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見知らぬ君、変わらない日常。  作者: 習作ちゃん
二章 『俺は君を知らない』
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第六話

「あー、それでなんだその……瑞葉さん? だっけ? ホントに危害はないんだな? 大丈夫なんだな?」


 よっぽどヤバい気配を感じていたのか肩をガクガクと震えさせる賢治。

 俺からすればただの可愛らしい女の子といった風貌にしか見えないが気配だけしか感じられないとやっぱり恐ろしい物なんだろうか。


「あぁ。害は無いと思う。多分」


「多分じゃなくて無いんだよ害はっ!」


 俺の後ろで相変わらず瑞葉は憤慨していた。

 こんにゃろーめとか呟いている。何故江戸っ子成分が入っているのだろうか。


「っていうか何でそんなに怯えてるんだ? 別に俺の顔色が悪くなってるとかそんなんじゃないだろ?」


「いや、あの、ほらさ。お前に近づいた瞬間コレが……」


 賢治がスマホのストラップにしていたらしい小さいお守りをポケットから取り出した。

 ――ズタズタになっていたが。まるで獰猛なライオンに牙を突き立てられたみたいに。


「おい、瑞葉……これは……?」


 震える声で瑞葉の方を振り返り聞くと、俺の顔からスッと目線を逸らした瑞葉が言った。


 「い、いや僕のせいじゃない……と思う。多分。恐らく」


「とりあえず離れようかここから。備品のお守り全部破壊されたら流石に弁償しきれないからな俺」





 駅前は相変わらず人でごった返している。

 神熾程田舎というワケではないが、ベッドタウンとして栄えてきたこの町では若者が集まれる場所といえば駅前のショッピングモールが定番だ。


 そんな人でごった返すショッピングモール内のカフェに俺と賢治、それから瑞葉は座っていた。


「いやーここもこんなに発展したんだね~。僕ちょっとびっくりだよ」


 なんて年寄りみたいな事を言った瑞葉は俺の膝の上にちょこんと座っている。なんでだよ。


「なんでテメーは優の膝の上に座ってんだ?」


 と、賢治は額に青筋立てながら瑞葉に言った。ハッキリとした姿は見えていないが瑞葉がどこにいるのかぐらいは見えるらしい。

  ……それより中指を立てるのはやめてほしい。ただでさえ目立つ不良スタイルなのにこんな場所でやられると男二人で喧嘩と思われて店を追い出されかねない。


「だって優君と賢治が二人用の席に座るもんだから。ここしかないじゃない?」


「ここしかあるわけねーだろ! 座んな立ってろ! あとなんで俺の事はいきなり呼び捨てなんだテメー!」


 因みに二人席に座ったのは単純に店が混んでいるから四人席を実質二人で占拠するのは申し訳ないと思ったからである。他意はない。


「……まぁ、発展したって言ったって映画館とカラオケ、ボウリングぐらいしかないぞココ。ちゃんと遊ぼうと思ったらわざわざ町の外に出なきゃいけないし」


「雀荘もあるけどな」


「どこの世に雀荘に入り浸る高校生がいるんだよ」


 意外といるけどなぁなんて呟く賢治を置いて俺はストローからちうとコーラを(すす)った。

 そんな俺の横から別に刺したストローで瑞葉は俺のコーラを啜った。おい待て。


「んく、んく……ぷはー! 炭酸が効くわー! でも相変わらず炭酸好きなんておこちゃま舌だね優君は」


「なんでお前俺のコーラ飲んでんだよ!」


「えーだって優君が僕の分の飲み物頼んでくれなかったからさー。まぁでもいいじゃん。量減らないし。あ、それとももしかして間接キス意識してる? もー優君のえっち♡ いいじゃんストロー二本あるんだから!」


「え、何でストロー二本あるんだと思ってたら優の飲み物勝手に飲んでんの? 嘘だろ? ……やっぱ悪霊だこいつ(はら)うわ」


 と言いながら懐から紙で出来たお札を取り出す賢治。わざわざそんなもの持ってくんなカフェに。


「へっへーん。君ぐらいの霊感でボクを祓うことが出来るかな? そんなしょっぼいお札なんかこうしてやるわどっかーん!」


 瑞葉が指を差すとお札が千切れ飛んだ。指一本も触れずにお札破壊出来るってやっぱり俺もコイツ悪霊の類なんじゃないかと思えてきた。


「俺もこれまで長い事心霊スポット巡りやってきたよ。これまでマジに怪奇現象が起きる心霊スポットに行った事もあった」


「そうだな」


 確かにあった……のかもしれない。

 賢治がヤバいと言った場所では決まって危ない事があった。だがそれも賢治から離れた場所に居たら、の話だ。賢治の周りでは決まって危険な事は起こらない。賢治自身に霊感があるからなのかは分からないが何かあっても賢治は身体を張って絶対に俺達を助けてくれるからだ。


