001 追放の夜
「は?良く聞こえなかったんだが、もう一度言ってくれるか…」
「だから、シルベルト。君にはパーティーを抜けてもらいたいんだ」
今日は所属していたパーティーがSランクに昇級したお祝いに王都の高級料理店に来ていた。パーティーメンバー全員で乾杯をしたところでリーダーのアイスがそんなことを言い出した。
「は、てことは今日の宴は僕の送別会も兼ねているのか。っておいおい何でだよーっ」
アイスのよく分からないボケに乗りツッコミで返す。おいおい僕がヤケドしちゃったじゃないか。他のメンバーが白けた目で僕を見ているよ。
「冗談じゃない、本気だ。リーダー権限で君を『黎明の誓い』から追放する」
「ウソだろ…」
突然の宣告に頭が回らない。僕が何も言えないでいると痺れを切らしたように次々と他のメンバーたちが口を開いた。
「これはメンバー全員の総意なんです。本当に申し訳ないのですが出て行って下さい」
そう言うのは回復役を務めるシンシア。とある豪商の娘で、気立てが良く誰とでも話せる美しい人だ。アイスとは幼馴染で、パーティーでも古参、副リーダーのようなポジションにいる。
「シルベルト君、はっきり言って私たちのパーティーに貴方は必要ないの。貴方の剣の腕前は三流、魔法も使えるけど基礎的なものだけ。全属性を使いこなし、失われし古代魔法の片鱗に触れようとしているこの偉大なる私がいれば魔法職のサブさえいらないのよ。中途半端な貴方はSランクにいていい人間じゃない」
魔法使いのアティは1000年に一度の逸材と呼ばれる魔法の申し子。火や水と様々な系統に分かれる魔法の全ての属性を使いこなす攻撃魔法の天才だ。魔力量も普通の魔法使いの70倍あるとか何とかで、傲慢で利己的な振る舞いが目立つ。長い黒髪を揺らしながら高圧的な態度で僕を侮辱した。
「そうね、前衛は私とアイスがいれば十分だしシルベルトは完全にお荷物だわ。丁度良い機会よ、実力にあったパーティーに行くべきだわ。例えばCランクとかね」
笑顔でアティに乗っかってきたのはアタッカーのリズ。胸の大きい銀髪の女性だ。彼女の言う通り、アイスとリズさえいれば黎明の誓いの前衛には入り込む余地はない。二人のコンビネーションは最高で、僕が前に飛び出そうもんなら邪魔にしかならない。
「てか皆優しーね。コイツ気持ち悪いから追い出そうって決めたじゃん。クサイし、キモいし、太ってるし、おっさんだし。前にも後ろにも居場所がない、目につくだけで不愉快なんですけどー」
最年少のノエルがケラケラと笑った。金髪のツインテールに猫目の生意気なクソガキがただの悪口を言う。僕は決して臭くないしおっさんでもない。アイスがイケメンなので対比で悪く見えているだけだ。歳だってアイスより1つだけ上なだけだし、体型はぽっちゃりの域を出ていない。
しかし苦しい。ここぞとばかりにパーティーメンバーからこんなことを言われるなんて。僕はこんなに嫌われていたのか?
「これで分かっただろシルベルト。君はこのパーティーにいちゃいけない存在なんだ」
憐れみを持ってアイスが諭すように語る。
丸いテーブルを囲んで、アイスの周りには皆が集まっている。その反対に一人で座っている僕。
これは取り付く島もない状況だ。僕が残ってもパーティー内が険悪になるだけだし大人しく身を引いて、これからの彼らを応援してやるべきだ。
「本当にそれでいいのか?Sランクに上がれたのは勿論パーティーメンバー全員の努力の結果だが、それには僕だって含まれているんだ。僕がいなくなったら困ることになるぞ」
だけど僕は諦めきれなかった。だってこのままじゃ男はアイス一人だけ、ハーレムパーティーが出来上がってしまう。
「悪いけど決定事項だ。こんな無駄な時間を過ごさせている時点で君が不要なのは明白だよ。ほら、せっかくの御馳走が冷めてしまうじゃないか。出て行ってくれ」
「……分かった。今までお世話になりました」
僕は一応の礼儀として頭を下げた。僕が席を立つと、アイスたちは楽しく談笑を始めた。今までのやり取りが嘘だったかのように楽しげだった。
悔しいよ、僕だって頑張って来たのに。
だけど暴れたり泣き喚いたりはしなかった。不思議なものだ、ここが高級料理店だから体面を気にしたのかもしれない。もしかするとアイスたちもここじゃなく、冒険者ギルドの酒場とかだったらもっと口汚く僕を罵っていたかもしれない。
「すいません、このお店で一番高い酒と一番高いフルコースを30人前ずつ。あのテーブルへ」
「え?」
「今日はお祝いなんです」
「はい、かしこまりました」
これは僕からのプレゼントだ、受け取ってくれ。




