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第83話 また一緒に



 まず何から言ったものかと思っている最中、


「円城瓦さん、良いですよ」


 実葉はそう口にした。


「……、良いってお前」


「私としてはもう満足しているんです、想いを貴方に伝えられた事に。……勿論、想いが成就できれば良かったのですが……けれど、それも自己責任です。一年も想いを募らせて、行動を起こすのが遅すぎたのが悪いのですから」


 だから、と実葉は続ける。


「円城瓦さんは今、もっとも会いたい人がいる筈です。でも、義理堅い貴方の事ですから、その前に義理を果たそうとしてここに来てくれたんですよね? ……私にとっては、それで、それだけで十分です」


「実葉」

 俺は彼女の名前を呼ぶ。どこまでも優しい彼女の事を。


「それは……お前にとって聞きたくないからか? それとも俺にそれを言わせたくないからなのか? どっちなんだ」


 捉えようによっては残酷な問いになってしまった事は否めない。しかし、これは確認しなければならない。絶対に。


 実葉はそんな俺の問いに言葉を返した。


「……すいません、ずっと貴方の言葉を待っていた筈なのに、おかしいですね。何だか急に怖くなってしまって。私は円城瓦さんとはこれからも親しくしたい。けれど、『それ』を言われたら、もう貴方とは親しくできる機会がないかも知れない。今までのような関係が終わってしまう……それが私には怖いんです、とっても」


 実葉はふぅ、と溜息を吐いた。


「円城瓦さんは私を優しいと仰います。でも、それは大きな間違いです。私は小狡い。だって私は貴方からの返事を聞きたくない、いつの間にかそう思ってしまっている。その理由はその時が来なければ、きっと貴方は私に構ってくれるから」


「…………」

 無言のままでいる俺に対して、実葉は続けた。


「だから私は最後の言葉を言って欲しくないのかも知れません。永遠に。これが終われば貴方と私とを繋ぐものがなくなってしまう。だったらいっその事って――――」


「実葉」

 実葉の言葉を遮り、俺は彼女の名前を呼んだ。


「言っとくが、俺は大概、絶望的なまでに陰キャで、友達すらいない。酷いもんだ」


「それは、存じています」


「そうだ、お前も知っている。友達の一人もいない学校ってのはつまらないし、何より長く感じるんだよ。それに行事や特殊なイベントのある日はもっと面倒だ。暇な時間をどう過ごすのかを考えるだけで嫌になる」


「それも、存じています。……経験上」


「だからさ」

 俺は少しの間を置いて、言った。


「だから、俺はこれから少し学校が楽しくなるかも知れないって、結構思ってるんだよ。お前がクラスにいれば、楽しくなるんじゃないかって」


「私も、です」

 実葉は笑みを零す。緊張感の抜けた自然な笑みだった。


「どちらかと言えば、俺の方が気にしている。もうお前は俺と話してくれないんじゃないかって」


「そう、でしたか」


「ああ、だから俺からお前との付き合いを断つなんて事は無いからさ。また、一緒に昼休みにでも弁当を食べたりしてくれたら、俺としては最高だ」


「それは、……本当に楽しみですね」


「だから、頼むから言わせて欲しい。お前の優しさに報いたいんだ」


「…………分かりました、円城瓦さん。そこまで言うからには私も覚悟を決めます」

 実葉の返答を許可だと受け取った俺は、彼女の想いに返事をする。


 これは礼儀であり、感謝。だから絶対に言わなきゃいけなかった。


「実葉。お前からの告白は嬉しい。けれど、お前とは付き合えない。好きな人がいるんだ」


「存じて、います」

 実葉はそう答えた後、やがて続けた。


「ありがとうございました、円城瓦さん。……それと、今後も宜しくお願い致します、お友達として」


「ああ……こちらこそ、お願いします」

 俺達はお互いに深々と頭を下げた。そして、数秒の後に実葉が口を開く。


「行ってあげて下さい、円城瓦さん。会いたいのでしょう?」


「……悪いな」


 いえいえ、と言う実葉に背を向け、俺は喫茶店から出ていった。


 スマホで連絡を入れ、待ち合わせをする。言いたい事があるから。


 そして、俺は麗佳詩羽との待ち合わせ場所まで急いだ。



 ※※※


「……行って、しまいましたか」


 言いたい事は言えた。そして、今後も仲良くしてくれるとまで仰って戴けた。


 もう悔いはない。私は私の初恋を、きちんと終える事ができた。


 かなりの上がり症であった頃から比べると、驚くべき成長であると言えるでしょう。


 私の想い人――円城瓦太一さんには感謝しかありません。


 なのに。


 なのに――――


「なんで……なんで、こんなに涙が溢れてくるのでしょうか」


 この泣き顔を見られなくて良かった。あのお優しい御方はきっと気にするでしょうから。

 

 あの人はたくさん戦った。たくさん、傷ついた。それでも前を向いて、ようやく勝ったのですから。


 だから……哀しませてはいけません。あの人にはもう前を向いて戴きたい。


 それが私のこの初恋で想う最後の願いなのですから。



「済んだのですね」

 そんな声を掛けられ、ふと顔を上げるとそこには天城さんのいつもの微笑があった。


「ちょッ、麗先輩!? 今はまだ話しかけない方が良いって言ったのに……ッ!?」

 続けて天城さんの後ろには舞島さんが続いております。


「良いではないですか、ニーナさん。それに、私、コーヒーとホットドッグをまだ残しているんです。私の三日間の全財産を無駄には出来ません」


「……麗先輩の株がわたしの中でどんどん下がっていく……。ああ、こっち系の人なのかぁ。これは色々プライベートで話してみないと分からない系ですね。いや、まあ良いですけれど」


 二人が戻ってきた為、私はハンカチで涙を拭う。


「すいません、少々お見苦しいところを見せてしまい……」


「構いませんよ、私は。それにお見苦しくなんて無いですよ。恋する乙女程美しいものはそうは無いですから」


「……何でこの人、いきなりジゴロ的な台詞を吐くんですか、怖いなサイコですか。すいません、心香先輩。なんか麗先輩が空気を読まずに来てしまって。とは言え、もうこうなったら色々愚痴とか聞きますよ。先輩のあんな事やこんな事の愚痴吐いても構いませんよ」


 ひひひ、と舞島さんが少々悪い笑顔を浮かべています。


 そんな彼女達を見ていると、私も私でこのバトルロイヤルを通して手に入れた財産は多い事に気付かされます。


「私達は『円城瓦さん被害者の会』ですからね。円城瓦さんには悪いですが、少しくらいお話させて戴いても良いかも知れませんね」


「ふっふっふ、これで先輩に対する弱みがまた一つ増えていく……」


「それでは、まず私が円城瓦さんを好きになったキッカケですが――――」


「愚痴じゃないじゃないですか!? 心香先輩、どんだけ人が良いんですか!?」


「私としてはそれでも構いませんよ、私も太一さんの事は慕っておりますから」


「えぇ……なんだかヤバい場所にわたし、呼び出されてませんか大丈夫ですか」



 そんな風に私はバトルロイヤルを通して手に入れた良き友人達との談笑を楽しむのだった。



 今度はこの事を円城瓦さんにお話出来れば良いですね。



 昼休みにご一緒する際、一緒にお弁当へと舌鼓を打つその合間にでも――――

本作品は明日(7/26)の昼頃に完結予定となっております。

もし宜しければどうぞ最後までお付き合い戴ければ幸いです。

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