 そんな理由もあり、ちょくちょく俺とりこも賢治に付き合う事もあった。


「だが、こんな! こんなにハッキリ影が見える強力な幽霊がかつて居ただろうか! いいや居ない! お前、何が目的で優に憑りついてんだ!」


「いや、目的なんて無いよ」


 瑞葉は随分あっさりと答えた。根なし草だってのは俺は前から知ってはいたが。


「無いならさっさと成仏しろーーーっ!」


「あー待て賢治。店員さんに睨まれてるから。落ち着け、な?」





「まっ、僕は優君が僕の事思い出してくれたら成仏するさ。……思い出せないならそれはそれでいいんだけどね」


 どっちだよこの女は。相変わらず目的も出自もはっきりしない幽霊だった。


「っていうかホントにどっかで会ったか俺達? お前がどういう人か知りたいのは山々なんだが、どこから手を付けたものか全く分からんのだが」


「そうだな……俺も幽霊っつうのがどういうものなのかよく分かってる訳じゃねーしな。そのホラなんだ。お前の周りの人で亡くなった人っていうとその……」


「どうせ俺もあんまり覚えてないしそんな気遣わなくてもいいぞ。どうせコイツもあの事故の犠牲者の一人なんじゃないかって言いたいんだろ?」


 言いながら勝手に俺のコーラを飲み続けている瑞葉の頬をつまんだ。

 やーんなんて甘えた声を出しているがコイツ死んでるんだよな。


 正直事故直後の事を俺もりこも殆ど覚えていない。

 過剰な精神的負荷が短期間で一気にかかった事による記憶障害だとか康晴さんに言われたっけ。……何で脳外科担当でない康晴さんが俺を診察していたのかも良く覚えていないが。


 それにしたって目の前のコイツに覚えなんてない。

 事故前に出会った人物なら流石に覚えているだろうし、記憶が曖昧な事故直後に会った人物だとしても俺に憑りつく程縁のある人物なんていないハズだ。生存者は何人かいるとはいえ、コイツは幽霊だしな。まさか生霊って事もあるまい。


「ってかなんで瑞葉は俺に気付かせようとしてるんだ? 教えてくれたらそれでいいじゃないか」


「君が気付かなきゃ意味がないからさ。君が見つめなおさないと、ね」


 そういうと瑞葉は陰のある顔で微笑んだ。

 あぁ、この顔だ。初めて俺が瑞葉に会った時もこんな顔をしていた。全身が総毛立つ感覚のする。どうして俺はこんなにコイツに怯えているんだろうか――


「まぁそういうコトだ。優がどうしたいかは自分で決めたらいいと思うがやっぱり事故被害者にあたりをつけて探してみるのがいいんじゃねえか?」


「と言ってもなぁ。当時の生存者と連絡する手段なんか持ってないぞ俺は」


「うーん。図書館辺りに新聞のアーカイブとかで残ってねえかなぁ。後ネットとか?」


 ネットかぁ。

 正直ネットは好まなかった。世間に事故がどう受け止められているのかが知りたくて一度調べようとした事があったが出てきた記事は嘘ばっかりのゴシップとか陰謀論とか事故を起こした機長を糾弾しようとするサイトばっかりだった。


 それもエグい記事の方が人気が出るのか知らないが狂気じみた内容ばかり載せられているのを見て当時の俺は体調を崩してしまった。そんな俺を心配したのか康晴さんと佳奈美がネットに触らなくても良いように情報を取捨選択して事故の原因等を教えてくれたんだっけ。


 結局原因はバードストライクによるエンジントラブルだったと聞いた。

 通常であればそんな事が発生しない様に飛行機の経路には様々な対策が施されているし、そもそもそんなもので墜落する程飛行機はヤワには作られていない。加えてレーダーで予め鳥と衝突しない様に探知しているらしい。


 が、当時は状況が違った。

 大型の猛禽類が複数体、まるで自死するかの如くエンジンに飛び込んできたのだとか。

 何故そんな事が起きたのか。何故レーダーで検知出来ていたにも関わらず回避しきれなかったのかは機長死亡という事もあり全く不明。録音されていた音声でも特に不審な点は見られなかったそうだ。


 余りにも不明な点が多い事も陰謀論者にとっては都合が良かったんだろう。


「まぁ新聞でも何でもいいか。とりあえず帰ったら探してみるのも手かもしれないな」


 流石に連絡先までは載っていないだろうが死亡者リストぐらいは載っているかもしれない。

 早速図書館に向かおうと財布を取って席を立った俺の裾をチョイチョイと瑞葉が引っ張った。


「……なんだ?」


「せっかくここまで来たんだしさ、行こうよ。カラオケ」


 思わずずっこけそうになったがうんうんと同調する賢治を見てまぁ夏休みだしそれもいいかと俺は笑った。

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