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第74話 意地



「――――――――は?」


 開いた口が塞がらないとは正にこの事だった。




 と言うか何が起こったのか、何が行われたのか全く訳が分からなかった。




 え? なに? 今、あいつ――――麗佳詩羽は何を言った?




 一体何を――――口走った?




 疑問が頭を上滑りして、整理が全く以て追いつかない。




 だが、俺の混乱なんて関係ないとばかりに、周囲からは信じられない事が起こったという声が口々に上がった。




「え、……え!? 今、俺達の詩羽ちゃんはなんて言った!? なんて言ったんだよぉおおおお!!!」「いや、私の耳がおかしくなってないとしたら…………え? え? 今、詩羽ちゃん、あのクソ瓦の事好きって言ったよね?」「嘘だ!! 有り得ない、どんな事が起こったとしてもそんな事が起こる訳がないだろ!!!!」「いやいやいやいや! あんな底辺の! クソ陰キャの! カースト最底辺のゴミクズが学園のアイドル……いや、日本有数の女子高生詩姫から告白されたとかある訳ないだろぉおおおお!!」「これが漫画だったら、俺この時点で読むの止めるわ、有り得ない展開すぎだろ、うわぁああああああ!!!」「やっぱ夢、これは夢よ……。私達の憧れの歌姫があんなゴミを好きになるなんて有り得ない!!」「やっぱこんな映画みたいな光景が眼の前で繰り広げられている時点で全ては幻! 集団催眠の類でしょ、これ!! どっかで幻覚作用のあるガスが漏れ出てるに決まっている!!!!!」「天変地異だ……地球はもう終わるんだ……破滅の時がやって来たんだァァアアアアアアアア!!!!!」




 誰しもが先程の光景を受け入れられないとばかりに叫び声や悲鳴を上げる。




 そんな光景からは今までにない混乱が見て取れた。




 しかし、そんな中であっても、続けざまの麗佳の声は透き通るようにして皆の耳に入っていく。


 


 「好きよ、円城瓦君! 好きなの!!! 円城瓦君、私は……私はずっと過去を引きずっていた! 過去を引きずって、批判を恐れて、他人の目を気にして……結局、『今』を見失っていたの! でも、貴方の姿を見て、貴方のその自分を貫き通す姿勢を見て……ッ!! それに何より……貴方は私を助けてくれた!! 自分を犠牲にしてまで、私に前へと進む力をくれた!! 私は……私は貴方に救われたのよ!! だから好き! 大好きなの、円城瓦君!!!」




 そんな麗佳の声をどうにかかき消さんばかりに悲鳴が上がり続ける。だが、麗佳の言った言葉は、その綺麗な声は皆の脳髄に残ったまま消えない。


誰にも彼女の告白を搔き消す事は出来なかった。




「お、おおおおおおお前!!!?? 一体、どこで何を言っているんだ、お前はぁああああああ!!!」




 ようやく、そんな声が俺の喉から漏れ出た。




 だが、麗佳の言った言葉を受け止めきれた訳じゃない。




 告白なんて生涯でそう多くないであろう経験を、こんな公衆の門前で。しかも、あの超高校級の歌姫である麗佳詩羽から受けている。




 そんな事実を受け止めるには俺のキャパシティを軽くオーバーしていた。せめて時間が欲しい! ゆっくりと受け止め、最低でも三日間は頭の中を整理する時間を貰ってから、きっちりと相手の事を考え、最終的には今後どうするかを含めた返事を返したい。




 しかし、そんな落ち着いた時間を貰える筈がない。




 麗佳は今までにない程、顔を羞恥で真っ赤にしても尚、決して止まらなかった。



「今だからでしょ!! 今だから貴方に告白するの!! 今、私に出来る事はこんな事しかない!! 今、私が貴方に返せる事は、『炎上』だけ!! これで……こんな事で良いなら、私は貴方にあげられる!! 好き、好きよ! 円城瓦君!! だから、勝って!! 私の『好き』を貴方の強さに変えて!!!!」




彼女のそんな告白が周囲の喧騒に溶け込んでいく。


 


 喜び、羞恥、怒り、驚き、恐怖等など…………幾つもの感情が俺へと同時に押し寄せてきている。頭の中が大パニックでどうにかなってしまいそうだった。




 何この羞恥的な青春イベントもどきは!? こんな風に大勢の前で告白される事とか普通ある!? いや、絶対ある訳ない。それも俺みたいな陰キャ中の陰キャがこんな事になるなんて誰に信じられようと言うんだぁああああああ!!!!!?????




