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第51話 神域


「そして、初めて外に出た私にとっては、物珍しいものばかりで。気づけば隣村辺りまで来てしまっていたようです。そこの大人達に私は保護されました。隣村は私の暮らす村ほど隔絶されてはおりませんでしたが、そこもそれなりの限界集落でした。少なくとも村の子供達全員を把握している程度には」




 そこからはあれよあれよと言う間の事であったらしい。




 隣村で見知らぬ子供として保護された天城は、駐在の調べによって戸籍すらない事が発覚。さらに何も知らぬ幼い天城の証言により、その隠匿されていた境遇が次々と暴かれていったとの事だった。






「私が見つかる前から私の母を教祖とした宗教集団は幾つもの問題を抱えていたようです。村全体を巣食う宗教により政治を掌握していた母は人には言えない事を幾つも抱えていたようですし。そんな中で問題となる『証拠』が見つかってしまった事により警察に介入され、一気に瓦解まで追い込まれました」




 そして、天城の母は逮捕され、刑務所への服役が決定。天城は遠縁の親戚へと身元が引き受けられる事となった。




 この事件は当時の新聞やテレビでも大きく取り上げられたが、天城麗の名前自体は表に出なかった。勿論、子供に対する配慮もあったのだろうが、当時は天城麗という名前自体がそもそも存在していなかったのだ。






「母が勾留された時、言われたのです。『貴方は皆のために尽くせない"人"だったのね』と。無論、周囲から見ればそれは母の負け惜しみとでも申しますか、言わば戯言の一種です。しかし、私にとっては人生を決定づけた衝撃的な一言でした」




 それからと言うもの、天城は自己犠牲による奉仕を人生の主軸としてしまった。自分よりもまず他人。それが彼女の芯になったのだ。






「最早これは癖と申しますか、意識しても変えられるモノではありません。言い換えれば母の願った生き神としての生き方を、社会で実現しようとしているのでしょうか。私は心理学はそれほど齧ってはおりませんので、深い事は分からないのですけれど」




「……それが俺に対する共感と尊敬にどう繋がるんだ?」




「分かりませんか?」


 天城はそう問いかけ、やがて言葉を続けた。




「私の母が捉えられ、宗教が瓦解した事件。これはショッキングなニュースとして広く取り上げられました。これは貴方の言葉で言うところの『炎上』、そうは捉えられませんか?」




「炎上……どうだろうな」


 この事件と、炎上。これを同一視して良いとは思わない。




 だが、天城の意見ではどうやら似通ったものであるらしい。




「炎上の後の生き方。各々違うとは思いますが、共通するのは生き方に影響を及ぼすものだと思います。それほどに根深く、大きい。だからこそ人は炎上を避ける。人々の悪意が集約され、下手な神輿に担がれる事を恐れる。けれど太一さん、貴方は違います。"あの一件"を経験して尚、炎上する事を恐れず、それどころか武器に変えてきた。その心の強さに共感を覚えると共に、尊敬にすら達した。だから私は太一さん、貴方を買っているのです」




「…………」


 買い被り、だとは思う。




 これを称賛として受け取るのは違うと思う。いや、好意や称賛を受け取るのも大事だと俺は以前に学んだが、これはやはり買い被りではないのだろうか。




 とは言え、かつての経験により天城は俺を特別視している。それだけは事実に相違ない。






「私は人から求められる事が存在理由だと思っています。その相手が人だろうが、神だろうが私にとっては些細な事に過ぎません。だからバトルロイヤルで神の助けとなるのであれば進んで身を犠牲にしましょう。大義を成しましょう。太一さん、私は貴方とならかつて無い程、私の人生の目的を達せられる。そう思っているのです」




「…………」


 改めて、俺はこの少女を化物だとそう思った。






 言うなればこいつは生きながらにしてフォロワーを求める存在だ。




 生き方そのものが信奉を集めるような人間。


 バトルロイヤルのルールは、彼女そのものなのだ。




 それはもう神の領域に足を踏み入れているのではなかろうか。




 こんな奴に……俺は勝てるのか?






「それでは用事も済ませましたし、夜も遅い。ここでお開きに致しましょうか。……太一さん、最後に一つだけ申し上げておきます」




 ――――貴方なら私の生き方を超えられる。






 確かに天城は俺にそう言った。






「それでは、帰りましょうか」


 二人してそれぞれの会計を済ませ、ファミレスの外へと出る。




 そして別れ際、俺は天城に確認する。






「ところでお前、家はどこだ?」




「家ですか、ここから幾つか駅離れたところですね」


 その返答に俺は詳しく場所を訪ね、地名を聞き出す。思ったより遠かった。




「……どうやって帰るつもりなんだ?」




「勿論、歩いて帰りますが」


 天城は即答する。間違いなく五時間は掛かると思うが……。




「電車賃、やるから電車乗って帰れ」


 遠慮する天城に対して、俺は無理やり電車賃を握らせた。




「太一さんはお人好しですね」




「いや、これはしょうがないと言うか……」




 いや、何だろうこいつ化物レベルの思考形態しているのは間違い無いのだけれど、放っておけない感じがある。……つうか、放っておいたら普通に歩いて帰るだろうし、こいつ。馬鹿か?




「このご恩は忘れません。ただし、来週は一切手加減しませんので」




「いや、少しは手心加えても良いんじゃない?」




 庇護欲まで備えたこの完全無欠の生徒会長に対して、俺は一体何が出来るのだろう。




 それを俺は明日、麗佳と一緒に考えないといけないのだった。



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