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003 復讐の鬼と化した僕

「シルベルトー!!帰って来ましたのねー!!」


「ん?この声は」


僕の部屋まで響いた大きな声、どうやら彼女にも僕が帰って来たことが知らされていたようだ。


「シルベルトー!!シルベルトー!!」


「はいはい、聞こえてますよー」


エントランスでは大声で騒ぐ、少女の姿があった。


「シルベルト!!会いたかったですわ!まあまあ!だいぶ凛々しい顔付きになられましたのね!!」


ニコニコ顔を向けてくるのはアイリ・フォン・シュガハート。

シュガハート子爵の御令嬢、いわゆる幼馴染で僕の許嫁だ。ふんわりとした薄桃色の髪をサイドテールにしている。合わせている柔らかい水色のドレスが髪色と合わさって実に美しい。


「久しぶりだねアイリ、元気にしていたかい?」


「ええ、もちろんです。シルベルトが帰って来たと聞いて居ても立っても居られなくて、こうして会いに来てしまいましたの」


「わざわざ僕のために?嬉しいよ。じゃあ客間へ行こうか」


「はい!…それはいいのですが、シルベルトは何故そのような恰好をしているのです?」


「ん?」


僕はこれから冒険者ギルドへ向かうつもりだった。あいつらに復讐、じゃなかった。Sランクに相応しい人物になれるように陰から応援してやるためだ。

なので僕は平民の服、冒険者スタイルだった。貴族の家でこれは異質だ。


「似合わないかい?」


「いえ、少々小汚いように見えますが…、見方によってはワイルドで素敵ですわね」


「はは、ありがとう」


アイリは僕を全肯定してくれる。アイリから僕が冒険者をしていた間に起きた面白かった出来事を聞き、僕が冒険者としてどれだけ立派にやってきたのかを話す。


「まあ、ではそのドラゴンを倒したのはシルベルトなのですね」


「ああ、ちょうど『薔薇の騎士』の物語の主人公のように、聖なる剣でドラゴンの心臓を一撃にね。もちろん仲間のサポートあってこそだったが、やはり僕じゃなきゃ倒せなかっただろうね」


「素敵です!」


これは事実だ。Sランクへ昇級した実績、ドラゴン討伐。あれは死闘を極めた。

ドラゴンは知能が非常に高い魔物で、人間の言葉を理解し話す。それ故に特別視されていて、人間の一部では竜信仰なんてのもある。僕らが退治したドラゴンは北の山の守護者と呼ばれていたレムナントオーバーというドラゴンだった。

守護者を倒していいのか分からないが、ギルドからの依頼だった。

ドラゴンはその知能からか、一定の強さを持たないと敵とすら認識しないようで僕だけは羽虫扱いだった。魔物からそんな扱いを受けるなんて屈辱だろうが、僕からすればチャンスだった。

結果、ドラゴンとアイスたちを出し抜いて漁夫を取るような形でトドメを僕が掻っ攫った。

つまり僕は竜退治の英雄なのだ。


楽しい時間はあっという間に過ぎる。予定は少し狂ったが、僕は気分よく冒険者ギルドへ向かった。



「おい見ろよ、あいつアレだろ。黎明の誓いを追放されたデブ」


「恥ずかしげもなく、よく顔を出せたもんだな」


ギルドを訪れると、早速冒険者たちから悪口が聞こえてきた。日が明けただけでもう追放の話が広まっているとは恐ろしい。僕は受付カウンターへ行くと冒険者としての僕の現状を確認した。