 そんな俺の混乱とは他所に、俺の中に大きな力が込み上げていくのを感じる。






 無論――――バトルロイヤルを主催している神様により齎された力。フォロワーによる恩恵が先程よりも更に大きく――――いや、先程とは最早比べ物にならない程、大きく、強く膨れ上がっていく。




 そのフォロワーの強大さの要因は間違いなく――――炎上。




「ふざけんな、クソ瓦!!! 俺達の詩姫を何誑かしてんだぁああああ!!! 死ねぇええええ!!!」「シンプルに死ね、つうか腐れ!」「陰キャの癖に公開告白受けるとか、何勘違いしてるんだ、このクソボケがぁああああ!!!」「羨ましすぎて嫉妬で狂いそう!! マジで一刻も早くあのクソボケを始末したい、したさすぎるぅうううう!!!!」「ああぁああああああ!!!!!! ○✕△くぁwせdrftgyふじこlp;!!!!!!!!!!!」「ぶっ殺してくれ、あのゴミをよぉおおおおお!!!! 会長でも誰でも良い! 神様ぁああああ!!! 今すぐあいつに鉄槌を浴びせてくれぇえええええ!!!!」




 俺への殺意、怒り、怨念、脅迫等など――――――つまるところ嫉妬が大きく向けられていく。 




要するに『麗佳詩羽の公開告白を受けた相手が、よりにもよって学園最底辺の陰キャである円城瓦太一』という万人からの許されざる大きなトピックが、全校生徒の怒りの嫉妬心を呼び覚まし、俺への注目度を大きく爆上げしていた。




 いや、まあ…………気持ちは痛い程、分かる。つうか分かりすぎる。普通に考えて日本でも有数の美少女歌姫が、自分よりも格下も格下に思いを寄せているなんていう事実が、大きな嫉妬心に繋がらない訳がない。




 つうか……もうヤバいもん。俺、このバトルロイヤルが終わったら普通に周囲の奴らに殺されそうだもん……。恐怖しか覚えないもん……ヤバい……ヤバすぎる。




 とは言え、そんな恐怖を覚えている一方で、これを利用しない手はない。




「あら、あらあらあら…………」


 


 俺とは対面のコートにいる女傑、天城麗は柔和な微笑みを浮かべていた。とは言えさすがに少々引き攣った笑みでこそあったが。




「どうやら勝負あったようですねぇ……」




「……その、悪いな、天城。先程までならきっとお前の勝ちだっただろうけれど」




「…………、いえ」


 天城はかぶりを振る。






「この光景は、この注目度は全て貴方が、貴方という存在が招き入れた結果です。私がどれだけ全力を賭して挑もうとも、私ではこれだけのフォロワーを手に入れるのは難しかったでしょう」




「それは……どうだろうな」


 これは……こんな事は狙ってやれた事ではない。勿論、実力である訳がない。




 本当にただの運。たまたま。数百分の一の結果が、ここに収束したに過ぎないのだ。




 それでも、天城は言う。




「いえ、太一さん――――円城瓦太一さん。誇って下さい。貴方の日頃の行いが、ここまでの結果へと結びついたのです。私としては満足です。だって私は私の目指す最良の目的をこれで果たせたのですから」




「それで……降参してくれるか?」


 これ以上、勝敗の決まっているであろう勝負を長引かせる意味はない。その意味での提案を、天城に向かって言う。




 しかし、天城はまたも首を振ってしまう。




「いえ、太一さん。私としては貴方の持てる全力を、私に向かってぶつけて欲しいのです。それこそが望み。これだけの力を引き出す相手となれた事を、私は誇りに思いたいのです。ですから――――お願い致します」




 そう言って天城は先程のようにコートの端に立って助走を開始。勢いを殺さぬまま、持っていたボールを俺の元へと投げる。




「あぁああああああああああああああ!!!!!!!」




 天城の投げる渾身のボール。それは間違いなく彼女の投げる事のできる最大の威力を込めた投球であっただろう。




 しかし、今の俺には天城の投げるボールが有り得ない程ゆっくりに思えてしまった。




 それ程までに今この一時、天城とは注目度フォロワーの差が出来てしまっていた。




 俺は天城の投げる最大威力のボールを簡単にキャッチしてみせると、すぐさま彼女に向かって出来る限りの力を込めてボールを投げ返した。




 きっと俺の投げたボールはこの世のありとあらゆる物質の速度を超えていただろう。




 普通なら間違いなく速度に耐えられずにボールは割れていたに違いない。しかし、それも神様の持つ修復力の結果だろうか。幾多の物理法則すらも無視したボールは割れずに突き進んでいく。




 ボールは恐るべきスピードで天城に向かって翔んでいく。ボールが前に翔ぶと同時に、ボール下の床がバリバリと捲れ上がった。衝撃波により捲れ上がった床と埃は俺の目の前の視界をひた隠しにして、轟音を轟かせながらやがて天城へと到達した――――筈だ。






 そして、埃や破壊痕で覆い隠されていた視界が徐々に開けていく。




 真っ直ぐに伸びたボールの破壊痕の先には、眼を閉じて気絶した天城麗の姿があった。




 彼女の周囲はボールを受け止めた際の衝撃でクレーターが出来ており、ボールの恐るべき破壊力を物語っていた。




 しかし、彼女の身体の中には確かにボールが受け止められていた。




 捕っていたのだ、彼女は。あんな狂気じみた威力のボールを前にしても逃げずに、確かに受け止めていたのだ。




「……さすがは学園カースト最上位の生徒会長。凄い奴だよ、お前は」




 そんな敬意の言葉が自然と口から漏れ出た。間違いなく彼女は俺に勝っていた。




 彼女の唯一の誤算は、彼女と同等のリア充力を持つ女の存在と、その彼女があまりに予想外の行動に出た事だ。




 そして、俺はそんな天城と同等のリア充である彼女――――麗佳詩羽と向かい合う。



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