うのならば、10年前も君に命を救われたじゃないか。俺のミニ聖女は君だったんだね。ワイルダー嬢、いや、魔法聖女エレインと呼ばせてもらおうか」
ニコリと王太子殿下が笑った。
嘘ーーー、もう私は死んでもおかしくなかった。
そこに扉がどんと開いてマリアンが飛び込んできた。
「お兄様。何私がいない時に勝手にエレの部屋に入っているのですか。ここは女子寮です。それも手を握ったりして」
「え、ええええ!」
私は今まで王太子殿下に手を握られているのに気付かなかった。
慌てて手を離す。
「いや、マリアン、私と彼女は10年前から赤い糸で結ばれていたんだよ」
王太子殿下が何かとても恥ずかしいことを言ってくれる。
「はんっ。何をふざけたことを言っているんですか。そんな訳無いでしょ」
「いや、だって10年間探してやっと彼女に会えたんだ」
うっとりして王太子殿下がおっしゃる。うわーーーー、こんな顔もされるんだ。私は赤くなりながらそんなお顔がみれて感激していた。
「ふんっ、私は散々、エレと付き合ったらどうですかと言いましたよね。お父様と王妃様の前で」
「いや、あのマリアン、それは」
容赦のないマリアンの言葉に王太子殿下は焦りだされた。うそ、マリアンそんなことを言ってくれてたんだ。私のことを思って。
「お兄様は絶対にエレとはそう言うことにはなりえないと言い切ったのですよ。ブス眼鏡とはありえないと」
えっ、いやそうか、そうだよね。やっぱり殿下はそう思っていたのだ。私はとても悲しくなった。
「いや、待て、ブス眼鏡と言っていないぞ」
殿下が必死に言い訳する。
「変わんないこと言っていました。それをエレがメガネを外した途端に態度を180度変えるなど、我がクラスの男子連中とおんなじじゃないですか」
「いや、マリアン、それは違うぞ。エレイン嬢。本当に違うんだ。信じてくれ」
今度は殿下は私に懇願してきた。
「ええい、煩い! おんなじです。それも寝間着の女性の部屋に勝手に入るな。すぐに出ていけ」
私はマリアンの声に自分が寝間着姿だったのに、気付いた。慌てて布団をかき寄せる。
「いや、ちょっと、マリアン」
マリアンは抵抗しようとする王太子殿下を強引に部屋の外に追い出した。
「本当に信じられない!」
扉から追い出すとマリアンは憤慨していった。
「リン!、あんた何、お兄様を入れているのよ」
一緒に入ってきたリンに文句を言う。あれ、何でリンがここにいるんだろう? 私の看病をしてくれていたのだろうか?
「だって殿下。王太子殿下が10年前から必死に探し求めていたのがエレだって言われて、感動して」
「だからって女性が寝ている部屋に1人で入れることはないでしょ。何であんたがついていなかったのよ」
「いや、飲み物の準備しに行ったんです。そろそろ起きると思うから飲み物の準備でもしてほしいって殿下が言われて」
「そんなのお兄様に取りに行かせればいいでしょ」
「申し訳ありません」
リンがマリアンに謝っていた。
「本当よ。何が赤い糸よ。私は散々、エレがそうだって言ったのよ。それを信じなかったのはお兄様じゃない」
「いや、待て、彼女がそうだとははっきりとは聞いていないぞ」
「それに近いことは散々言いました。というか入ってくるな」
マリアンは傍の本を投げようとした。
殿下は慌てて飛び出す。
「殿下!、ここは女子寮です。何故殿下がこちらに」
廊下から寮監の怒った声が聞こえてきた。
「いや、先生。命の恩人のエレイン嬢が心配で」
「いい加減にしてください! 殿下で何人目だと思っているのですか。王族だからと許せません」
「いや、ちょっと、先生・・・・・」
ドタバタと王太子殿下が連行される音がした。
「あれは反省文1万字の刑かな」
私がポツリと言った。
「ふんっ。良いのよ。エレの素顔を見た途端態度変えやがって。エレはあんな誠意のないやつが良い訳」
「いや、あの、マリアン、私は平民だから元々王太子殿下は無理だから。それに素顔見たって何にも変わらないでしょ」
「はん? あんた、何言っているのよ」
マリアンが部屋の片隅を指差した。そこには何かラッピングされた荷物が一杯積んである。
「ん? あれどうしたの?」
「あんた宛のプレゼントよ」
「はい?」
私には理解できなかった。そんなの今までにもらったことはなかった。たまにデザートを皆が私に分けてくれるくらいだ。このプレゼントの山って何?
「皆あんたの素顔見た途端に、変わったのよ」
「変わったって何?」
私にはよく判らなかった。
「今までブス眼鏡といって馬鹿にしていた奴らが、あんたの素顔見た途端に、『付き合って欲しい』と言い出して一杯プレゼント持ってきたのよ」
マリアンが呆れて言った。
「嘘!」
私には信じられなかった。
「嘘なわけ無いわよ。ねえ、リン」
「はい。寮監に渡しただけでは埒が明かないと思ったのか、10名くらいが忍び込んでここまで来ようとして、寮監に捕まっています」
何か信じらないことを言われている。
「皆私が聖女だって判ったからかな」
聖女は国にとってとても貴重だ。
「それもあるかもしれないけれど、全ての原因はあなたの素顔を見たからよ」
「ええええ! 私の顔なんて普通だよ。おばあちゃんには散々、『私の若い頃は美人だったのに、あんたは遺伝しなかったんだね』って言われていたんだから」
私が言うとマリアンが呆れて言った。
「あんたそれ、おばあちゃんがあんたに嫉妬して嘘教えたか、昔の美人の基準が違ったかどちらかよ」
「私も絶対にそう思います。エレ、こんなに美人だなんて知りませんでした」
「えっ、そうかな」
私はすぐには信じられなかった。
でも、二人が私に嘘言っても仕方がないのかもしれない。
考えるに祖母の性格からいって、嫉妬して本当に嘘を言いかねなかったし。
私って美人なの? 今ひとつピンとこないのだが・・・・
「でも、これ全て食べ物って凄いわね」
「えっ、そうなの?」
私はマリアンの言葉に現実に戻された。
「普通女の子に贈り物って言ったら、花が定番なのに」
「幸福堂のケーキとか、チョコレートとか、果ては飴玉までありますよ」
うーん、二人にそう言われると、女としてはとても残念なのではと思ってしまう。
でも、幸福堂のケーキ・・・・
「えっ、幸福堂のケーキあるの!」
私は喜んで言った。
「あんた本当に安上がりな女ね」
「本当に何か残念です」
私はその残念がる二人の前で、幸福堂のケーキを幸せいっぱいな笑顔で食べていた。
皆様、ここまで読んで頂いてありがとうございました。
次話最終話です。すいません。明朝更新になります。




