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第60話 悟り



 その日の放課後、俺は球技大会実行委員会が集まっている教室へと急いで向かう。






 明日にはもう球技大会の開催が予定されている。今回の球技大会は例年と比べても類を見ない盛り上がりを見せる事になるだろう。それを支える球技大会実行委員の士気も高い。よって前日も盛り上げる為の準備や最後の調整に大忙しとなる。




 だが、俺はと言えば、その最後の委員会には出席できない。




 俺には今、やらないといけない事があるからだ。




「実葉!」


 俺は廊下の先にいる球技大会実行委員の実葉に声を掛ける。既に教室にいなかった実葉は、先んじて委員会へと向かっていたらしい。




「……円城瓦さんですか」




「ああ、悪い! 今日なんだが――――」






「分かっていますよ……今日は球技大会実行委員には出席出来ないんでしょう?」




「どうして、それを?」




「ふふ、分かりますよ。そりゃあ。他ならぬ貴方の事ですから」


 


 実葉は苦笑しながら、言う。




「あの、麗佳詩羽さんを助けるつもりなんでしょう?」




「……分かるのか?」




「何となく、ですけれどね」


 実葉は恐らく麗佳との直接の関わりはない。バトルロイヤルで争っていた時も、麗佳はその時静観を決め込んでいた。


 ただし、視聴覚室での戦いの時に実葉は麗佳が来ているのを目撃している。その時に俺との関係性はおおよそ察しているのだろう。



「きっと麗佳さんはバトルロイヤルに勝つ為にわざと炎上している……違いますか?」




「…………そうだよ。麗佳は、あいつは……何も悪くない」


 その時、プツンと我慢していた気持ちが切れてしまう。




「あいつは……あいつは! 何にもしていないのに、言われもない非難を浴び続けている……。くっそ、なんだって……ッ、みんな好き勝手言いやがって! テメェらに麗佳詩羽の何が分かるってんだ! 裏切った? そんな奴だと思わなかった? ふざけんな! 大して知りもしない癖に! 畜生! ……畜生」




 ずっと……ずっとこうやって噂を否定してやりたかった。




 しかし、誰もそんな俺の声になど耳を貸さない。




 彼らにとって真実など然程関係はない。騒ぎたいだけなのだ。意味などない。




「あ、いや…………すまん」


 俺は突然、声を荒げた事を実葉に謝る。俺が腹を立てているのは事実に相違ないが、そんな事は実葉に関係のない事だ。彼女がそんな事を言う人物でない事は分かりきっているのだから。




「そんな……大丈夫ですよ」


 実葉はそう言って微笑む。




 そして、


「……ええ、円城瓦さんはやっぱり、そうですよね」


 実葉は小さく、納得するかのように呟いた。




「円城瓦さんはいつも、いつだってそうです。困っている人を放っておけない。そういう人だって私は知っていましたから、今日もそうするだろうって思っておりました」




「いや、助けるって訳じゃあ……」


 少なくとも俺は理不尽が許せないだけ。




 そんな気持ちがあるから。少なくとも俺は俺のエゴで、麗佳から『炎上』を取り返す。




 ただ、それだけの事をしようとしているだけだ。




「だから、今日は行ってください。実行委員へは私から報告を行っておきますから」




「悪い、実葉。色々と良くしてくれて」




「いえ、私はそういう円城瓦さんが好きですから」




「ありがとう、実葉」




 そんな実葉に礼を言った後、俺は彼女に背を向けて走り出す。




「そうですよね。貴方はきっと……もう……。だから、お二人の邪魔はしたくありませんから」




 実葉のそんな言葉が聞こえた気がしたが、俺はその言葉の真意を確かめる為に、振り返る事はできなかった。

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