第71話 敗色濃厚
「うぉおおおおおおおおお!!!!!」
俺は気合の雄叫びを上げつつ、天城にフォロワーの恩恵を活かした投球で以て攻める。
尋常ならざる膂力によって放たれたボールは、常識では考えられないスピードで天城へと襲い掛かる。通常の人間ならば受け止めた瞬間に弾け飛ぶかも知れない――――そう思える程の威力。
だが、
「良いですね。それでこそ、太一さんです。私が共感と尊敬を覚え、共に目的を達成し得る存在として相応しいです」
そんな事を口走りつつ、気付けば天城の両手には勢いの殺されたボールが収まっていた。
「……くそッ」
俺は自分のボールが天城を倒しきれなかった事に悔しさを覚えつつも、まだ余裕を残していた。
正直言って今の俺のフォロワ―は自分でも信じられないレベルに達している。そんな力で本気を出しては天城にどんな恐怖を与えてしまうか知れたものではない。
だが、これでようやく分かった。手加減は要らない。
きっと、それは天城も同じ事だろう。
気付けば俺は笑っていた。陰キャであるにも関わらず、青春の表舞台に立っている事に気分が高揚しているのかも知れない。
一方、そんな俺達の異次元のやり取りを遠巻きに眺めていた生徒達だったが、この場から逃げる者は居なかった。
無論、天城の対策により混乱が抑えられていることも要因の一つだったのは否めないが、それよりも多分、皆この尋常ならざる光景を前にして、どうして良いか分からないのだ。
だから動けない。誰かが一人でも逃げれば、それに皆が続くのだろうが、その一端が開かれない。だから、皆が皆、俺達に注目する。その結果、俺達の両方共フォロワーが更に上がり、その恩恵によって能力がブーストされる。
そんな青春パワーの循環が為されていく――――
そこからはひたすらお互いにキャノン砲のようなボールを投げあっていった。
片方のコートからボールが放たれ、片方がボールをキャッチする。そのやり取りが一度行われる毎に体育館の床が捲れ上がり、ガラスが割れ、体育館が軋む。しかし、その瞬間に神様による修復が行われ、またコートが元の通りに整う。
破壊と再生を繰り返す球技大会会場は地獄のようにも思えたが、同時に最終決戦と呼ぶ場に相応しいスペクタルが展開されていた。
そんな光景を止めようとする者はいない。この高校に在籍しているほぼ全員が、その光景を固唾を飲んで見守っていた。
フォロワーの上昇がその何よりの証拠だ。上限に近づいている中でも、まだ上昇の幅がある――――驚異的にも思えた。
だが、それでも――――会長を、天城麗を倒すには至らない。
ボールに乗せられる力は全て込めているつもりだ。変化球なども幾つも試した。神様の力を使えば直角に曲がるボールを投げる事すらも可能だった。
しかし、その全てに天城は対応してきた。俺の全能力を使ったボールの投擲を軽々と超えてくる。かと思えば、彼女の投げるボールは以外にも直球以外にはない。
しかし、そのスピードが段々と上がってきている――――そんな気がした。
そして、その感覚が決して気のせいではないと思い知らされる。
「では、もうそろそろもう一段階、ギアを上げるとしましょうか」
「……何だって?」
既に肩で息をしている俺は彼女の言葉が信じられなかった。天城はまだ余裕そうな表情を浮かべている。どう考えても、俺が一方的に追い詰められている。
そんな奴が、まだ本気を出そうとしている――――?
「さぁ、太一さん。私にもっと力を見せて下さい」
「――――――――ッ!?」
天城はコートから出てしまうギリギリの所に立ち、助走の出来る態勢で構えた。そして、奔る。
助走はほんの刹那で終わる。電光石火の勢いで助走を終えた後、その勢いのままに天城はボールを放った。
稲妻のような勢いで放たれたボールは思考をも赦さず俺の元へと到達する――――受け止める、これを――――?
駄目だ。こんな――――こんな勢いのモノを受け止め、無事で居られる筈がない。
俺は紙一重で天城の投げたボールから身体を反らす。天城の投げたボールは勢い殺さぬままレーザーのように体育館の壁を突き抜け、発生する衝撃波が壁をまるで紙でも引き裂くかのように破壊した。
瞬間、体育館が半壊し、天井が落ちてくる。
あちこちから悲鳴が上がった。あまりにも瞬間的な事で誰もが死を予感しただろう。
しかし――――天井の落下は途中でふわりとナニカに止められる。そして、巻き戻しの映像でも見ているかのように、壊れた箇所が元の場所へと収まっていく。
「は――――すげぇえええええ!!!」「なんだこれ、映画より映画じゃん!」「やばっ! 怪獣映画でもこんな光景見た事ないわ!」「CGなんか目じゃねぇわ! すご過ぎでしょ!」
そんな呑気な光景が上がる中、俺からは冷や汗が吹き出していた。
……いやいや、こんなの受け止められる筈がないじゃん。
天城の投げたボールは今までの破壊力の比じゃなかった。あんなの受け止めていたら、俺の上半身はどうなっていたか分からない。
俺は天城へと視線を送る。しかし、天城は初めて、少しだけガッカリした様子を見せていた。
小さな、小さな溜息が漏れ出るのを、俺の耳は見逃さなかった。
その瞬間、俺の脳裏に敗北の二文字が浮かんだ。
あんなに――――あんなに嫌われて、底辺で有り続け、自らを犠牲にして炎上して尚――――尚、俺は届かないのだろうか。
結局、陰キャという存在は、どんなに頑張ったところでリア充には届かないのだろうか。
リア充は最強で、陰キャは最弱――――この青春カーストでは絶対の法則を打ち破る事は出来ないのだろうか。
「――――円城瓦さん」
そんな中、近くで声を掛けられた。
気付けば、俺の目の前には実葉が立っていた。
どうやら今ので失われてしまった換えのボールを俺に手渡しに来てくれたらしい。




