願いを叶える機械
研究所で歓声が上がった。20年以上の歳月を経て、願いを叶える機械が完成したからだ。
500人以上の人が皆、恍惚な表情で機械を見つめていた。機械のそばには博士がいた。
「改めて、この機械にどう願い事をいうか軽く伝えよう。
『研究者になりたい』
このように、言葉の最後に『たい』と言えば、願いと認識し、すべて叶えてくれる。色々な機能は説明書を渡してあるので、ここでは省略しよう。
では、機械を起動する。」
博士の言葉に、再度歓声が上がった。博士が手を挙げ、手を2回たたくと、皆一斉に静まり、ヘッドセットを装着し、何かのスイッチを入れ、床に座った。博士もヘッドセットを装着した。
博士が機械の起動スイッチを押すと、皆口々に願い事を唱えた。ある人は大金持ちになりたい、ある人は不老不死になりたいと願った。中にはヘッドセットのデザインを変えたいと願ったり、とにかく眠りたいと願ったりする人もいた。
願い事を言う声で騒がしかった研究所が、にわかに静まった。ただ一人、博士を除いて、皆が皆眠っていたのだった。
博士は悲しそうにひとりごとを言った。
「この機械はその者が言った願い事をそのまま叶う世界を作ってくれる……夢の中でな!
肉体がいくら衰えようが、死のうが、精神はずっと自分が思う状態のまま、生きたければ永遠に、死にたくなるまで生き続けることができるわけだ!
理解した上で行ったとは言え、皆二度と覚めないと思うと……
現実の苦しみを受け入れ、行動した上で、真に願いを叶えることより、肉体を失ってまですぐに願いを叶えることを望む者が、少なくともこれほどいるとは。まあ仕方あるまい。」
博士は機械と眠っている人を交互に見つめ、呟いた。
「人というものは、可能なら楽に理想に近づき『たい』と思うものだからな。」
ヘッドセットのスイッチは入ったままだった。