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見知らぬ君、変わらない日常。  作者: 習作ちゃん
二章 『俺は君を知らない』
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第四話

 幽霊ってこの世に存在するの? なんて聞かれたら迷わず俺はNOと答えるだろう。

 理由は簡単。俺が生まれてこの方幽霊なんてものは見たことが無いからだ。

 

 お前が見た事が無いだけで実際には存在するかもしれないじゃないか、なんて事を言う人も勿論(もちろん)居るだろうがそれは悪魔の証明である。


 それこそ詭弁(きべん)だともっともらしく言う人もいるだろう。それは知らん。詭弁とか言われてもよくわからんし。まぁどのみち悪魔の証明ってのは確かだろう。その点で幽霊を連れてこられたら俺は間違いなく幽霊の存在を認めざるを得ない。


「ねーねー優君ってばー、お腹空いたー。これ食べるよ? あー……はむ。……じゃが、じゃが……」


 そして俺は目の前で悪魔(幽霊)をありありと見させられていた。

 なんだコイツ。当たり前の様に俺の前に現れて当たり前の様に俺が密かに買いだめていたじゃ〇りこ(チーズ)をボリボリ貪り食っている。幽霊のくせに。


「……っ、あのっ!」


 自分でも思っていなかった様な大きな声が出た。

 幽霊はというとそんな俺を見てキョトンとしている。


「どうしたの急に大きな声出して。あ、もしかしてじ〇がりこ食べられたのが嫌だった? でもコレ僕はじゃが〇この概念を食べてるだけで実際に本数が減ったりはしてないけど……そうだ、僕と一緒に食べようよ」


 と言いながら幽霊は俺の口の中にじゃが〇こを三本一気に突き刺した。

 硬い食感と共にチーズと塩の旨味が口いっぱいに広がる。いやじゃがり〇は美味しいんだけれども。


「むぐ……じゃが、じゃが……じゃなくてなんなんだアンタ一体?」


「えーそんなこと優君が一番よく知ってると思うんだけど。前に自己紹介もしたでしょ?」


 というと幽霊はじゃが〇こで俺のことを指した。


 自己紹介なんて……されてたなそういえば。名前すら名乗ってないし全く自己紹介になってなかったけど。


「自己紹介ぃ? ……いや、してたな。してたけれども。何かアンタは俺のこと知ってるみたいだけど俺は全くアンタの事なんか知らないぞ。アンタ何で俺の名前を知ってんだ?」


 という俺の問いに幽霊はとてもショックを受けた様な顔をした。

 そして二人共に時間が止まってから数秒後、唐突に顔を赤らめると妙にクネクネした動きで俺の方へずずいと迫り、俺の手を取った。ちょっといい匂いがする。幽霊なのに。


「そんな! 僕の事なんて全部忘れたっていうの!? あんなに熱い夜を共にした仲じゃないか!」


 コイツ、完全にふざけている。その証拠にセリフと裏腹に口の端からにやけが漏れている。

 ちょっとでも顔を近づけられて恥ずかしいと感じた俺がバカだった。


「共にしてねーよ! 何で幽霊と一晩過ごさなきゃなんねーんだ!」


 と叫びながら俺が幽霊を払いのけるとフワフワした動きで再び天井に張り付き、こちらを見下げてニヒルに笑った。


「……なんてね。君が僕の事を知らない事ぐらい僕はお見通しさ」


「お見通しって……アンタ名前は?」


「僕かい? まぁ僕しかいないよね。僕は結城(ゆうき)瑞葉(みずは)。瑞葉って呼んでよね。」


 と言いながら少女は薄い胸を張った。

 見た目はどう見ても俺と同じぐらいか少し下ぐらいだ。名前を聞いてもやっぱり聞き覚えの無い名前だった。


「何が目的なんだよアンタ。察するに神熾から俺にくっついてきてたんだろ?」


「神熾ぃ? ……何のことかわかんないなぁ。だいたい僕は目的も何もないしね」


 と幽霊は肩をすくめて見せた。

 根なし草幽霊め。普通こういうのって現世に恨みがーとかそういうのがあって然るべきだろ。それがなんだ目的無しって。じゃあ何で俺に取り憑いてきたんだ隣にもっと元気そうなバカがいたんだからあっちにとり憑いてくれればよかったのに。

 どうしようもないなこの幽霊。妙な脱力感を感じ俺はベッドにへたり込んだ。


「……じゃあ」


「じゃあ?」


 俺の問いに幽霊――瑞葉は小首を傾げた。


「――どうしたらアンタ、成仏するんだ?」


 俺の問いに一瞬妙な空気が流れた。全く笑いもせず怒りもせず、ただただ無表情の瑞葉が浮いている。


 あぁ、忘れていたけどコイツは幽霊なんだ。深淵の底を覗き込んでしまった様な、無表情の底に何か得体のしれない物を感じた。これか。これだったのか。さっきまで感じていた寒気の正体は。

