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第62話 俺の《炎上》



「いやー、そんな怒るなよ養分。だって配信者って儲かるらしいじゃん(笑) 月一千万とか稼げんだろ? 有名配信の動画とか見たけど、あんなの誰でも出来るだろ。だったら俺もやって、金稼いだろかなって」




 そんな人生舐めきった糞ガキ的な物言いに更なる批判コメントが相次ぐ。




 前提としての立ち位置はこれで築けただろう。炎上の土台は間違いなく整った。




 そこまでやって俺はようやく本題へと入る。






「いや、実はさ、いっつも思ってたんだけど、高校って行く意味なくね? 高校で学んだ知識とか人生で何の役にも立たねーじゃん。それより配信者になって人生楽して行きたいなとか思ってさ。んで、良いネタないかなーって探してたら――――実は俺、あの有名な麗佳詩羽と同級生だったんよ。これ、利用しない手は無いなって思ってさ」




 ケラケラと軽薄そうに笑いながら、チラリと視聴者数に視線を伸ばす。視聴者数はどんどんと伸びていっており、既に数万規模の人間がこの放送を見ていた。




 それを確認した俺は、さらなる『炎上』を続ける。




「んで、思ったんよ。最初の動画で『有名女子高生歌姫とラブホ行ってみた』とかってタイトルだったら、視聴者数爆上がりするんじゃね? ってさ。んで麗佳詩羽に直接お願いして協力してもらったって訳」




『は? 何言ってんだ、このゴミ』『いや、お願いって絶対ろくでもない事言って脅迫してるだろ、個人情報バラすとか言ったりして』『……いや、まってヤバすぎじゃない』『普通に逮捕だろ、マジで』『いやいや、こんな嘘信じんじゃねぇよ、炎上目的のデタラメだろ』『ん? こいつってもしかしてずっと前に炎上してた奴と同一人物じゃね?』




 などと批判コメントが相次ぐ。無論、この批判は正論だ。




 だが、まだ足りない……。もっと注目度を、『炎上』を俺へと向けないと――――




「そんで動画の準備の為にラブホ街行ったら、それどっかの雑誌記者だか何だかに目撃されてたみたいで、ネタ横取りされたんだよね。マジクソだわー、だからせめてこれネタバラシして、スパチャで稼いだろかなって思って」




 そんな俺の人とも思えない物言いに批判コメントが次々と書き込まれる。最早コメントの流れは殆ど追えない。視聴者数も十万を超えた。






 この配信の目的は麗佳詩羽という女子高生を被害者としつつ、俺を最低最悪な陰キャ男子高校生として非難先をズラしながら炎上させること。




 あくまで麗佳詩羽は被害者で、決して雑誌やネットで騒がれているような人間ではない。全員にそれを印象づけなければならない。




 だから俺は自ら架空の目的と立ち位置を作った。




 目的とは動画投稿者として金を稼ぎたがっているという事。


 立ち位置とは楽して金を稼ぎたがっているクソ生意気な陰キャであるという事。




 目的と立ち位置があれば『話』が見えてくる。話の辻褄が一見して有っているように思えれば、話を信じてしまう人がいる。




 そして、信じ込んでしまう人が過半数を超えれば、真偽はともかく、『流れ』は間違いなく傾く。それがネットという箱庭だ。






 さらに視聴者を信じ込ませる為の『証拠』として先程のサムネイル写真を用意しておいた。こういった一見して物的証拠っぽいものがあれば、嘘を信じ込ませやすくなる。






 被害者を助けるには、本来であれば誤解である事を訴える事が正道だろう。そんな事、無知な俺でもさすがに分かる。




 だが、誤解を解くのは簡単ではない。普通に麗佳詩羽の噂が真実でないと訴えても、それを素直に信じるものは少ない。それならいっそ新たな悪人を出してしまえば、少なくとも麗佳への非難は分散する。




 これにより麗佳詩羽の理不尽をぶち壊す――――それが『炎上』を武器にする俺のやり方だ。




 麗佳。あんな陳腐な炎上で俺を超えられたと思うなよ。




 この俺の見事な燃え具合を、見ておけよ!!




 この作戦により非難の目を俺に向け、麗佳を被害者にする流れを作る。




「は? 結局、『麗佳詩羽とはヤッたんだろ?』だって? 馬鹿かお前、ヤる訳ないじゃん。いや、『嘘付け。女とラブホ行ってヤらない訳ないじゃん』? 分かってないな―、ネタにする為だけに行ったんだし、そもそもそこまでヤったら犯罪じゃん。ネタに出来る部分と、シャレで済まない部分は分ける。それがエンターテイナーってもんだろうが。そこまで危険犯せないだろうが、普通」




 などと適当にコメントへの返信をしながら、さらに炎上の流れをコントロールしていく。




『いや、ヤんなくても十分犯罪だろ、馬鹿か』『楽しみだな―、こいつの人生終わるとこ』『いや、普通に嘘でしょ、こんなん』『いや、こんな馬鹿な嘘吐く奴いないだろ、本当だろこれ』『金稼ぎが目的なんだから嘘でもなんでも吐くでしょ』『え、マジどうなん? こいつの言っている事本当なの? だとしたらヤバくない、マジで』




 コメント欄が話の信憑性を疑うコメントが流れ始めた。これをただのゴシップではなく、正当な事実として炎上させるのか否か――――こいつらはそれを今、見極めようとしているのだ。




