第73話 叫び
「よう……何と言うか、その……久しぶりだな」
「何が……久しぶりよ。先週も会ったでしょう? それに何よ、そのフリフリのメイド服は……」
「いや、まあこれはだな……」
「分かっているわよ。それが貴方の策なんでしょう、相変わらずね」
「俺はここまでしてようやくお前らと渡り合えるんだよ。悪いか?」
「悪くはないわよ。むしろ、その勇気が凄いというか……ホント、凄いわね、貴方。そこまで自分を犠牲にするって中々出来ないわよ……ホント」
「久しぶりに顔を見せたかと思ったら、凄い勢いでディスって来るな、お前……」
「だから久しぶりって感じでも無いでしょ、まあ分かるけれど」
そう言って麗佳は朗らかに笑う。なんだかこんな会話が懐かしく思えて仕方がなかった。
なんだか色々な事があったから、麗佳とは久しぶりに会った気がしていたが……どうやら勘違いであったらしい。
しかし、こいつとはこの数日間、いやこの半月で実に様々な事があった。
最初はただの敵同士であった事は確かだった。
しかし、『炎上』を武器とする俺にとって平常時での仲間が必要であった事から、こいつと休戦協定を組んで一時の仲間となった。
それから先は本当に色々な事があった。
共通の敵と戦い、作戦を一緒に練り、いつしかこいつの過去を知るようになり、逆に俺の過去をこいつに知られた。結果的に俺は過去を振り切れるようになった事から感謝を覚えるようにすらなった。
かと思えば陰キャらしからぬデートなんて青春じみた行いをこいつと行ったかと思えば『炎上』なんてものに利用され、それを逆に利用し返してやった。
この半月は俺にとってもとても濃く、長く感じられた期間だった。
そして、気付けばこんな所にたどり着いた。俺はともすればこいつのお陰でこの場に立っていられている。と言うより麗佳がいなければ、今頃は舞島辺りに負けていた事は想像に難くない。
こいつとの付き合いはもうバトルロイヤルを共有するだけの仲間というだけではないだろう。
「そう言えば……『炎上』での一件は怒ってないのか? お前の炎上を俺が利用した事は……」
こいつが炎上をした時にはその理不尽さに言いたい事が色々あったような気がするが……、いざ目の前にして出てきた言葉はそんな雑談だった。
いや、まあそれも気になっている事には違いない訳だが……。
「怒っているわよ」
すると、麗佳はそんな風に答える。
「貴方の、その無鉄砲さにはね。ああ、もう! ほんっっっっと、どういう気持ちだったか分かる? 貴方が私の為に炎上した時、私はもうどうして良いか分からなかったんだからね!」
「悪かった。お前の抱えていた理不尽さが許せなかったんだ」
「……ありがとね」
麗佳はぼそりと、しかし俺の目を真っ直ぐと見つめながら、そう言った。
それはあの時――――ラブホテルで見た麗佳とは異なっていた。元々の麗佳の持つ気高さがまた眼に戻ってきたのだと、そう感じた。
「私、貴方の姿を見て、気付いたの。批判なんて関係ない。否定なんて意味がない。他人の蔑みなんてどうでも良いって。ただただ、自分の思いを貫きたい。そうする事が一番格好良いんだって気付いた」
「……そうか」
「だから私、芸能界を――――歌を歌う事を止めないわ。私はこれが、歌う事が好き。だから、貫く。誰に何を思われても関係ない。そう、思ったの」
「そうか」
ほっと胸を撫で下ろしながら、言った。
この一言――――この言葉が俺は聞きたかった。
彼女が理不尽に負けて欲しくない。その一心があったからこそ、俺は炎上したのだから。
「さて――――感動の再会と言った様子ですが……そろそろ、宜しいですか?」
コートの向こう側で俺達の様子を黙って見守っていた天城だったが、ある程度の話が終わった事を感じたのか口を挟んだ。
「悪いな、天城。空気を読んで貰って」
「いえいえ、太一さんの青春を邪魔するのは忍びないですから」
「青春?」
「ええ。……見てれば、分かりますよ」
「……………………?」
俺が怪訝な表情を向けるも、天城は全てを見通しているとでも言いたげな表情を浮かべる。
まあ、それはともかくとしてそろそろ勝負を再開しないと、待っている天城に悪い。そうでなくとも俺が試合を止めていればギャラリーが騒ぎ出す危険性があるし。いや、俺への嫌悪感が上がるのであれば、それでも構わないのだけれど。
「という訳だ。麗佳、悪いが今はコートの外に出ていて貰えるか?」
無論、麗佳も参加者の一人ではあるが、今は天城との勝負の最中。麗佳もそれを察して頷いた。
そして、コートから離れる直前、麗佳は言う。
「円城瓦君、頑張って」
「ああ。……最善は尽くすよ」
天城という化物は先程の俺の渾身のストレートすらも受け止めてみせた。
そして、俺にはもう策はない。最早、丸裸の状態だ。
今出来るのは精々、天城に食いつく事ぐらいだ。
陰キャらしくみっともなくあがいて、あがいて、あがいて――――そんな見苦しい粘りを見せてやろうじゃないか。
そんな事を考えていた俺に対して、
「大丈夫よ、円城瓦君。まだ貴方の『炎上』は終わってないから」
「―――――え?」
「良いから。頑張って!」
そんな事を口にした後、天城はコートから離れる。
先程の言葉は一体どういう事だろうか……。炎上は終わっていない? まあ炎上の余韻で今の俺の注目度があるのは間違いないが……。
そんな事を考えていた直後、勝負は再開する。
「やっぱこれって会長の勝ちよね! どう考えても、あのクソゴミが勝てる訳ないし」「まあ、そうでしょ。あんな曲芸みたいなキャッチング見せつけられちゃ、あの陰キャももう勝負を諦めようって感じだし」「さすがは会長だよなぁ、あんなゴミが足元にも及ばないわ」
そんな野次が外野から聞こえてくる。勝負の趨勢はどうやら外野から見ても明らかだった。
しかもボールは現在、天城が所持している。パンチで押し返すなんて事がそう何度も出来るとは思っていない――――やはり詰み、か。
そう考えていた矢先の事だった。体育館に、大層耳心地の良い声が響き渡った。
声の主を確かめるまでもない。麗佳詩羽が皆に聞こえるように大声を上げていた。
だが、問題なのは――――その内容だった。
「ここに居る学園の皆さん、どうか聞いて下さい!!!!」
麗佳はそれこそ自らの持つ類いまれなる声量を活かし、体育館の端々にまで響き渡るような大声で以てーーーー言う。
「私、麗佳詩羽はここに告白します! 私はあそこで戦っている男子生徒の円城瓦太一に、こ、こここ恋をしています!! だ、大好きなんです! だから円城瓦君、が、ががが頑張って!!! 私の為にも、会長に勝って!!!!!」
世界が停止したかとも思えた暫くの沈黙のおよその数秒後――――体育館は全校生徒の驚愕の声で揺れていた。




