王太子視点2 聖女が中々見つからなくて焦っています
魔王襲来から8年が経っていた。
あれが実際に魔王の襲撃かどうか定かではない。
しかし、残った痕跡、目撃者情報等から、おそらく魔王だろうと我が国の学者たちは結論づけた。
もしそれが事実ならば千年ぶりに魔王が復活したことになる。
魔王は聖女が弾き飛ばしてくれたが、死んだかどうかは判っていなかった。
魔王は中々しぶとい、殺したと思っても蘇ってくる。
千年前の大聖女様がオリンポス山の麓に封印したと書物にはあったが、詳しいことは判っていなかった。
あれが魔王ならば封印が解けたのだろう。
その対策が急務だった。
そう、そして、俺たちを助けてくれた聖女様だが、俺達が気付いた時にはもうどこにもいなかったのだ。国を上げて聖女を探したのだが、名乗ってくるものはいなかった。
いや、いるにはいたのだ。本当に雨後のたけのこのように次々と山のように聖女だと名乗る人物が出てきたのだ。しかし、実際に確認してみるとほとんど全て偽聖女だった。
巷の噂では、女神様が我々を哀れんで、天使様を派遣してくれたのだと。
そして、仕事が終わると天に帰られたのだと。
でも、俺はそれを信じられなかった。
あの子は絶対に存在した。何しろ聖魔術と癒やしの魔術を混同するような、おっちょこちょいの天使なんているわけはなかった。
俺はあれから何度も下町に出て探してみたが、それらしい者は見つからなかった。
そんな時に現れたのが、ルイーズ・モーガンだった。モーガン男爵が孤児院で見つけてきて養女にした女だ。聖魔術が使えるという触れ込みだった。
俺は期待して入学式に見たが、髪の毛はピンクだった。
顔の形も違う。あの子はこんなんじゃくて、もっと神々しかった。
そう妹に言ったら、美化し過ぎなんじゃない。と馬鹿にされてしまった。
この妹は俺に本当に俺に遠慮がない。
元々父が母の侍女に手を付けて産ませたのが、この妹だった。
10年間、隠して密かに援助していたそうだが、10年前にその侍女が死んで、隠し通せずに、認知したのだった。
その時の母の怒りようは凄まじく、半年も離宮に籠もってしまったくらいだった。だから未だに妹と母はそんなに仲が良くない。もっとも子供は俺一人だったから、廷臣共は歓迎したみたいだったが・・・・・
妹は母の王女教育という名のシゴキにもなんとか耐えて、今はちゃんと王女をやっていた。
もっとも、母を気にしてほとんど公式行事には出ていかなかったが・・・・・
だから貴族たちにもあまり顔は知られていなかった。
妹の母はナイトリー男爵の爵位をどさくさに紛れて父から授かっていた。王都の隠れたところに屋敷まであったのだ。女を囲っていたと母はそれでさらに切れたのだが・・・・最も父は忙しくてそこにはほとんど行けなかったそうだが。今は俺の隠れ家の一つになっていた。
何しろこの屋敷は王宮の壁に隣接していて秘密の通路で繋がっているのだ。
「お兄様! どういう事! あれだけ学園では声をかけないでってお願いしていたじゃない」
マリアンがノックもせずにいきなり扉を開けてきた。
「マリアン、ノックもせずに紳士の部屋の扉を開けるなどよくないな」
「何言っているのよ。そもそもここは私の屋敷よ。勝手に使っているくせに偉そうに言わないで」
「それを言うなら、同じ王族なのに、お前には城下に屋敷があって俺にはないのは不公平ではないか」
「王宮にでかい宮殿があるでしょ」
「あんなのでかいだけで何の役にも立たないよ。何なら替えてやるぞ」
王太子宮はあるが、今は俺が学園生の身で、ほとんど使っていない。妃もいないしだだっ広い空間が広がっているだけだ。
「私とお母様との想い出の屋敷なのよ。替えられるわけ無いでしょ」
「じゃあ1室くらい貸してくれても良いじゃないか」
俺が言うと
「でも、私もうら若い乙女なのよ。お兄様の側近を出入りさせていたら変な噂立ったら大変でしょ」
言い方を変えてきやがった。
「出来る限り変装させている」
「それでも若い奴らがウロウロするのは変な噂立ったらどうしてくれるのよ」
妹は側近共を見渡していった。
側近共は恐縮していた。
「まあ、出来るだけ控えるから、そこは許してくれ」
「ふんっ、それよりも何故、この前声かけてきたのよ」
「いや、すまん。そろそろ、父や廷臣共が婚約者を作れって煩くて」
「作ればいいじゃない」
「はんっ、他人事よろしく言うな。俺が決まったらお前だぞ」
