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第78話 飛翔


 俺――円城瓦太一――は完全に背を見せている麗佳に対して最後の一撃を喰らわせるべく、右腕を振りかぶる。




 最大の力を乗せた一撃を無防備な背中へとまともに喰らえば、例えあの麗佳詩羽と言えども耐えられよう筈がない。




「これで最期だ――――麗佳ぁ!!」


 そんな決め台詞を口にしつつ、俺は最期の一撃を麗佳へと叩き込んだ――――




 ――――かに思えた。




 だが、




「……ふっ、まだ、まだよ。円城瓦君!」




 背中を見せて無防備であった筈の麗佳は俺の一撃を綺麗に右腕で止めていた。




 俺からの一撃を喰らって宙をぶっ飛んでいた筈の麗佳であれば間違いなく受け止めきれなかった筈の一撃を、だ。




 止める方法なんて無い筈だった――――人間相手であれば。




 しかし、俺は忘れていた。相手にしている女、麗佳詩羽は今、神様の力を手に入れている事を。 




「お前、空を飛んで――――」




 なんと麗佳詩羽という最強のリア充は宙に浮いていた。宙に浮き、空中で態勢を整えて俺の一撃をきっちり止めていたのだ。




「ふふふ、私は今、高いフォロワーを持っている。つまり神様の力を手に入れているも同然。神様は宙を自由自在に飛ぶ。そんな事、常識だったわ」






「そんな……非常識な……」




「円城瓦君、これで形成逆転ね。宙に受けない貴方では私には決して勝つ事は出来ない」




「くそッ…………そんな馬鹿なっ、非常識にも程があるぞ!!! ………………いや、待って。待って、ホント。俺も出来たわ。空飛べちゃったわ」




 俺も宙を飛んでいる麗佳に習ってみたら、普通に空を飛ぶことができた。




 どんな原理かなんて知らない。鳥の羽を生やしている訳でもなければ、ジェットエンジンを背中に積んでいる訳でもない。




 どんな原理か分からないが……『空を飛ぼう』と思ったら、普通に出来た。




 すげー、神様の力、すげー。




「くっ、円城瓦君!! なんて非常識な…………ッ」




「いや、どう考えてもお前が言うなって感じなんだが?」




「仕方ないわ。こっから先は第二ラウンドってところかしら?」




「ふっ、臨むところだ!!」




 そうして俺達は激しい戦いを今度は空中で繰り広げる――――








 ※※※




「詩羽先輩と先輩、地形を変えるだけじゃ飽き足らず…………今度は空翔び始めちゃったんですけれど……。神話と言うか何と言うか……もうデタラメ過ぎて。はぁ……わたしと戦い合ってた頃を思えば随分と遠い……遠い所に行っちゃいましたねぇ……はは」




 かつての参加者である少女、舞島ニーナは最後に残った参加者である二人――円城瓦太一と麗佳詩羽――の戦いを遠い目で見つめていた。




 告白の返事がどうとか、好意を口にするのが恥ずかしい、とかそんな犬も食わないような理由で戦い始めた時は「一体この脳みそ桃色の思春期二人組は一体何がしたいのだろうか……」と思っていた舞島だったが、その内に戦う必要がないにも関わらず拳を交わし始め、終いにはその超人をも超越した神々の領域のバトルを繰り広げ始めた頃にはもう遠い目で見ているより他に仕方がなかった。




 何故なら舞島の周囲にはほぼ全校生徒がいる訳だが、その全校生徒が立っている場所以外にはもう人間の立てる地形は存在していなかった。その場所はドーム状の透明な壁に囲まれていてこの場所から出る事は出来ないし、よしんば出られたところで二人の戦いに巻き込まれたらそれこそ命はないように思えた。




 ノアの方舟に乗った動物達はこんな気分だったのだろうか……そんな事を思いながら舞島は溜息を吐いた。




「確か……貴方も参加者でしたよね?」




 そんな中、舞島へと話しかけてくる者が居た。




 メガネを掛けた地味な外見ながら、丁寧な所作の楚々な様子が印象的な少女。



「ええと……貴方は?」




「実葉心香、と申します。以前、夜の校舎で貴方を追いかけ回したメイド……と言えば分かりますか?」




「……ッ、ええ…………、あの痴女……じゃなくて。人は見かけによらないと言うか……。という事は貴方が先輩にあのメイド服を貸したって事ですか?」


 舞島は円城瓦太一の着ているメイド服を見ながら、言う。




「ええ。まぁ、もうメイド服と言うかただの布になってますけれど」


 太一の着けているメイド服は激しい戦いの余波を受けた結果、元から露出度の高い服ではあったが、破れに敗れて最早ただの布切れと化していた。




「ついでに言えば、あの円城瓦さんに告白しての返事待ちです」




「…………それは何と言うか、ご愁傷様です」


 


