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海の青より、空の青  作者: 青空野光
第三章 中学一年
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放蕩息子

 日暮れを待たずに始まった宴は、祖父とあっちゃんが不在なためか、例年よりもやや規模を縮小して行われていた。

 とはいっても、普段から馬の合う義兄弟(ちちたち)姉妹(ははたち)の饒舌さはいつもどおりで、六人という人数からすれば十分に盛り上がっているともいえる。


「この自然薯、夏生ちゃんが掘ってくれたんだって」

 伯母の言葉に父と伯父が「よくやったな!」と、受験に合格した我が子を褒め称えでもするかのようにガッツポーズまでして見せる。

 まるで玩具のスライムのような粘度の自然薯は、祖母の手によって白米に掛けてればおかずがなくとも大満足の晩飯になり、フライパンで両面を焼いてステーキ状にすれば、酒のあてとして最適な万能食材へと昇華させられていた。

 もっとも僕はといえば、このあとに控えている夜店での買い食いを考慮して、父の食べている自然薯ステーキを一口だけ貰うだけに留めことにした。


 つけっぱなしで放置されていたテレビで時刻を確認する。

 午後六時三〇分。

 待ち合わせの時間は七時なので、そろそろ家を出たほうがいいだろう。

 甚平のズボンのポケットに財布をねじ込み、「ちょっとお祭り見てくるね」と自然なふうを装い母に告げる。

「今年はお父さんもあっちゃんもいないから、お母さんらは盆踊りには行かないつもりだけど。あんた、ひとりで行くの?」

 少なくともあちらに着くまでは一人なのは間違いはない。

「遅くはならないから」と、それだけ言って余計なことを聞かれないうちにそそくさと家を出た。


 いつもの年よりも少し早く家を出たこともあり、空の色はまだオレンジが優勢だった。

 玄関を出た時からわずかに聞こえていた祭ばやしが、県道を渡り切った途端にはっきりと耳に飛び込んでくる。

 そのことで自然と身が引き締まると、何なら小さめの武者震いまで出てしまった。

 それはこれから盆踊りに参加するからではなく、志帆ちゃんに会えるからに他ならなかったのだが、同時に僕の独りよがりなのではないかという不安との戦いでもあった。


 盆踊り会場は毎年そうであるように、特別な夏の夜を謳歌する多くの村人で賑わっていた。

 (やぐら)に括り付けられた音量重視のスピーカーから流れる、笛や太鼓のはやし。

 夜店の人たちが使う発電機の音や、そこかしこを楽しそうに走り回る子供たちの歓声。

 それに加えて、どこか遠くからは花火が打ち上げられる大きな音も聞こえていた。

 そんな幸せな音たちに囲まれながら、僕は広場の奥にあるタイヤ飛びの上に腰を下ろすと、彼女がやって来るのをただ只管こころ待ちにした。

 やがてスピーカーからは祭ばやしに代わり炭坑節が流れ始める。

 それを合図に村の人たちは一人、また一人と櫓を囲んで楽しそうに踊り始めた。


 手持ち無沙汰から踊りの輪に加わろうかと思っていた、その時だった。

 広場の反対側にある道路に一台の車が滑り込んでくると、後部座席のドアが音もなく開く。

 そこから降りてきたのは果たして彼女だった。

 走り去っていく車に手を振り見送った彼女は、ゆっくりと振り返りながらキョロキョロと辺りを見回した。

 束ねて上げた髪に水色の蝶々の髪飾りを付け、真夏の海のような紺碧(あおいろ)の浴衣を纏ったその姿に、目が釘付けにされる。

 タイヤ飛びから半分腰を上げたままの姿勢で固まっていると、ようやく僕の姿を見つけた彼女はこちらへと駆け寄ってくる。


「おまたせ夏生くん」

 彼女はそう言うと少しだけ上がった息を整えながら、隣のタイヤの上にゆっくりと腰を下ろした。

 僕はわずかに浮かせていた腰を再び沈めると、改めて彼女の顔を正面に見ながら口を開いた。

「あの、浴衣……すごく似合ってるよ」

 いつもであればいけしゃあしゃあと口から出てくる賞詞(ほめことば)を、一瞬ではあったが言い淀んでしまった。

 彼女は顔をりんご飴のように真っ赤にすると、視線を自らの足元へ落としたままで、とても小さな声で「ありがとう」と口を動かした。

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