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第82話 女三人集まれば



 連絡先の人物に指定された場所は某有名チェーンの喫茶店だった。


 俺がやって来た事を認めると、そいつはわざわざ席から立ち上がって深々とお辞儀をしてみせる。


「――――お待ちしておりました、円城瓦さん」


「……悪いな、実葉。待たせちまって」


「いえいえ、ようやく告白のお返事を戴けるとの事でしたので、苦ではありませんでしたよ。これまでも随分と待っていたのですから、今多少待つくらいの事は問題にもなりません」


「…………」

 なんだろう、待ち合わせ相手である実葉の言葉の節々に棘を感じる。いや、まあ当然なのだろうけれど。


 まあ、それはそれとして。


「先輩ってば女の子を普通に待たせるなんて、陰キャ童貞がよくもまあ出世したものですね(笑)」


「ふふ、太一さんも隅に置けませんねぇ」


「何でここに舞島と天城の二人までいるんだ…………?」

 喫茶店には何故か実葉の他にも二人、舞島と天城の二人までが座っていた。


 しかも早朝であるにも関わらず、のんびりしている様子が見て取れた。


 俺が言うのも何だが、何やってんだこいつら……。


「いえ、私とて心香さんと太一さんの逢瀬を邪魔するつもりは無かったのですが……」


「麗先輩と心香先輩とお茶をしていた途中で突然先輩が電話を掛けて来たんですよ。だから一緒なんです仕方ないでしょう」


「え、何? お前らっていつの間にそんな仲良くなったの? つうか、知り合いだったか?」


「仲良くなったのはつい昨日の話ですよ。円城瓦太一さん被害者の会を結成したんです」


「…………、何その俺の心にグサリと来る組織名は」

 天城から聞いた『円城瓦太一被害者の会』とやらの存在に肝が冷える。


 いや、まあ確かに俺がぶっ倒した三人には違いないんだろうけれどさ……。そこまで酷い事したっけ、俺? …………うーん、確かに結成されても仕方ないかも知れない。


「主に先輩の愚痴を言い合ったりして盛り上がるんですよ」


「やめて!! よしんばそれで仲良くなったとしても、その事実を当の本人に伝えないで!!」


 陰キャは何やかんやで文句は言われなれている一方で普通に傷つくので、止めてほしい。後でシャワー入っている時とかにふと思い出してゲロ吐きそうになるから。


 俺がかなり傷ついた表情を浮かべている中で舞島が「じょ、冗談ですよ先輩。……ま、まあ多少は愚痴言う事もありますが、基本はそこまで不満は無いですから」とのフォローをしてくれたが、「多少は」の部分に愚痴を言われている事に真実味を覚えて更に心に怪我を負ってしまった。……やっぱ色々やりすぎたところもあるしなぁ。反省しないといけない。


「円城瓦さん、そう気にしないで下さい。学校が休校になったので、ついでに記憶を持っている参加者同士でどの程度の事実の改変があったのかをお互い確認しあいたかったというだけの事ですから」


「あ、ああ、そういう…………ん? 休校? 学校が?」

 俺のそんな疑問に実葉が「ええ」と答える。


「何と言うか事実の改変に応じた記憶の処理が行われたのですが、全校生徒の中には昨日の事――つまり球技大会の事ですね。あれは普通の球技大会が行われ、無難に盛り上がったとの事実改変が行われたそうですが、それはそれとしてバトルロイヤルの事を夢のような形ながら少々覚えている方がいらっしゃって。さらにその過激な夢の内容に寝込んでしまう方がかなりの数に登るらしく……、本日はひとまず休校という措置が下されたようです」


「えぇ…………」

 実葉の説明に困惑の声が出る中、舞島が口を挟んだ。


「と言うより先輩のところには連絡が来なかったんですか? 知り合い通じて普通連絡が来るもの――――――ああ、そういう事ですか」


「お前、無駄に悟るの早いけれど、それはそれで地味に傷つくから止めてくれない?」

 まあ詰まるところ、学校に親しい知り合いがいない奴に連絡は来ないとかいう悲しい事実の確認が為されているのだった。……これが陰キャの性か。


「私は天城さんや舞島さんから連絡を戴けたんですが…………くッ、私がきちんと円城瓦さんにお教えしていれば、円城瓦さんを傷つける事も無かったのに。不覚です」


「あ、いやお前はお前でそんなに責任感じなくても良いからな?」

 責任を感じたのか苦々しい表情を浮かべる実葉。やっぱりこいつ聖人だなぁ、すげぇなぁこいつ。


「今日の早朝は事実が色々変わったというからには、私の過激自撮り掲載アカウントにも変化がないかの確認をしていたので忙しかったんです。見たら六度目の凍結喰らっていたんですけれどね。酷い話です」


