第76話 互角
―――――それは本能だった。
「――――来る!!」
あるいは目に瞬間的に映る相手の影。
あるいは肌にひりつく空気の振動。
あるいは戦いの中で会得していく、第六感的なもの。
最早、相手の動きなど簡単には捉えられたものじゃない。それはいわゆる本能のようなものだっただろう。
そんな曖昧なモノでしか相手――――麗佳詩羽の動きは捉えられなかった。
しかし、俺の予感通りの場所に麗佳の肘打ちが飛んでくる。瞬間、ダンプカーでもぶち当たったのかと思う程の衝撃が受け止めた肘に伝わってくる。
とは言え、それを軽くいなす事のできる俺もまた、あまりに超人敵な存在であっただろう。
こちらに攻撃が飛んでくる度に体育館だった筈の場所があまりに非常識な衝撃を受けて爆発し、地形が変わる。その度に神様によるとんでも修復力が地形を直そうとするが、とてもではないが修復は間に合っていない。
俺達が激突する度に周囲の地形に変化が生じる――――それはまるで神話の再現のようだった。
「大体、円城瓦君! 貴方は鈍感過ぎなのよ! 私がいつから貴方の事が気になっていたのか本当に分からなかったの!?」
ミサイルのような威力の蹴りと共に、麗佳からそんな言葉が飛んでくる。一方の俺も蹴りを往なして相手に掌底を当てようとしつつ、言葉を返した。
「知るかよ!! つうかこっちはお前が俺を本当に好きかも分からないんだぞ!?」
「はぁ!? 何よ、今更! 今になってまだそんな事言ってるの!?」
「いや、だってそうだろう!? こっちにしたってただただ、バトルロイヤルの協力者として炎上させてくれただけで、本当に俺を好きだなんて保証は無いだろうが!! 実はバトルロイヤルの為に告白まがいの行為をやっただけで、実はこっちの事を全然好きじゃないって可能性もあるだろうが!!」
「そ、そんな事例え冗談でもできる訳ないでしょ、バカァアアアアアア!!!」
そんな絹を切り裂くような罵倒を叫びながら、麗佳は体育館の屋根を文字通り捲りあげたかと思えば、こちらへと屋根をぶん投げてきた。
そのあまりの規格外な攻撃を前にして、俺は対処に困る。
まず避ける事は出来ない。こちらへと飛んでくるスピードと屋根の面積からしてそんな暇はない。
であれば――――ぶち破るしかない。
俺は空中へと翔びつつ、飛んでくる体育館の屋根を右腕のパンチ一発で半壊させる。
ぶち破った破片は下へとボロボロと落ちていき、やがて学園の生徒達の元へと降り注ぐ。
「「「うわぁああああああ!!!!」」」
全校生徒は口々に悲鳴を上げるが、その瓦礫が生徒達の元へと降り注ぐ事はなく、生徒を囲むようにドーム状のバリアが展開されていた。
先程からこれらの超常的な現象は確認していたが、やはり神様は生徒達の安全は保証してくれるようだ。
一方で板チョコのようにバキバキにへし折られた屋根は修復されずに瓦礫となったままだった。
どうやら神様は一旦修復を諦め、生徒達を保護する事に全力を注ぎ始めたらしい。
まあぶっちゃけもう体育館とか修復してもまた俺達が壊すだけだしな……。それよりも生徒たちを守る事に神様は力を使い始めたのだろう。
とは言え、それならそれで後顧の憂いなく戦えるというものだ。
――――と、一瞬。ほんの一瞬だけ生徒達に顔を背けたのが罠だった。
体育館の屋根を割った瓦礫が宙を幾つも舞っている。そんな幾つもの瓦礫によって作られたほんの小さな隙間。死角。
そんな針の先でしかないような隙間を縫うがごとく、麗佳が攻撃を仕掛けてくる。
「――――なッ」
――――油断した、と思った時にはもう遅い。
しかし、麗佳は空中に飛んでいた俺の元にどうやって……。第一死角となるジャンプして飛んで来れそうな場所は確認しておいた筈。と思考を巡らせた後で気付く。
麗佳は宙に浮いていた瓦礫を幾つも伝ってここまで飛んできたのだ。
そんな計算外の俺へと麗佳の一撃が降り注ぐ。
「酔狂や冗談、ましてや打算だけで告白までする訳ないでしょうがぁああああ!!!!」
そんな麗佳の怒りの一撃が俺の頬へとクリーンヒットする。
麗佳の容赦ない攻撃をまともに喰らった俺はそのまま地面へと着弾。さらに十数メートル下へと抉られた。
その衝撃により地面の下を通っていた水道管が幾つも破裂したのが分かった。地面から水状の柱が幾つも上がったのを、俺は超人的な聴力で感じ取る。
――――ここまでされては最早、認めるしかないだろう。
麗佳のフォロワーは現在、俺と同等。あるいはそれ以上に底上げされている。
そうでなくては俺が若干押されている理由に説明がつかない。
……とは言え、その理由は分かりきっている。
麗佳詩羽は俺への告白という大胆な行為を通じて、注目度が爆上げされているのだ。
あいつ……もしかして、ここまで予想しての告白だったのか? と思ったが、そんな事を口にしたら更に麗佳のボルテージが上がる事請け合いだ。
つうか――――痛ぇ!!! 幾らこっちも超人的な能力を持っているとは言え、頬を殴られた挙げ句に地面に十数メートル陥没したのだ。痛いで済んでいるだけマシでこそあるが、そんな事で俺の気は晴れない。
俺にだって女性は殴ってはいけないとか、そういう常識的な思考はある。
しかし、今回に限っては話は別だ。このままやられっぱなしのままではいられない。
それに、さっきの体育館の屋根を利用した攻撃にはしてやられたところだ。次はこっちが奴の鼻を明かしてやらなければならないだろう。
俺は十数メートル地下、地面に囲まれたままの状態で次の攻撃の準備を開始した。




