第70話 奮起
高校生活での学校行事とは青春を手助けしてくれる思い出作りの場だ。渦中にいる者達は気付かないが、後々になってみれば「あの時、何だかんだで面白かったよな」なんて振り返る事は多いのだと思う。
無論、それが校内球技大会とて同じ事だ。青春の一ページとして刻まれるに相応しい行事で、これを機にクラスメイトと打ち解けたり、意中の娘とのコミュニケーションを目論もうとする者も多い。
つまり球技大会でのドッジボール。お互いに交わし合うボールはともすれば青春という鳥を射抜かんとする弾丸とも言い換えられようか。
そんな青春の弾丸は――――今正に俺をぶっ倒そうと迫ってきていた。
「ぐぅううううう!!!」
学園の頂点に君臨し、誰からも崇められる存在である生徒会長こと天城麗の投げた音速を越えようかというボールをギリッギリでキャッチしてみせる。
人気者である天城の持つフォロワーは尋常ではない。その恩恵による身体能力の増強はさながら神の如きと表現しても遜色はない。そんな彼女の投げるボールは少しでも取り違えれば、俺を上半身ごとえぐり取ってもおかしくはない。
だが、俺とて現状では度重なる『炎上』のお陰で尋常ならざるフォロワーを持っている。人気者の天城と超底辺である俺。両極端にいる俺達であったが、今この時の注目度に関して言えば互角であるらしい。
そうでなければ、俺が天城の投げたボールをキャッチ出来る訳がない。と言うか目で捉える事すら不可能であった筈だ。
それが見えているという事は、俺もまた最強の存在である証なのだ。
超リア充VS青春アンチ――――そんな神々の闘争を俺達が繰り広げる中、球技大会の会場は騒然としていた。
「ちょっと!? 会長の投げたボール、気付いたら消えてたんだけど!?」「いや、それよりもボール投げただけでモノすっごい強い風がこっちまで来てんだけど!? これ何、大丈夫なの!?」「いや、ゆ、ゆゆゆ夢でしょぉ!? こんな事が現実にある筈ないものぉ!」「つうか会長はともかくとして、何で円城瓦みたいなゴミがあんなアベ○ジャーズみたいな力発揮出来てんの!? キモすぎるんだけど!?」「いや、って言うかもうこの場から逃げた方が良いんじゃないの!? あんなボール当たったら絶対死ぬでしょ、これ!?」「いやいや、こんな光景滅多に見れないでしょ!? これインスタにでも上げたらくっそバズるんじゃないの!?」「そんな事言っている場合!?」
「おい、天城。良いのか? 皆が混乱を起こしているんだが……」
俺はボールをキャッチして赤くなった腕を擦りながら、周囲を見渡す。
こんな混乱の中、こいつが何の対策も打たないのだろうか。ともすればこれでこいつの集中力を削ぐ事が出来るやも知れない。
しかし、天城はかぶりを振る。
「構いません。続けましょう」
「……生徒会長がそれで良いのか?」
生徒達の混乱を見逃すような生徒会長であるならば、もしかしたらとも考えたが――――
「ええ。手は打っていますから」
「手を打っている?」
――――そこは天城麗。さすがに一筋縄ではいかないようだ。
一体何を……と思った矢先、俺は周囲の者達が口にしている話をフォロワーの恩恵を受けたその聴力により聞き取った。
「これってもしかして……」「ああ、例の噂話が本当だったって事でしょ?」「え? あの神様のバトルロイヤルって奴? まさかでしょ?」「でも……会長とあのクソ瓦見てたらそうとしか言えないでしょ……」「だったら……そこまで危険は無いって事?」
そんな事を口々と言い合っている。その中で共通しているのは多くの者が『バトルロイヤル』を『認識』している事だった。
そう言えば以前、乃雪が言っていた。『バトルロイヤルの話題が参加者以外にも噂として広がり始めている』――――と。
俺は元々『グループ』の連中、特に所属メンバーであった炎動光輝辺りが後輩の連中などを駒として使っている内に件の件が噂として広がったのだと、そう思っていた。
しかし、それが俺の勘違いだったとしたら? 誰かが先の状況を見越して、敢えてバトルロイヤルの噂を故意に流していたのだとすれば?
「私達の戦いを事実として飲み込む事が出来るかどうかはともかくとして……、これで少しは混乱も押さえられましょう」
「まさか……、バトルロイヤルの噂を一般生徒にまで広めていたのはお前だったのか、天城?」
「無論、噂の広め方や拡散範囲、拡散に掛かる時間については細心の注意を払ったつもりですよ」
そう言いつつ、柔和な笑みを見せる天城。
俺がこの噂を認識したのは一体いつだったか? 確か乃雪がネットでの動きを見張っていた最中に発覚した事実だから……実葉と戦うよりも前の話じゃなかったか? つまりその時、俺は天城麗が参加者であった事すら知らない筈だ。
そんな内からバトルロイヤルを公の戦いとした際の対策まで練っていた、つまりはそういう事なのか?
こういう事が訪れると予期していなければ、バトルロイヤルの噂を予め流しておいて混乱を抑える一助としようなんて思いつかないだろう。
――――有り得ない。一体どこまで読みを進めていたら、そんな事まで先んじて対策していられるのか。混乱を抑える為の対策を、どうしてこんなに先んじてやる事が出来るんだ?
背中にゾクリとした悪寒が走る。天城の対策は自分が勝つ為のモノではない。それどころかバトルロイヤルを公のモノとしたのも神様や俺の救済の為だし、それによるリスク管理も行っている。
改めて化物を前にしている事に恐怖を感じた。
「だが――――――」
だが。
そんな化物を前に立っていられる。それだけの準備をしてきた。
炎上という武器を手にした最強の青春アンチ。それが俺だ。
このチャンスを、最強格とも言えるリア充をこんな陰キャである俺が見返す事の出来るチャンスなんて、もう一生訪れる事はないだろう。
「だったら――――やるしかないだろ、今!」
俺はそう口にする事で自分を再度奮い立たせる。
この場に立っていられる事。それが特別なのだから――――




