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第65話 勝利への布石


 球技大会は高等部の一年から三年まで合同で執り行われる事となっており、最初は予選から始まって最終的にトーナメント形式。一試合に掛かる時間はそれ程ではないが、一位を決するまでにかなりの時間を要する。だから本日は授業はなく、一日ずっと球技大会が行われる。




 出席も球技大会の会場となる体育館で行われる。だから教室に行く必要は無いのだが……、なんとなく気になった事があって俺は教室へと向かった。






 ――――まあ、そうだよなぁ……。




 教室の俺の席の上には花瓶が置かれ、机には罵倒の嵐が連なる落書き、さらには黒板には『円城瓦、○ね』とデカデカと書かれていた。虐めの証拠スリーコンボですねぇ、これは……。




 いや、まあ俺がどれだけ学園の連中から嫌われているか、それを確かめたくて俺はわざわざ教室へと足を運んだ訳だ。




 今日は誰も教室に来ない。だからこそ誰かに行為を目撃されないと踏んだ輩による堂々とした嫌がらせが展開される事だろうと俺は踏んでいた。




 勿論証拠が残る訳だから相当嫌われなければここまでの事はされない。虐められる環境が公認されていなければ、ここまで露骨な嫌がらせがされる訳ないのだ。


 つまり、それ程までに俺は周囲から嫌われてしまったという訳だ。言ってしまえば来るところまで来てしまったという感じである。



 ……まあ嫌がらせをされたとしても精々落書きやら花瓶やら精々どれか一つだと思っていたのに、まさかの三つ。想像以上の成果を前にして思わず武者震いしちまうぜ……。


 いや、間違いなく恐怖から来る震えだわ、これ。やっべぇ、注目度ガン浴びで死にたくなってきたぜ。ひゃっほう。




 ひとまずスマホで写真を撮って嫌がらせを証拠として残しつつ、後片付けを行っていく。


 そんな中、




「え、円城瓦さん!」




 そんな声が教室内に響き渡る。声の主は実葉だった。




「実葉、何でここに? 今日は球技大会だから出欠は体育館で取るらしいぞ」




「それは知っていますが……そ、それよりも昨日あんな事をしたのに普通に学校に来るとは思いませんでした……」


 驚愕の表情をこちらに向ける実葉。最早、珍獣でも見つけたかのようである。




 そして、実葉は俺の虐めの証拠を確認しつつ、溜息を吐く。




「……予想はしていましたが、やっぱりですか」




「もしかして……お前、これを片付ける為にわざわざここに来てくれたのか?」

 俺が落書きで汚れた机を指差しながら言うと、実葉はこくりと頷いた。




「……私は昨日の円城瓦さんのやった事のその意図は分かっているつもりです。ですから……少しでも貴方の力になれたらと」




「実葉……」


 俺は実葉の心意気に感動すら覚える。




 つまり実葉は俺にこの虐めの光景を見せたくなくて、わざわざ片付けに来てくれていたのだ。




「見つかっては仕方ありませんが……、私も片付けを手伝っても宜しいでしょうか?」




「悪いな」




「いえ、これくらいの事、貴方のやった事に比べれば些細な事です」


 それだけ言葉を交わしつつ、俺と実葉は嫌がらせの片付けを行っていく。




 その最中、手を動かしながら実葉は口を開く。




「……私はきっと円城瓦さんは何かをすると分かっていました。まさか……ここまで派手な事をするとは思っていませんでしたが」




「俺を軽蔑しないのか? ぶっちゃけ俺のやり方はスマートじゃない。もっと良いやり方があったのかも知れない。にも関わらず、わざわざあんな騒ぎ立てるような事をしたんだ。どう思われても仕方ないと思っているんだが……」




 そんな俺の問いかけに実葉はブンブンと強く首を振った。




「誰かの為に身体を張れる。そんな人を軽蔑する人がどこにいましょうか?」




「……まあ、実際に軽蔑されている訳だが」




「それは貴方の行った事の本当の意味に気づかれていないだけです。それを知れば……きっと」




 実葉は舌唇を噛み、歯がゆそうな様子を見せる。




「実葉、ありがとう。けれど、お前がそんな表情をしなくても良いんだ」




「けれど……」




「良いんだよ。お前には俺が何をするか、直接には話していなかった。……にも関わらず、意図に気づいてくれた。こんなに嬉しいことはないよ」




 実葉は本当に優しい奴だ。でなければ、ここまでの事を察する事の出来る訳がない。




「私はかつて貴方に救われました。だから、出来る限り貴方の力になってあげたい。そう思っただけです」




「……ありがとう、実葉」


 俺は礼を言いつつ、当初からする筈だった『頼み』を口にする。




 甘えている――――と思う。彼女の恋心に漬け込んでいるのではないか、ともすればそう思われても仕方ない。卑怯だと罵られてもしょうがないと思う。




 しかし、実葉は俺のお願いに少しですら嫌な顔をせず、快く承諾してくれた。




「そ、それは構いませんが……、でも、まだそんな事をするんですか? もう、貴方の『炎上』はきっと天城さんにも勝てるのでは……?」




 あまつさえ俺の心配をしてくれる実葉。実際、ありがたい話だ。




 だが、念には念を――――だ。




 俺はもう絶対負けられない。だからこそ、出来る手は全て打つ。




 それが俺のやり方だからだ。後悔はしたくないから。






「分かりました……。それでは、一度家に帰らないといけませんが、すぐに戻るので」


 そう言い残し、実葉は俺の『頼み』を聞くために自宅へと戻った。




 俺は一緒に片付けを手伝ってくれただけでなく、あまつさえ頼みまで聞いてくれる実葉の背中が見えなくなるまで頭を下げ続けていた。





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