 ――――怖くないの、にぃ。




 そんな言葉が脳裏を過る。これは先程、乃雪が言っていた言葉だ。




 その言葉と共に、先程乃雪に協力を仰いだ時の出来事を思い出す。




「にぃは……にぃは怖くないの?」




「乃雪。心配せずともお前に迷惑は掛けないさ。この『炎上』が成功すれば俺はバトルロイヤルに勝利できるだろう。そうすればお前の救済を神様に願う。お前を救うという願いであれば、きっと神様がお前を守ってくれる。だから――――」




「そうじゃなくて!!」


 乃雪は俺の言葉を掻き消すように声を荒げた。




「ノノは……ノノは良いの。にぃが居てくれさえいればそれで。けれど……けれど! ノノは――――私は! お兄ちゃんが心配なの!」




「乃雪……」




「お兄ちゃんは怖くないの? 昔、炎上してあんなに非難されて、今も皆から嫌われてる。それでこんな事をしたら……お兄ちゃんはもっと、もっと怖い思いをすると思う。違う?」




 今回の炎上は前回とは多少趣が異なる。




 以前は記者による俺への恨みや憎しみが炎上の大きな糧となった。




 しかし、今回は少なからず俺の悪意が混入する。しかもハイリスクな方法で、わざと炎上するのだ。




 となれば、俺が受ける憎しみや非難の量は想像を超えるやも知れない。






「私は、お兄ちゃんを失うのが……怖い」




「…………そうか」


 そう言って肩を震わせる乃雪の頭をそっと撫で、俺は言った。




「俺はあの時、あの炎上で、はっきり言って理不尽だとそう思っていた。俺は悪くないとそう叫びたかった。けれど、理不尽を受け入れるしか方法がなかった。だから……結局、自分を否定して、自分に泥を塗り込んだ」




 それが切っ掛けで自らの自己肯定感がぐっちゃぐちゃになった結果、乃雪にも迷惑を掛けたのだから……救えない。




 けれど、だから……俺はそう思う。




「俺はあの時の事があったから尚更……理不尽が許せないんだと思う。そして、それを何より麗佳には味わって欲しくないんだよ」




 だから――――だから俺はもう一度大炎上する。




 仕方なく――――ではない。俺の意思で理不尽をぶち壊す為に炎上する。




 それで俺が理不尽な泥をかぶるかも知れない。けれど、それがどうした?




 俺は理不尽を正したい。その為なら、再び理不尽を被る事のリスクくらい、犯そうじゃないか。






「…………ノノは、反対だから」




 乃雪はそう言って不貞腐れてしまったが、結局俺にこうして協力してくれている。




 だから――――この炎上は絶対に成功させなければならない。絶対に!






 だから仕上げを打つとしよう――――ふと我に返った俺は、生放送でのたくさんの非難コメントを前にしつつ、右の頬を指で引っ掻いた。




 この合図により、乃雪が最後の仕上げをコメントの流れに反映させる。






『いや、こいつ昔、記者殺しかけたとかで大炎上した奴だろ。円城瓦太一って検索してみ? こいつの事であってるし、昔からこういう奴なんだからこれマジ話っぽいぜ』などと「円城瓦太一」のかつてのパーソナリティが露見したかのようなコメントの流れを乃雪は作り出す。






 何を言っているかが重要ではない、誰がそれを話しているのかが重要――――そんな言葉がある。




 同じ話も誰が何を言っているかでその信憑性は変わってくる。例えば普段素行の悪い奴が、ある日突然聖人じみた言葉を言ってもそれが本心からの言葉であると信用する者は少ないだろう。むしろ何か嘘や裏があるのだと邪推する者の方が多い。その逆も然りで、言葉の説得力はそいつの人間性に関連している。




 だから屑な発言の説得力を強化したいのであれば、そいつが屑である事を思い知らせてやれば良い。




 僥倖とでも言うべきか、俺が屑だと皆に認識させるのは容易い。何故なら俺は過去、屑な人間として炎上した事がある。人は簡単にはその人物の評価を覆さない。過去が屑であれば、現在も屑なのだと信じ込む。だから、過去の事実を露見させれば、俺が屑だと再認識させる流れを作るのはそう難しくない。




 しかも元々、俺の過去に気づいていた奴もいて、先程からコメントにはそんな発言が散見していた。三年前の炎上なのに覚えている奴がいるかは賭けだったが、意外とそういう奴は多かったらしい。お陰で流れも作りやすかった。




 そんな俺の作戦は成功して、俺の先程の発言はかなりの信憑性を持ったようだった。






『うわー、こいつならさっき言ってた屑発言マジだろ』『まるで成長していない……』『うわー、こんな屑本当にいるんだ』『じゃあ、詩羽ちゃんってただの被害者ってだけ?』『麗佳詩羽かわいそすぎだろ』『詩羽ちゃんを返せ、この屑!』




 生放送のコメントには俺を糾弾する声と共に麗佳詩羽への同情が次々と寄せられる。




 これで流れは出来た――――もう『炎上』は俺のものだ。






 その後、俺のヒールとしての立ち位置と麗佳詩羽の被害者としての立ち位置をより強化していく内にやがて生放送は運営によって差し止められる事となり、俺のアカウントも強制退会となった。投げ銭機能によって面白半分に集まったお金もそれぞれの持ち主の元へと返還される事となった。






 だが、投げ銭なんてそんなものには興味がない。もう目的は達したのだから。


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