「お待ちしていましたよシルベルトさん。ご本人からも事情を聴かなければならないとヤキモキしていたところです」


困り顔で応対してくれたのはギルド職員のルーシィさん。僕の正体を知っている、というかお忍びで冒険者をやっている貴族を担当してくれている人だ。


「アイスさんたちから話は聞いています。昨日の夜すごい勢いで怒鳴り込んできましたから」


「そうなんですか?」


「ええ、昨日やらかしたみたいですね。料理の代金が金貨100枚を超えたそうですよ……」


「あっはっはっはっ……!!」


「もう!笑い事ではないですよ!」


「ひひっ、はひっはひっ、ふがっ!…すいま、すいませんっ。は~っ…、いや、ルーシィさんにはご迷惑お掛けしました」


どうやら僕の嫌がらせは成功したらしい。アイスたちの悔しがる顔が目に浮かぶようだ。僕を追放なんてするからこんな目に遭うのだ。当然の報いというやつだ、楽しくてしょうがない。


あの店でディナーを頼めば最低でも金貨1枚はする。金貨100枚という事はドラゴン退治の報酬が吹き飛んだということになる。ざまあみろ。


「それで、追放された経緯を聞かせてもらっていいですか」


「はい、それがですね…」


僕はありのままの事実を話した。男である僕をパーティーから追い出せばアイスがハーレムパーティーの王になれること。実力に難癖をつけて理不尽に追い出された僕は被害者であること。これは計画的に仕組まれたパーティーリーダーであるアイスの横暴だと。


「ふむふむ、概ねアイスさんたちの話と合致しますね。主観が入っていますがそれは仕方のないことでしょう。……。はい、だいたい理解出来ました」


「僕はこれからどうすればいいんでしょうか?」


「それですよね。困ったことに他の冒険者たちにはシルベルトさんが追放されたことは知れ渡ってしまっています。ギルドとしては穏便に済ませたかったのですが、シルベルトさんが余計な事をしたおかげで叶わなくなりました」


「僕のせいですか?!」


「そうですよ、まったく。余計な嫌がらせなんてするから、黎明の誓い総出でシルベルトさんを追放したことを言いふらしていましたよ。自身のパーティーから追放者が出るなんて名前に多少なりとも傷が付くというのに、それも顧みずにです」


やれやれといった様子でこめかみを抑えるルーシィさん。


「いやでも、ほら、僕ですよ。アレじゃないですか、アレということを考慮すれば当然僕はこれまで通りやっていけますよね?」


「アレでもシルベルトさんはここでは『ただのシルベルト』さんでしょう?無理ですよ。追放のレッテルはシルベルトさんが考えている以上に重いものなんです。シルベルトさんも知っての通り、追放者はブラックリスト入り。例外にしてあげたかったんですが時すでに遅し、です」


「そ、そんな…」


愕然とする僕。そんな僕に残酷な現実を突きつけるルーシィさん。


「ギルドとしては流石にドブ仕事をアレな方にやらせるわけにはいきませんから。事実上の引退ですかね。登録も抹消しておきますので、これからは家のことに専念されるのがよろしいでしょう」


「それは困ります!そうだ、新たに僕がパーティーを結成すればいいじゃないですか!そうだよ、Sランクの僕がリーダーになれば仲間になりたい冒険者がホイホイ釣られるに違いないですよ」


「いえ、Sランクなのは『黎明の誓い』なのであって追放されたシルベルトさんはもうSランクではありません。今は無所属の状態なので個人ランクのCランクが適用されます」


「バカな!僕がCランク冒険者だって?!僕はドラゴンを倒した英雄ですよ!」


「それも報告を受けてますよ。シルベルトさんの追放理由ですが、パーティー間でのキルの横取りやパーティー資金の横領着服、しかも一度ではなく常習的に。あとは過剰なセクハラ等々…。申し訳ないですが、これでは追放されるのもやむなしかと」


「ちっくしょおおおっ」


僕は顔を歪めて悔しがった。今までやってきた事が筒抜けやんけ!

憎い!追放するだけでなくこれからの僕の冒険者人生も潰しにかかるなんて!人間として最低だあいつら!絶対許せない!復讐だ、分からせてやる!


この日、僕の心に鬼が生まれた。

決して消えることのない憤怒の炎に身を焦がし、血の涙を流す復讐の鬼が。










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