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第6話 作戦会議Ⅰ

「――――え、それじゃあ自分の悪口を流す事によって、一時的にフォロワーを集めてたの?」

 学校をあとにしながらの帰り道で俺は麗佳うららかに戦闘時の仕掛けを説明していた。



 だが経緯を一通り説明した途端、麗佳は化物でも見るかのような目で俺を見てくる。


「正気の沙汰じゃなくない、それ?」

 まさか正気を疑われるとは思わなかった。俺のできる作戦としては上等な部類だと思うが。



「だって私達ってまだ高校二年生なんだよ? え、だってその飲酒の画像がデタラメだったとしても……、そういう噂のあった人間ってだけできっと色々言われると思うし……、そのグループラインとかで色々言われてるんじゃないの?」


「当たり前だろ」


 人間、これだけ非難が広がれば、例えウソだったとしてもその悪評は空気として蔓延する。


 むしろこれだけ騒がれたのだから、ウソだったという徒労感はさらなる反感を呼ぶ。



 何故なら騒ぎに対して、誰かが責任を取らなくてはいけないからだ。


 ただし、誰も悪役にはなりたくない。ウソを積極的に広めてしまった当人であればある程、自分に非難が集中しないよう誰かをスケープゴートにしたがるだろう。



 そこで出るのがこういうコメントだ。


『は? 例えウソだったとしても、こんな事言われる奴の普段の行いが悪いんじゃない? やっぱ円城瓦ってくそだわ』

 俺が色々な行いの積み重ねにより嫌われているのは事実だ。こういうコメントが出れば「だよねー」みたいな返信コメントが打たれるのは当然である。そして、その流れが例え冷静に考えれば正しくなかったとしても、正当化されてしまう。



 そして、結果的にウソでもなんでも俺の悪評は広がり続ける。


 それを止める術はあるにはあるが、面倒な話題の誘導などが必要になる。そんな事をする必要性はないだろう。


 ただ、麗佳はどうやらそう思わないらしい。



「え、えー……、だって高校生活ってそんな悪評広まり続けてたら、ちょっとさー、その、厳しいでしょ。普段の学校生活もそうだけど、これからのイベントがめっちゃきつくない? 体育祭とか文化祭とか修学旅行とか、近いので言えばそろそろ球技大会があると思うんだけど。それ、どうすんの?」

「勿論、ぼっちで乗り切る」

 嫌われ者にとって厳しいのは集団行動だ。



 高校生と言う生き物は嫌いな奴と行動する事には耐えられない。あの手この手を使って、嫌われ者を排斥しようとするはずだ。


 例えばクラスTシャツを作るとすれば、「忘れていた」という体で連絡を敢えてしなかったり、グループ行動をする際にはトイレに行っている間に「気づけばあいつ迷子になってたんだよねー(笑)」という体で置き去りにされたりなどが挙げられる。嫌われ者にとっては日常茶飯事だ。



 とは言え、

「そうなると分かっていれば排斥されるなんてのはどうって事ないんだよ。頭の中でテロリストにクラスが襲われた時の対策でも妄想しながら時が過ぎるのを待つのさ」


「そんなよく分からない方法で暇つぶししなくても……あっ、そうそうスマホとか弄ってれば良いんじゃない? 今ならアプリゲームとか暇つぶしの方法幾らでもあるんでしょ?」


「ばっかお前素人かよ、嫌われ者になった時の事を何にも分かってないな」


「こんな事で玄人にはなりたくないんだけど……」


「学校は原則、スマホ禁止だろうが。ぼっちの時にスマホなんて弄ってみろ。速攻で証拠写真とか取られて教師に密告されるだろ!」


「え、皆いっつも普通に弄ってんじゃん。そんな事されんの!?」


「勿論だ」

 嫌われ者は常に攻撃される機会を伺われている。



 そんな隙を見せたら、最早殺してくれてって言ってるようなものである。



「……なんか大変だね、ホント。頑張ってね」

 麗佳に憐れまれてしまう俺。一般的な感覚ではやっぱ俺って憐れまれる対象なんだ、そうなんだ。特性『憐み』ってところか。こういう自分だけの特性を活かしてベンチャービジネスで成功したい。無理ですよね、分かってます。



 それはそれとして麗佳は炎上の件はおろか、俺の悪評のほとんどを知らなかった。


 俺の今回の炎上は学園の生徒であれば、そのほとんどが知っているだろう。でなければ、あんなフォロワーには至らない。



 えっと、つまり、麗佳って……。いや、勘違いかも知れないし。



「ん? ちょっと待って。貴方……えっと、円城瓦君って、普段から一人ぼっちって事だよね?」


「勿論だ。去年なんてクラスメイトと三ヶ月近く事務事項ですら言葉を交わさなかったって記録作れたぞ」


「そんな悲しい記録ある? ……じゃなくて。つまり普段はそこまで注目される事って無い?」


「そりゃ何の理由もないのに嫌われ者の事が話題に上がる訳ないし」


「……じゃあ普段のフォロワーって」


「無論、さっきに比べたらカスだな(笑)」


 既にフォロワーは下がりつつあった。炎上は既に沈静化しつつある。



 話題が尽きたらそれまで。嫌われ者は周囲にとって基本的にはゴミと同等に興味のない存在だ。


いや、むしろゴミは掃除される際には注目される。そういう意味ではゴミ以下の存在が俺だ。これからはゴミ様と敬称をつけないといけない。どういう縦構造社会形成されてんだよ、それ。



