第77話 追撃
「ふ、ふふ…………これで少しは反省したかしら」
円城瓦君にようやく綺麗に一撃を喰らわせた私――麗佳詩羽――は、彼の反撃に備える為に息を整える。
そ、それにしてもやりすぎちゃったかしら……。いや! そんな事はない!
あれは私にとっては一世一代とも言える大告白だったのだ。
しかも、すっごい恥ずかしかった……。あんな風に大勢の前で告白するなんて考えられなかった。以前、バラエティのドッキリで共演者に告白する――――なんて企画の話があったが、それすらもあまりの恥ずかしさに断ったのだ。衆人環視の中での告白なんて冗談ではない、と。それが結局、こんな形で実現するなんて世の中分からないものである。
――――でも、後悔はない。私は彼の事が……円城瓦太一君の事が好き。
彼に人生を救われた。恩義も感じているし、その気持ちは今も変わってない。
けれど…………けれど! 乙女のそんな勇気を恥ずかしいという理由で不意にした円城瓦君に少しくらい痛い目を見てもらっても罰は当たらない筈だ。……当たらないよね、いや……よく考えれば私、恩人に対して大変な事をしているような……。第一、これで嫌われたら……私は本当こういう時頭で考えるより身体が動いてしまって駄目だ……い、いや! もう始まってしまったのだから考えても仕方がない。
こんな摩訶不思議な体験はこれで最後になるだろう。私の全てを円城瓦君にぶつける! 後の事は後で考えれば良いのだ。……多分。
そんな風に考えながら私は私の一撃により盛大にぶっ飛んでいった円城瓦君の方へと見やる。最早、体育館が本当にあったのかも怪しいぐっちゃぐちゃに崩れた地面へとぶっ刺さった円城瓦君は未だに上へと上がってこない。
円城瓦君をぶち抜いていった穴の前に立って中を覗き込むが、底が殆ど見えない。十数メートル……いや、それ以上、下へと抉られたようだった。
もしかしてやりすぎちゃった……? 私、あの一発で円城瓦君に勝っちゃったのかしら……?
自分で言うのも何だが……今の私に対する注目度は物凄い事になっていると思う。円城瓦君を勝たせる為だったとは言え、自分のフォロワーまで上がるのは予想外だった。と言うか上がったところで結局勝ちを譲るつもりだったのに……。どうしてこうなったの?
なんて堂々巡りな思考に陥ろうとしていた矢先、
「!?」
私の周囲で幾つもの水柱が上がる。
水道管が破裂した――――どころの騒ぎではない。それどころか地面が大きく揺れる。
「え!? 何が起こったの!?」
そのままあちこちの地面が割れていく。やがて視界が揺れ、地面に立っていられなくなった。
やがて気付いた。重力が傾いている――――違う、ここら一帯の地面自体が斜め下に滑っているのだ。
周囲にあった瓦礫や水道管の破裂によって出来ていた水たまりが元あった場所から重力に従って落ちていく。
そして、私自身も例外ではなく滑り台に強制的に乗せられたかのように地面を勢いよく滑っていった。
「きゃあ!」
これ以上滑らないように体育館近くの木々に掴まって事なきを得る。
しかし、
「スキ有りだ、麗佳」
そんな声が一瞬聞こえたかと思った直後、脇腹を凄まじい力で抉られた。気付けば宙に飛んでいる。
「麗佳。まだ終わっていないぜ」
その直後、背中から聞こえる声。それによって気付く。円城瓦君は宙をぶっ飛ばされている私の背中を追いかけ、一緒に飛んでいるのだと。
「円城瓦君、貴方、何をしたのよ」
宙を高速で吹き飛ばされながらもどうにか言葉を口にする。そんな私の質問に、円城瓦君はこう答えた。
「あれだ。適当に岩盤割ってたら地震が起こって、地形そのものが割れた」
「滅茶苦茶し過ぎでしょ!?」
つまるところ円城瓦君は何十メートルも下にあった岩盤を打ち砕いている内に、やがて地層が崩れ、強制的に地震を起こしたのだ。
それによって出来た私の隙を見逃さず一撃を加え、さらに空中で身動きの取れなくなった私への追撃を入れようとしている。
超常的にも程がある。しかし、それ程までに私達は信じられない力を――――神様の力を手に入れてしまったのだ。
それはそれとして、これから襲い来るであろう円城瓦君による背中からの追撃を防がなくてはならない。このままでは円城瓦君の攻撃をまともに喰らって、私は負ける。
「これで最期だ――――麗佳ぁ!!」
しかし、現在、空中に浮きながらも、完全に背を取られた私にこれをどうにかする力はない。
何故なら人は空を飛ぶ事はできない。それこそ神様でもない限りは――――ん?
神様なら宙を飛べるわよね…………?
もしかして――――――――
試しに私は身体に力を込めていく…………。




