王太子視点4 婚約者を早く探せと父母が煩いです。
「パーシ、そろそろ、考えてくれたの?」
俺は母から催促された。
「外務大臣のあの娘さんとかどう?」
今日は週に一度の両親との食事会だ。本来は家族4人の食事会なのだが、最近妹は何かと言い訳していないことが多い。妹さえいればここまで言われることがないのに、あいつ、許さない。最近はあの眼鏡チャンとよくつるんでいるみたいで、王宮にはよく来ているみたいだが、めったにここには顔を見せない。父上の機嫌も悪くなるし、ますますうるさくなるのをなんとかして欲しい。
「お前も、もう18だろう。私はその時はキャサリンと婚約していたぞ」
「そうよ。それにあなたが婚約者を決めないから、貴族の令嬢たちもなかなか相手を決められなくて、息子の嫁探しも難航しております、とこの前宰相にも文句を言われたのよ」
父母は畳みかけてきた。
「だから、私は私の命を助けてくれた聖女としか結婚しないと言っているでしょう」
「でも、その聖女は天使様じゃないの?」
「違います。ちゃんと生きていました」
「あーら、嫌だ。天使様も生きているわよ」
母が訳の判んないことを言う。
「天使様は人間ではないでしょ。彼女はちゃんとした人間でしたから」
「でも、天使様も人には変装できると思うわ。だって、あなたがあれだけ探しても全然見つけられないのでしょう。私は女神様があなたを哀れんで天使様を遣わしてくれたのだと思うわ」
「しかし、母上、天使様が浄化とヒールを間違いますか?」
「えっ?、それはしないと思うけど」
「そうでしょ。その子は魔王相手にヒールで攻撃していたのですよ。あれは絶対に浄化です」
「でも、まだ見習いの天使だったかもしれないじゃない」
母はとんでもないことを言いだした。
「見習いで魔王に勝てるのですか?」
「そらあ天使様だもの」
「そんな訳無いでしょ。そもそも彼女はヒールをする時に、魔法聖女エリのマネして手を上げていたのですよ」
「えっ、そんなの当たり前じゃない。魔法聖女は手を上げるのよ」
母は心から信じているみたいだった。
「それ、母上の本の中だけですよね。ヒールできる人を色々見ましたけど、手を上げる人って母上の本の中にしかでてきませんでしたよ」
「うそ、そんな事ないわよ」
「本当です。だからあの聖女は絶対に母上の本を読んだことがあったのです」
俺は言い切った。
「でも、それでは対象者は王宮関係者に限られるのではないのか」
父が言った。
「あなた。何言っているのよ。それ以外にもいるでしょ。あの本は本屋で売ってもらったんだから。宰相とかは本屋でよく売れていたと言ってくれたわ」
あのボケ宰相は何を嘘を言っているんだ。あの本売れなくて、俺ら王侯貴族の子弟に強制的に下げ渡されたのだ。それも必ず読んでおくようにと父の言葉付きで。
マイケルとかテディとかからどれだけブツブツと不平を言われた事か。
「ま、まあな。一部を王宮関係者に配らせたのじゃよ」
父も必死にごまかしている。
「そう言う奴らには尽くあたったのじゃろう」
「まあ、ある程度は」
俺は頷いた。騎士関係者もいて、なかなか俺がすべての顔を見るのは何かと難しい問題があったが、側近共を使って魔術の高い子をある程度当たらせたのだ。
その中にはあの子はいなかった。
最近は孤児院に配った分もあるとのことで、孤児院周りもしている。
そう言えばあのモモンガが奇跡を起こしたとかいう孤児院も行ってみたが、俺の行く前に妹らも行っていたみたいだった。眼鏡のお姉ちゃんに魔法聖女エリを読んでもらったと子供たちは嬉しそうに言っていた。
「そう言えば妹の側近に魔法聖女エリのファンがいましたよ」
「そうなのか」
私が母に言うと父が驚いた顔をした。
「王宮で父上にも紹介したと言っていましたが」
「ああ、あの金髪のきれいな女の子か」
「はっ?」
俺は父が何を言っているか判らなかった。
あのメガネちゃんがきれい? いや、絶対に聞き違いだろう。
「お前も会ったことがあるのだろう。あれ程の美形は久しぶりで見たぞ」
「あなた、それはどういう事ですか」
途端に母の機嫌が悪くなる。妹の母に現を抜かしていたと母が知ってからそう言うことはご法度なのだ。
「いや、キャサリン。それは違うぞ」
「何が違うのです」
「あれだけの美形ならばパーシの嫁にもいいかなとふと思っただけじゃ」
「ぶっ」
俺は口に含んでいたものを吹き出しそうになった。
「いやいや、父上、それはないでしょう。彼女は平民ですし」
俺は必死に言い訳した。よりによってメガネちゃんはありえないだろう!
「しかし、学園の特待生で、あのレイモンドのお気に入りじゃぞ」
「私としてはあの聖女以外は娶るつもりはありませんから」
俺は即否定した。そう、俺はあのミニ聖女一択なのだ。
「そうか。あの子はいいと思ったのだが」
「息子が興味ないからって、ご自分が手を出されるなんてことないでしょうね?」
「何を言っている。あの子はマリアンのお気に入りだぞ。そんな事したら私が許されんわ。そもそも、兄の相手にも絶対に渡さんと申しておったからな」
「いや、だから、私はありえませんて」
私は再度否定した。
そう、その時は絶対にありえないと思っていたのだ。
限りなく少ない魔法聖女エリのファンだとか、魔術を発動する時に手を挙げる癖とか、もっとよく考えるべきだった、と後悔したのはもっと後になってからだった。