「……仲間にする相手、失敗したかも」


「解消するか?」

 俺は麗佳に尋ねる。そういう事ならフォロワーアップの為に、また新たな炎上の火種を見つけないといけない。


 だが、麗佳はかぶりを振る。



「んー、やめとくよ。一応、恩義もあるし」


「恩義?」


「さっき負けてたのは事実だしね。私には叶えたい願いがあるの。だから、あれで終わらないで本当に良かった。それに免じて最後までは付き合うよ」


「それを聞いて安心したよ」

 麗佳はどうやら律儀な奴らしい。こちらとしてはありがたい話だ。



「って事は作戦練らないといけないよね。相方が普段は頼りにできないと知っちゃったし」


「辛辣な物言いだが、事実だ。頼んだぞ」


「少しは否定するかと思ったけど……一切否定しないところに大物感を感じる」


「だろ?」


「嫌な意味で」


「肯定しなければよかった」

 麗佳はそこで面白そうに笑った。顔が良い所為でくっそ可愛く見える。マジ美少女って男から見れば惚れポイントのバーゲンセールだわ。数秒後に告白して振られる未来を幻視した。妄想ですら告白成功しないんですね、俺。



「じゃあその辺のファミレスとかに入って作戦会議しようか。駅前まで行けば入れる場所いっぱいあるし」

 そんな風に当然かのような提案を見せる麗佳。



 やっぱりどうも俺という生き物が一緒にいる者に対してどういう影響を与えるか分かっていないらしい。



「一緒にファミレス行くとか、お前自殺行為だぞ。死ぬ気か?」


「ごめんなさいなんだけど、私ファミレス行こうって提案したのを自殺行為だと受け取られたの生まれて初めてなんだけど。頭混乱するんだけど」


「はぁ……」


「多分だけど絶対そんな溜息つかれる程、私悪くないと思う」

 そんな風に認識の甘い麗佳に俺は説明する。



「今回のバトルロイヤルは注目度――お前にとっては人気がそれに直結する」


「ん? それは分かってるけれど、だからと言って何でファミレス行くのが自殺行為なの?」


「いや、想像してみろよ。俺とお前が一緒に仲良く飯食ってる姿を、んでそれを学校の誰かに目撃されてみろ」


「んー、うん? ただただ、学校の友達とちょっとご飯食べに行ったくらいに思われるんじゃない?」


「違うそうじゃない。きっと周囲はこう思うはずだ。『うっわ、麗佳さんってばあんな糞キモ男と一緒にいる……そういう人だったんだ。マジ萎えるわ―』って」


「いや、そんな人いる!?」


「いるに決まってんだろ、そんなの。人ってのは付き合っている人間によって格が決められるものなんだよ。俺と喋っている時点でお前、最底辺の人間と格付けされる可能性あるぞ、ホント」


 本来ならこうして一緒に下校しているのも避けた方が良いはずだ。


 帰宅時間を考えれば学園の人間に見られる確率は低いし、この辺は人気が少ない。それに日が完全に落ちてるから、顔が確認されづらい。それに仲間としてある程度の事情説明は早急に必要だったから、こうして帰り際に一緒にいる。


 だが、仮に俺といる事を誰かに見られた場合、麗佳の『格』が下がってフォロワーの低下に繋がる恐れは十二分に考えられる。


 まあこいつクラスなら『えー、麗佳さん、あんなキモ男底辺ゴミ屑野郎とも一緒に居られるなんて……聖人クラスに良い人なのね。本当尊敬するわー』という感じで好評価に繋がる可能性もあるにはあるが……、まあリスクの割にリターンが少ないし、フォロワーの低下に繋がる確率は少しでも避けたい。



「そんな事ないと思うけどね」


「想像してみろ。例えるならアイドルがう〇こ棒で突っついているところを目撃されるのと同じ感覚だ」


「いや、自分を卑下し過ぎでしょ!」


 そんな事はない。これでも軽く考えている方だ。

 俺の周囲から受ける嫌悪度を考えれば、だが――――


「それじゃあ、どうするの? 今日は止めとく?」


「あー……それはそうと、麗佳は時間、大丈夫なのか? もう結構夜も遅いんだが……」


「うん。私は大丈夫。レコーディングで深夜になる事も多いから、こういう時間に帰るの珍しくないんだ」


 そういやこいつがガチの芸能活動してる奴ってのを忘れてた。だからと言って俺のような奴といるのを親が許すとは到底思えないが……、まあなんとでも誤魔化せるのか。




「なら――――そうだな。今から俺の家に来るってのはどうだ?」



 円城瓦太一。高校二年生にして初めて女の子―――-それもガチの美少女を我が家に誘った瞬間だった。


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