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第84話 俺の青春

 麗佳に連絡を入れた後、俺は――――走っていた。


 集合場所に指定したのは郊外にある場所だ。距離的には電車かバス、あるいはタクシーを本来であれば使うような場所にある。


 しかし、そんな合理的な思考など、今は取っ払って、ひたすら前に向かいたいという気持ちだった。



 だから走っていた。いや、「だから」なんて言葉は意味を成していない。何故ならこれは意味のない行動だったから。



 何故、俺はこんなにも意味不明な行動を取っているのだろうか。そんな言葉が脳裏を過るが、すぐに走る事で後ろへと置き去った。


 普段から走り慣れていないから、すぐに息が上がった。心拍数が上がって行って、今すぐにでも立ち止まってしまいたい気持ちに駆られる。


 けれど、胸の奥から湧く情動的な何かがそれを許さない。全身から汗が吹き出し、アドレナリンがフル稼働で分泌されていく。そして、頭が段々とクリアになっていくから、無意味な思考が止まらない。


 俺は本来、ゴリッゴリの合理主義者だ。父に似て、無意味なまでに理知的な論理を行動に求める。


 だから、ここまで衝動的且つ無意味な行動に身を任せるのは最早初めてだと言っても過言ではなかった。


 しかし、これが、これこそが「ああ、青春なんだなぁ」と思い起こされる気がした。


 無駄に湧き出るエネルギーを、無駄に発散したい。そんな気持ちでしか今はなかった。



 俺はどこでこんなに変わったのだろう。変われたのだろう。


 アンチ青春主義者とか言って、気取っていた俺は一体どこへ行ったのだろう。


 分からない、分からないが……この瞬間は本来の俺から進化したかのような気持ちでいた。


 脇道から出て、線路沿い、大通りへと出る。後ろから高い音が鳴り響き、電車が俺の横を追走する。そんな電車を追い抜かんとばかりに、更にギアを入れて加速していく。


 最早、叫びたい気持ちになって、奇声でも挙げてやろうかという気持ちになったが、それは流石に自重した。こんなにアドレナリンが出まくって馬鹿になっても尚、変に自分を捨てきれないところが、陰キャがイキっているだけという絵面にしかならないが、それでも良いような気がした。



 俺は俺らしく、青春染みた行為に身を委ねる。それで良いじゃないか。




 そうして、俺は追い抜かれた電車の尻を見つめながら、さらに加速していく――――全ては麗佳に会う為に。



 ※※※



 ――――などと言っていたのは今は昔、俺は路地裏で息を切らし、ゾンビのようにへたっていた。



 つうかあまりに厳しくなって脚を止めたかと思えば、次の瞬間には胃液が口から噴き出ていた。



 …………やっぱ普段走り慣れていない人間が、青春っぽく走っても結局は身体の方が持たないんですね、分かります。



 やっぱり陰キャは陰キャで、本質はそう変わってくれないらしい。つうか何だよ進化ってアホかな?


 十分に休養を取ってから、どうにか俺はまた走り出した。ぶっちゃけさっさとタクシー使って目的地まで向かいたいが、これはもう意地だった。


 そう言えば思い出した。俺はかつて負けず嫌いだったんだ。炎上したり、馬鹿にされたり、色々あった所為で負け続けである事にも慣れていたが……、こういった事を思い出せたのもまた、麗佳のお陰なのだろうか。



 こうして走っている間にも、あいつに言いたい礼がまた一つ増えてしまった。



 やはり早く会いたい、その気持ちがどんどん俺の中に積み重なっていく。



 先程よりも身体への負担を心配しつつ、自分の限界を見極めながら走る。



 やっぱりそう言う方が俺には合っているのだろう。


 アンチ青春主義者の送る青春なんて、やはりこの程度なのだろう。



 そう無意味な認識を覚えつつ、俺は麗佳の元へと向かった。

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