 俺が怯えているいるのに気付いたのか、瑞葉は舌をペロリと出してウインクをした。

  いつの間にか暗く深い気配は引っ込んでいる。


「成仏、か。別に成仏することにこだわっているっていうワケじゃないけど。僕は……そうだね。僕が成仏する時、それは君が――」


 少しだけ考える様にたっぷりと間を開けて、そして瑞葉は言った。


「僕が誰か思い出した時。その時が僕の成仏する時だよ」


 その表情があまりにも美しく、そして儚くて俺は思わずその場に立ち尽くした。

 もっともすぐに憎たらしい自慢げな顔に戻ったが。


「……なんてね。君みたいな引きこもりニートに僕の正体が暴けるワケもないけど」


「ほう、俺がニートであると。そう言いたいワケだな?」


 あながち間違いでもない。実際夏休みは家でのんびりしている予定だったけど。それでも言われて嫌なことは嫌だ。俺は断じて若年無業者(NEET)ではないと声を大にして言いたい。なんてったって俺は学生だから。


「ってか何で俺が思い出す事が条件なんだよ。同じ事を何度も言うのは無駄だから嫌いなんだが、俺はアンタなんか知――」


 と言おうとした俺の唇に人差し指を立て、瑞葉はシーッと息を漏らした。


「そんなことを聞くのは無粋ってもんさ。ヒロインっていうものは謎が多い方がときめくってものだろう?」


「ときめくってなんだときめくって……。大体アンタヒロインもなにも今のままだと急に男子高校生の部屋に出現した不審者だぞ」


「それを言うならお互い様だね。君なんて夜にどこの誰とも分からないいたいけな女の子を部屋に連れ込んだ男じゃないか」


「ぐぅ……」


 ぐぅの音も出ない。いや、ぐぅの音しか出ない。確かにこんな夜更けに知らん女を部屋に招き入れてるのをりこに見られたらマズい。今まで俺が築き上げてきた理想のお兄ちゃん像が崩れ去ってしまう。


 とすれば今俺が出来る事は一つ……!


「てんめコラこの、でてけえええええ!」


 相手をどっかに隠しておくことだ! 古来より浮気相手を隠すなら押し入れの中と相場が決まっている。なら幽霊はどこに隠す? 決まっている、窓の外だ。どうせ浮けるし捨てても大丈夫だろ。二階から。


 窓を開け、肩を引っ張って窓から部屋の外に追い出そうとする。我ながら凄いスピードだ。人間自分の尊厳を守るためなら無限の力を発揮できるらしい。


「っぐぅ! てんめっ! 逃げんなこのっ!」


 「ふはははは! 無駄無駄無駄無駄!」


 ……が、瑞葉は瑞葉で華麗に身体を捻って中々掴ませてはくれなかった。


「やん♡ 優君ったら情熱的ぃ~!」


 なんて甘い声を上げて右から左、左から右へとどんどん踊りまわる。片手だけじゃ捉えきれるはずも無い。


 「クソ、変な声出すな! 気が散るだろ……っ!」


 「優君ってば、発情しちゃってまぁまぁまぁ……」


 「クッソ、マジでムカつくコイツ!」


 必死に追いかけ回した俺の手がやっと瑞葉に掠った。

 少しだけ慌てた顔で瑞葉が身体を翻すがもう遅い。すでに俺の手は奴の次の動きを読んでいる。コイツの未来の動きは手に取るように分かるぞ!


 「や、しまっ……」


 「もらったァーーッ!」


 ――ごり、と硬い骨の感触がした。僅かに柔らかい感覚もあるが。

 俺の手は確かに奴の腕を掴んだハズだった。


「ちょちょちょ、ちょっとタイム優君!」


「ん、あ……。すまんすまん」


 ハズだったが――俺の手はしっかりと瑞葉の胸を掴んでいた。掴める程のモノでも無かったが、それでも瑞葉にとっては大層大変な事だったらしく顔を真っ赤にしてこちらを睨みつけている。

 そういうキャラじゃないだろお前は、なんて言おうとした俺の言葉は部屋の入り口から聞こえてきた音に止められた。


「あ……あの、こんばんは……?」


 騒ぎを聞きつけたのかりこが部屋の扉の隙間からこちらを覗いていた。

 視界には当然がっしりと胸を掴んでいる俺と瑞葉が映り込んでいるだろう。


 ……ヤバい。完全にヤバい。俺の額を汗が一筋伝った。ただ瑞葉が見つかっただけならどうとでも出来たがコレは誰がどう見たってそういうシーンだ。


「あ、ヤッホーりこちゃん久しぶり~」


 なんて呑気に手を振った瑞葉を全力で俺の背中に隠し、そして改めてりこの方を振り返る。明らかに何か勘違いしている様で少しだけ顔が赤いりこに俺は必死の弁解を始める。


「お、おいりこ……これはそのだな、別にそういうことではなくて……」


「あ、その、えと、ごゆっくり!」


 俺の弁解を聞きもせず案の定俺達の関係を勘違いしたのか、扉を閉めるとりこは速攻でリビングに戻って行ってしまった。


「ちくしょう……なんでだよっ!」


 俺はがっくり膝から崩れ落ちた。

 幽霊に憑りつかれた事よりもこっちの方が俺にとってはよっぽどショックだった。

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