偽聖女がヒールしたことにしていました
「エレ、どうするのよ。あんな事しちゃって」
「ごめん、つい、あの子見たら、力が入っちゃって」
帰りの馬車で私はマリアンに謝った。
「そらあ、、あんたが思うのも判るけど、あんた聖女にはなりたくないんでしょ」
「それは当然」
「じゃあ、やっちゃ駄目じゃない!」
「それはそうなんだけど、でも、あの子、私の父さんが死んだスタンピードでああなったんでしょ。少しでも良くなってくれたらって思っちゃって。だって下手してたらあの子の立場って私なんだもの」
「いや、それは判るけど」
マリアンが言葉を濁した。
「私ら王族はエレが聖女になってくれたほうが良いわ。だってあなたの力を使ってああいう子を治してあげたほうが良いじゃない。でも、魔王に目をつけられるのが嫌だってあなたが言うから、それを守ってあげているのに、こんな事やっていたら、もう誤魔化しきれなくなるわよ」
マリアンの言うことはもっともだ。
「ごめん、マリアンの言うこと、本当にそのとおりだと思うの。でも、私一人だけが、のうのうと生きていていいのかなって思って。あの子、ご両親をスタンピードで亡くしたんでしょ。その上足も不自由なんて。私はあの子の面倒は見られない。でも、足は治せる・・・・・そう思っちゃったのよ。ごめん」
「ううん、あなたがそれで良いのなら良いのよ。もしエレが聖女として立つならば、我がフィールド王国は国を上げて貴女を守るわ。そうする?」
「えっ、でもまだそれは怖いの」
「判った。あなたは王女である私の側近なんだから。いざという時は私が、いや王家が全力をもって守るわ。あなたが聖女として立つのならば、いつでも、私達は全面的にバックアップはするから、それだけは信じてね」
「ありがとう。マリアン」
「とりあえず、屋敷に帰ったら、王宮に行ってレイモンド様を捕まえて、どうするか相談しましょう」
私達は王宮に行ってレイモンド様と相談したのだが、
「わっはっはっはっ、ワイルダー嬢も仕方がありませんな。いくら儂の眼鏡があるとはいえ、それでは誤魔化しきれませんぞ。したことをなかったことには出来ませんからの。まあ、王家のマリアン殿下としては喜ばしいことだとは思いますが」
「レイモンド様。私としては出来たらエレの希望通りにしたいんだけど」
「まあ、そうは言ってもいつまでも誤魔化しきれるものではないと思いますぞ。ワイルダー嬢の行動を見ていていると」
やっぱり私か。うーん、控えめでおしとやかにしているつもりなのに。
「あんたね。控えめな子があんな事するわけ無いでしょ」
また声が漏れたみたいで、マリアンに怒られた。
「ほっほっほっ。ワイルダー嬢もアリスの血を引いていますからのう。まあ、いくら心配したところでなるようにしかならぬと思いますがの」
レイモンド様には笑われて終わりだった。
翌日も心配で私達は孤児院に行った。
そうしたら孤児院の周りは大騒ぎだった。
「何かあったのかしら」
「どうかしたんですか?」
近くの人に聞く。
「ああ、あんた。見ていなかったのかい。聖女様が奇跡を起こされたのだよ」
「聖女様が奇跡?」
「やばい」
私達は私のことがバレたのかと慌てて孤児院に入った。
しかし、孤児院の中庭ではドヤ顔のモモンガさんがネイサンらを連れて立っていた。
周りは皆そのモモンガさんを囲んでいた。
どういうことなんだろう?
「何かあったんですか」
マリアンが傍の女性に聞いた。
「あなた見ていらっしゃらなかったんのですか?今聖女様が奇跡を起こされたのです」
「奇跡を?」
「そう、足を痛めて立てなかった子供を聖女様が立てるようにされたのですよ」
何でも聖女がこれから奇跡を起こすと言って皆を集めて昨日の子を連れてきたらしい。
私が治した子供が立てたので、奇跡となったらしい。
「奇跡だ」
「聖女様」
「聖女様だ」
「お姉ちゃん」
モモンガさんが皆に呼び讃えられている声の中、私達は子どもたちに呼ばれて隅に連れて行かれた。
「あれで良かった?」
「バレたらまずいからどうしようと思っていたんだけど」
「なんか聖女様が来てくれたから、そのおかげにしちゃったけど」
子供達は心配そうに私を見た。
「いい、いい」
「あんたらよくやってくれたわ。ベストよ」
マリアンと私は子どもたちの頭をなでた。
「うーん、でも、あの聖女手が光らなかったよ」
子供の一人がぼそっと言った。
「いや、出来る人は光らなくても出来るのよ」
私は胡散臭そうに見る子供達の前で冷や汗だらけで必死に言い訳していた。
「ふーん、そうなんだ」
呆れた子供達の視線が気になる。
「でも、姉ちゃん、これで変な人達に捕まって売られなくなって良かったね」
「その代わりまた来てご本読んでね」
な、なんかバレてない。私はコクコクと頷くことしか出来なかった・・・・




