魔王視点3 斬られた男は闇の復活を遂げて伯爵家に襲いかかりました
多少の血なまぐさい表現あります。ご注意を。
アシュバートン伯爵の護衛に斬られた男は死の淵で苦しんでいた。
こいつは本当に馬鹿だ。
あんなところで、男たちに襲いかかろうとするなんて馬鹿でしかない。
やり方は色々あるのに、あそこでバカ正直に出ていく奴がいるとは。
その上、何故、俺様、魔王様がその男の面倒を見てやらねばならないのだ。
絶対に何か違うぞ!
普通俺様は男に、いや、嫌がる女に襲いかかって散々恐怖にもだえ叫ぶ女をなぶり殺すのが仕事だ。助けを求める女どもを情け容赦もなく殺していくのが。
それが何の因果で死にかけのそれも男の面倒を、というか、看病をしなければいけないのだ。女ならまだしも・・・・いや、それも良くない!
絶対に何かが間違っているぞ!
俺様は1000年もの封印と、この10年間の放浪生活で何かが変わってしまったのか・・・・
いやいやいや、そんなことはない。
ここまでこの男に対してやってきた努力を無駄にしたくないだけだ。
絶対にそうだ。この男に情が湧いたとかそんなことでは断じて絶対に無い!
でも、また、素材を間違えたのかもしれない!
本当に手間ばっかりかけさせる男だ。
今も闇の魔術でなんとか生きながらえさせている。
そして、今は大量の悪夢を、男の夢の中に流してやっているところだ。
俺様も本当に人が良くなった。
昔はこうなったら、あっさり捨てて他に乗り換えていたのに。
いや、新たに探すのが面倒なだけかもしれないが・・・・・
今は男にこいつの好きなルイーズとかいう女が、こいつを殺そうとした男らに、手篭めにされて泣き叫んでいる夢をせっせと流し込んでいた。
男が悪夢にうなされていた。
そして、女が学園の奴らに囲まれて「売女!」と散々バカにされて虐められている夢も見させていた。
特にこの男が恋してしまった眼鏡女にバカにされる夢もプラスした。
これであの眼鏡女を見ても、それに惹かれることはないだろう。
まあ、現実問題としてあのルイーズという女が手篭めにされたくらいで泣き叫ぶかと言うと疑問だが。逆にそれをネタに伯爵家を脅しそうなのがあの女なのだ。絶対に。
まあ、その本性を知ってブス眼鏡に乗り換えようとしたこの男は正しかったのかも・・・・いやいやいや、あのブス眼鏡は違うだろう。何故か俺様はあの女を見ただけで怖気がする。絶対にあの女だけは違うだろう。俺は見るのも嫌だ。出来る限り近寄りたくない。
「ウォーーーーー!」
そう叫ぶと男が飛び起きていた。
目が怒りでランランと黒く輝いて、いや、曇っていた。
「おのれ、伯爵共め、ルイーズにあんな事をするとは許せん」
男は復讐に燃えていた。
復讐のために冥府から復活したのだ。これで強くなったはずだ。闇の想いもガンガンに感じる。
まあ、魔王としては何かパワーも勢いも少し足りないような気がするが、それはおいおいと付け加えていけばいいだろう。
俺様は、その男ヨーゼフを伯爵家に向かわせた。
男は夜の闇の中をゆっくりと森を抜けて、森の近くの伯爵の屋敷に向かった。
伯爵の屋敷なだけに門の横には守衛が立っていた。
「ん?、貴様はだれだ」
守衛はヨーゼフに気づいて慌てて誰何した。
「お前もアシュバートン伯爵の手のものか」
ヨーゼフはそう言って手を前に掲げる。
守衛は慌てて剣に手をかけた。
しかし、次の瞬間にはヨーゼフの放った闇魔術で守衛は肉片に変えられていた。
ドカーン
次の瞬間大音響とともに門が吹き飛んでいた。
「な、何事だ」
慌てて私兵たちが駆けてくる。
ヨーゼフはそれを次々と肉片に変えていった。
当たるところ敵なしだ。
屋敷の扉も一瞬で弾き飛ばす。
そして、屋敷の中に入り込んだ。
「キャーーー」
女どもの悲鳴がする。
「な、何奴だ」
そこに慌てて、ヨーゼフを斬った男がやってきた。
「き、貴様、生きていたのか」
男は驚いてヨーゼフを見た。致命傷を負ったヨーゼフを繰ってこの男のそばから逃げ出したのだ。男がどう考えてもヨーゼフが逃げ切ったとしても生きていまいと思っていたのも当然のことだった。
「貴様よくもルイーズにあのようなことをしたな!」
ヨーゼフは男を睨み付けた。
「ルイーズ?、ああ、あの阿婆擦れか」
男は馬鹿にしたように言った。
「俺はまだ何も・・・・」
次の瞬間、俺様は余計なことを言いそうな男の首を飛ばしていた。
そして声ならぬ声でヨーゼフに先に進めと命ずる。
そこに階段から以前ヨーゼフを殴り付けた伯爵の息子が駆け降りてきた。
「き、貴様、あの時の!」
息子は驚いて叫んでいた。
「ふん、貴様もあの時はよくもやってくれたな」
ヨーゼフはギロリと息子を睨み付けた。
「ギャッ」
息子は首を無くした護衛に気付いて悲鳴をあげる。
後ろに必死に下がろうとした。
ヨーゼフが手を前に突き出す。
「や、止めてくれ!」
腰を抜かした息子は這って逃げようとする。
ヨーゼフはまず息子の右腕を吹き飛ばした。
「ヒッヒエエエ」
息子は必死に逃げようとした。
「あっはっはっはっ」
ヨーゼフは笑ってゆっくりと息子に近づく。
「く、来るな、来るんじゃない!」
「あっはっはっはっ」
「ギャー」
息子の悲鳴が屋敷中に響いたのだった。
ついに魔王誕生です。そろそろラストに向けて突っ走りますのでよろしくお願いします。