「えっ、まだそんなのいらないわよ」
「だろ」
「何言っているのよ。お兄様はミニ聖女様を探しているのよね。それ以外は嫌だって駄々こねているんでしょ。いるかどうかわからないのに」
「何言っている絶対にいる」
俺はきっとしていった。
「天使様なのに?」
「違う。あの子は浄化魔術とヒールの違いも判らないドジっ子なんだぞ。絶対に天使なんかじゃない。それに詠唱する前にかならず、手を上に上げるんだ」
「なにそれ。魔法聖女エリみたいじゃない」
「そうだ。絶対にファンに違いない」
そうだよな。手を挙げるって魔法聖女エリしか知らない。
「あの本ってあんたのお母様が」
「お前の義母でもある」
「はいはい。王妃様が、息子に自分は偉いんだぞ、っていうために、自分を美化してかいたものなんでしょ」
こいつは何を言っているんだ。そんな事言うからまた怒られるんだ。
「違う。なんか女神様から天啓を受けてかいたそうだ。だから女神エリーゼのエリを取っているんだろう。母ならばキャサリンだ」
俺は言った。何回、母に注意されたことか。はっきり言って絵本を自分で作らせるとか止めて欲しい。街の本屋で売り出させたら殆ど売れず、結局大量の余った本を子供のいる廷臣共に分け与えたのだ。
未だにあの「エリって変だよな」
「手を上げてカッコつけて詠唱しないと魔術ができないって何?」
とか変な噂を聞く。
でも、その話を母の前で言うのは禁句だ。
昔、絵本談義に花が咲いて口を滑らせた文官が、最果ての地に転勤にさせられた。王妃と話せるなどきっと将来性があったのに、馬鹿なやつだ。
「詠唱する前にかならず手を上げるのね」
なんか考え込んだマリアンを俺は見た。
「そうだ。なんか思いついたか」
俺はマリアンの変化に気づいて聞いた。
「なんでもないわよ。それよりも今友達作って忙しい時に邪魔してどうすんのよ。ミニ聖女様の件を探るにもまず皆と親しくならないとどうしようもないでしょ」
「すまん。あの聖女候補のモモンガだったか」
いかん、俺もメガネっ娘の影響を受けつつある・・・・
「モーガンさんよ」
「あっそうだ、そのモー、なんとかは全くだめじゃないか。何だよあの小さな光は」
「お兄様もエレみたいなこと言うのね。聖魔術特性が出ただけで凄いのに」
マリアンはモモンガの肩を持つようだ。
「あんなんじゃ聖女にも成れないじゃないか。良いところ街の治療師だろ」
「まあそうだけど」
「魔力量だけなら、お前がこの前連れてきたエレだったか。あいつのほうが凄いんだろ」
「そう、あれすごかったわ。お兄様聞かれたの。あの大惨事。あんな大量の水出せるなんて思ってもいなかったわよ」
「だよな。是非とも魔術師団にほしいよな」
俺は王太子の観点から言った。
「だめよ。エレは私がもらうんだから」
「お前貰っても使いみちがないだろう」
「何言っているのよ。エレは私の親友よ。そもそもお兄様はあの娘の魔力検査見ていなかったんでしょ」
「いや、お前を見て、もう良いかと」
俺は頭をかいた。
「本当に人に声かける時はよく考えてよね。水魔力強いから声かけたって、隣のエレもおんなじ位だったのに」
「いや、すまんすまん、平民で王家の者たちと同じくらいの魔力量があるやつがいるなんて思わなかったんだよ」
「まあ、エレが欲しかったら、エレを婚約者にすることね」
「それは厳しいだろう。何しろ王子妃になるんだぞ。あの眼鏡はまずいだろう」
俺は思わず言っていた。あの眼鏡っ娘を好きなるなんてありえない。
「お兄様!」
しかし、其の一言はマリアンの怒りに火をつけたようだった。
「私皆に言ったのよ。王太子殿下は人を顔で判断するような安っぽい人ではないって。なのに、何、その発言」
きっとしてマリアンが言う。
「いや、顔で差別はしていないぞ。眼鏡で差別したんだ」
俺は言い訳した。
「あれはエレの祖母の形見だそうよ。王太子殿下ともあろうものが、その子にとって大切なものを貶していいの?」
マリアンの言うことは正しかった。俺は言うべきではなかったのだ。
「いや、まあ、そうだよな。失言だった」
俺は前言を撤回點せられた。
「ふんっ、まあ良いわ。お兄様には絶対にエレは渡さないから」
マリアンは言い切った。俺はそこまでエレを欲しいと思うことはないだろうと、否定しなかったのだ。もっときちんと対応すべきだったし、もっとちゃんとエレのことを見るべきだったのだ。
俺は後でとても後悔することになるのだが・・・・