第79話 勝利
お互い既に手は出し尽くしていた。
俺――円城瓦太一――と麗佳詩羽。両方共、フォロワーで得られる全ての力を出し尽くしていた。
地形を変動させる程の力を発揮し、空まで飛んだ。
それでも決着はまだ着かない。
しかし、決着は既に近い。お互いに全てを出し尽くした結果、息も絶え絶え。これ以上、お互いに新たな戦略を絞り出す余裕もない。
現在の戦況は――――僅かに俺が有利だった。
それはきっとフォロワーの力によるものではなく、純粋な男女差によるものだろう。神々級の力を手にした俺達にとってはそれは僅かな差でこそあったが、しかし決定的な差であったに違いない。
「終わりだ、麗佳」
俺はようやく勝利宣言を口にした。
一方で麗佳も同様に勝負の終わりを口にする。
「ええ……確かに、もう終わりね」
しかしながら俺の考えに反して、麗佳は言葉を続ける。
「悪いけれど、円城瓦君。私の勝ちだわ」
「勝ち? 今更一体何を――――」
麗佳に新たな手が残されているようにはとても思えなかった。俺の勝ちは揺るがない。ただの強がりにも思えた。
それらの言葉を聞き取らなかったら――――
「――――クソ瓦とか応援する気も起こらなかったけれど、ここまで来たら……少し応援しちゃうわ」
ポツリ、と呟かれたたった一つの言葉。
しかし、趨勢の変わる一言であったそれを、俺は確かに聞き逃す事ができなかった。
やがて集団という水面に放たれた言葉の雫はゆっくりと、しかし着実に波紋となり、やがて周囲へと流れが広がっていく。
「クソ瓦はくっそ嫌いだけど、あのアクション映画超えた動きはちょっと格好いいかも知れんわ」「さっき地形吹き飛ばした時、マジビビったわ」「あんなクソムカつく野郎が少しでも格好良く見えちゃうとか末期だわ」「でもあんな風に人智を超えた肉弾戦してるのちょっと熱いかも」「まああんな動き真似出来る奴とかいないしなぁ。ある意味、良いもん見せてもらってるのかも。そういう意味ではクソ瓦もたまには役に立つわ」
それは俺が必死に作り上げた『嫌われ者の陰キャである円城瓦太一』という存在が崩壊していく瞬間でもあった。
無論、こんな事で俺への好感度が上がる訳じゃない。
俺が陰キャから一転して人気者になる訳でも決してない。
だが、俺は究極的な嫌われ者であったからこそ、最強の人気者である麗佳詩羽という存在と対等でいられた。
しかし、少しでも好感を抱かれれば、ほんの少しでも嫌われ者でなくなってしまえば――――俺はその時点で『最強』では居られない。
まさか――――こんな事で、最後の最後で究極の陰キャでなくなってしまうとは思わなかった。
やはり円城瓦太一という人間には結局、青春というものは似合わなかったという事だろうか。
「――――円城瓦君」
肩で息をしていた麗佳は、やっとと言った様子で俺の名前を呼んだ。
それは俺への静かにして確かな勝利宣言であった。
「……分かっているよ」
ここまで来て粘る事に何の意味もない事は知っている。
このバトルロイヤルのルールは注目度が高い事が全てだからだ。
ここから逆転は不可能。それはここまで勝ち上がってきた俺が一番よく知っている。
しかし、どうやらここまでのようだ。
「俺の負けだ、麗佳。……後は、頼んだ」
「分かっているわよ、円城瓦君。けれど……それだけじゃないでしょ?」
疲れの残ったままにんまりと笑顔を見せる麗佳。
……ああ、そう言えば、そうだった。
「……それより麗佳。悪いが肩を貸してくれないか? 多分、あと数秒もしない内に空中に飛んでいられなくなるから」
既に浮力は限界に近い。着実に、物凄いスピードで俺のフォロワーが下がっているのが分かってしまった。
これは俺が若干ではあれども嫌われ者という立場を脱出出来たという事の証明なのだから少しくらい喜んでも――――いや、別に究極的な嫌われ者から、普通に嫌われ者という立場になったところで意味ないわ。嫌われ者は嫌われ者だったわ。……悲しいなぁ。
やがて空中に浮いていられなくなった俺の身体を、麗佳が受け止める。
しかし、
「…………おい」
麗佳は何と俺をお姫様だっこの形で受け止めていた。
……全員が俺に注目している中、俺をお姫様だっこするとか……こいつ鬼畜か?
「ちゃーんと返事をしてくれたら、止めてあげるわ」
「…………分かったよ」
それがお前が勝った時の条件だった訳だしな、仕方ない。
それにこのまま行ったら、マジでバトルロイヤル勝利の願い事にしそうだからな……。いや、まあ、さすがに無いとは思うけれど……ここまで来て言わないのはさすがに男の名折れだろう。
そして、俺は物凄い重くなった口を開き、やがてこう口にした。
「――――――――麗佳詩羽……俺もお前の事が好きだ」
こうしてバトルロイヤルの勝者が麗佳詩羽に決定したのだった。