「色んな意味で酷いな、ホント」

 こういう訳のわからない趣味が無ければ聖人として崇めても良いのに……人って難しいわ。


「ところで……一応聞くが、神様による事実の改変ってどの程度で起こっているんだ?」

 俺の方でもある程度の確認は行っているが、一応客観的な意見も聞くべきだと思い、天城へと尋ねる。


「そうですね。三人で少し話してみたところにはなりますが……、やはり太一さんの過去の炎上騒ぎ絡みについての事実が一通りもみ消されているってところでしょうか。都度バトルロイヤルに関しての記憶は参加者以外からは消えるような形で処理を。さらに先日の詩羽さんの炎上騒ぎ及び太一さんの更なる炎上騒ぎについてはですが……、詩羽さんの炎上騒ぎからして無かった事になっているなどの処理が行われたようです。あとは多少周囲に及ぼした影響の処理を軽く、と言った感じですかね。それについては最小限と言ったところのようですが」


「あれも無かった事になっているのか」

 俺はほっと胸を撫で下ろす。


「そう言えば、天城。球技大会でお前が使った多額の寄付の件はどうなっているんだ?」

 俺は喫茶店で普通にトーストとミルクティーを頼んでいるところから、天城の件もある程度修正されたのかと思い、尋ねる。


 すると、天城は首を横に振る。


「いえ、あれはそのまま実行された事になっているようです。無論、修正せずとも良い事だとは思いますし」


「そうなのか? じゃあ、その注文は少し余裕が出てきたっていう――――」


「いえ、これは三日間の全生活費をどうにか捻出しての決死の注文です」


「詩羽先輩!? え、えぇ!? そんな無理して注文してたんですか!?」


「ふふ、心配なさらないで下さい、ニーナさん。私が水だけ頼んでいたらそれこそ気を遣わせてしまって楽しくお喋りできないでしょう? 必要経費です」


「必要経費じゃないでしょうが何言ってんですかこの生徒会長は。……あと、名前で呼ばないで下さい。あの、先輩。麗先輩ってこういう人だったんですか?」


「……ああ、完璧超人にして完全無欠の人間には違いないが、それはそれとして人としてやべぇところがあるのは事実だ」


「……なんでしょう皆の知らない憧れの人のこういう一面を見れてお得感がある一方、知りたくなかったって気もしますね、なんか」


「ふふ、ニーナさんもちょっとだけ仲良くなれたようで嬉しいです。私、結構皆さんに距離を置かれるタイプなので、親しい友人とかあまり居なかったんですよ」


「今の会話を仲良くなったと解釈するんですか、この人は……。なんでしょう、実は先輩と親しくしていたって理由の一端を垣間見た気がします」


 そんな風に溜息を吐く舞島と、ふふと微笑を称える天城。会話や事実確認等が一息吐いたところ、ようやく俺は本題に入る事にする。


「――――悪い、実葉。ちょっと外で良いか?」


「――――ええ、構いません」

 俺の誘いの言葉に、談笑中は席に着いていた実葉が再び立ち上がる。


 すると、


「いえいえ。お二人が話しをされるのでしたら、私とニーナさんの二人が席を立ちますよ」


「心香先輩は終わったらご連絡して下さいね。……あと、麗先輩は名前で呼ばないで下さい」


 そう言って立ち上がった二人がそそくさとその場から去っていった。


 まあ何だかんだで気を遣ってくれるし、良い奴らなんだよな二人共。


 実葉も含め、この関係性は俺がバトルロイヤルで得る事の出来たものの一つだろう。


 陰キャにはさぞ勿体無いくらいの良い奴らだ。


 だが、その中の一人である実葉に対して、俺はこれから酷い事を言わなければならない。


 正直、気が重いのは間違いない。結果はもう決まっているのだから。

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