「いえ、まあそれは少し前から分かっていた事ですから。もう色んな意味で私には見守る事しか出来ません」




「あら、これはこれは……珍しい組み合わせですね」


 そんな中、また新たに舞島と実葉の間へと割って入ってくる者がいた。




「え、……うわ! 麗先輩!?」




「はい、突然会話に入ってしまい申し訳ありませんね、ふふっ」


 舞島は驚いた表情を突如として現れた少女、天城麗へと向ける。




「生徒会長さんはもうお体は大丈夫なんですか?」


 実葉が心配そうに天城へと尋ねる。




 天城はついさっきまで円城瓦太一と戦い、破れた結果気絶していたのだ。




 しかし、天城はいつものように柔和な笑みを浮かべ、言葉を返す。




「勿論ですよ。それより、私としては結末を見届けなくてはなりませんからね。それがこの三人で見届ける事が出来るなんて良かったです」




「三人に何か共通するもの……ああ」




「勿論、太一さん被害者の会ですよ、私達三人共」


 舞島の悟った表情へと被せるようにして、天城は言う。しかし、その言葉とは裏腹にどこか楽しそうであった。




 とは言え、天城生徒会長が怒った様子なんて言うのは舞島にも実葉にも想像が出来ないが。




「しかし、まあ、太一さんは私の想像の斜め上をいきますねぇ。きっと太一さんは私の期待に答えて下さる素質のある人材である事は予想していましたが、まさか目的を達して尚、あんな神々の戦いとも思えるラストバトルを私に見せて下さるなんて……ふふっ、感無量ですよ」




「えぇ……、そりゃ先輩ってば元の陰キャ童貞臭さ漂うキャラからすれば、大出世だとは思いますけれど……、これもう奇跡でしょ。なんであの詩羽先輩と張り合えるのかわたし、未だに疑問なんですけれど」




「そんな事はありませんよ、円城瓦さんは凄い人なんです。それは私が保証します」




「実葉先輩……でしたっけ? そう言えば、この人も先輩に告白したとか何とか……やべぇな、今私結構アウェーな状況じゃないですか、やだー、適当に毒舌吐いて適当に流してくれる先輩の存在が無駄に愛おしくなってきてマジヤバいんですけれど」




「とは言え……これは、太一さんにとっては悪手だったように思えますね」


 ぽつり、と天城が先を見据えたかのような一言を口にした。




「え、どういう事ですか? 物凄い詩羽先輩と良い勝負をしているように思いますけれど。と言うかアベ○ジャーズどころかドラゴ○ボールみたいな戦いに進化していて怖いんですけれど。さすがに地球破壊とかしませんよね……」




「ニーナさんも分かっているじゃないですか」




「ニーナって言わないで下さい恥ずかしいんですよ本名で呼ばれるの! ……分かっているって何がですか?」




「あんなに激しい戦いでラストバトルを彩っているんです。実葉さん、太一さんの戦いを見てどう思いますか?」




「さすがは円城瓦さんです。格好いいというより他にないですね」




「どうしたんですか実葉先輩、先輩に惚れ薬か何か盛られたんですか?」




「では、ニーナさんでも宜しいですよ? あれを客観的に見て、どう思いますか?」




「だからニーナって言わないで下さい! それは、まあ……アクション映画みたいだなって……うん? ……ああ、そういう事ですか」


 舞島はそんな風に納得しつつ、頷いた。




「え、どういう事ですか? あの戦いが円城瓦さんにとって何か足を引っ張る要素になると? とても格好良いじゃ――――あっ」


 そして、最後に実葉も気付いた。




「そういう事ですよ、お二人共。そろそろ皆さんも気付き始めますよ。それではお二人共、円城瓦太一さんの戦いを最後まで見ていましょうか」


 


 そう言って天城は円城瓦太一と麗佳詩羽の最後の戦いを眺め、二人もそれに倣った。




 そして、やがて――――周囲からの言葉に変化が現れ始めたのを三人共見逃さなかった。


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