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海の青より、空の青  作者: 青空野光
第四章 高校一年
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管理棟の秘密

「ナツオのバカ! どこに行ってたの!」

 食事を終えてバンガローに戻ったその途端、美沙の放った(いかずち)が我が脳天に直撃する。

「ひとりで山の中を散歩してたら中学の時の友達に会って、それで展望台で話してたらいつの間にか時間が過ぎてた」

 先ほどと同様に、実際あったことをそのまま説明――と言うか羅列――すると、彼女は今度は目に涙を浮かべながら俺を睨みつけた。

「みんなで心配してたんだよ! もしかしたらクマに襲われたんじゃないかって……」

「は? 熊?」

 たかが森林浴に出掛けただけで怒られた上に、勝手に熊の餌にされていた自分がどうにも不憫でならない。

「ごめんね、美沙。でも幸いなことに熊は見かけなかったし、それにご飯もちゃんと食べてきたから」

 彼女はすでに俺の話など聞いてはいなかったが、代わりに『もう逃さない!』とでも言わんばかりに腕に巻き付いてくる。

 他のクラスメイトにも謝っておいた方がいいかとも思ったが、恐らく連中は美沙を誂って遊んでいただけなのだろう。

 そうこうしているうちに、本日最初の予定である体験学習の時間が間近に迫っていた。

 ちなみに奇数クラスは管理棟脇の体育館で陶芸を、偶数クラスは屋外で写生をやるらしい。

 後者のクラスだった朱音は、朝飯の席で『私も陶芸のほうがよかった』とぼやいていた。


 左腕に美沙をぶら下げたまま、ほんのさっき通ったばかりの山道を歩く。

 それはそうと、ここにやって来てまだ一日しか経っていなかったが、この山の上の施設は極端に管理棟に依存しているように思えた。

 ならばはじめから管理棟を中心においておけば何かと都合もいいはずだろうに。

 丁度目の前にノロノロと歩いている担任教師の背中が見えたので、彼にその疑問をぶつけてみる。

 すると全く考えてもいなかったような、意外な答えが返ってきたのだった。

「先生が中学生の時もここで林間学校をやったんだけど、その時はお前の言う通りに中心に管理施設の大きな建物があったんだよ」

 先生の年齢から考えるに、恐らくそれは十年ちょっと前の話だろう。

「だけど、その次の年に火事で燃えちゃって。おととしに今の位置に建て直したらしいよ」

 それは説明としては些かシンプル過ぎで、新しい管理棟を旧施設の跡地に建て直さなかった理由が完全に抜け落ちていた。

 そんな俺の考えを読み取ったのか、彼は少しだけ声を潜めると話を続けた。

「その火事の原因っていうのが、風呂脇のボイラーの爆発事故だったらしいんだけど、ちょうどその時間に入浴していた子供たちがいたんだよ。あとは……わかるだろ?」

 鳥肌が立った。

「亡くなった人がいたから別の場所にした……ってこと?」

 そういうことなのだろうが、ここまで聞いたからには洗い浚い知りたくなる。

 先生はふたたび俺の耳に顔を近づけ、さっきよりもさらに小声で教えてくれた。

「そう。それも大勢な。跡地は今、多目的広場になってるはずだよ。これはお前だから教えたんだからな。(ほか)の連中だとすぐに()の生徒に喋りそうだから。もし女子の耳に入ったらかわいそうだろ? 今晩のキャンプファイヤー、そこでやるし」

 いつの間に彼からそんな信用を得ていたのかはわからないし、ぶっちゃけそれはどうでもよかったのだが、ここで一つ大きな問題が発生した。

「先生」

「ん? それ以外のことは先生も知らないよ?」

「じゃなくて、これ」

 立てた親指で自分の背後を指し示す。

 そこには俺の背中に完全に顔を埋め、身体を細かくプルプルと細かく震わせ怯えきった美沙の姿があった。

「あー。なんかいるなと思ってたら葉山だったのかあ」

 この人は悪い人間ではないろうのだが、教師としても大人としても完成するにはまだまだ時間が掛かりそうであった。

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